人に話しかけられたときや人前で発表しなければならないときなどに、どうしても言葉が出てこなくて困ったことがある人も多いのではないでしょうか。言葉に詰まる原因はさまざまですが、代表的な原因のひとつとして吃音症が挙げられます。
この記事では、言葉がスムーズに出てこない吃音症について解説します。吃音症の種類や治療法、吃音症の方が働くうえでの工夫や対処法などを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
言葉に詰まる原因とは?どんな病気がある?
「話したいと思っているのに言葉が出てこない」という症状には、さまざまな原因が考えられます。代表的な原因のひとつは、冒頭で紹介した吃音症です。
吃音症以外の原因としては、自閉スペクトラム症(ASD)が挙げられます。ASDの方は話しかけられた内容を頭の中で処理し、自分が話すことを考えるまでに時間がかかることがあります。その場で状況を判断する知覚統合という能力が低い傾向にあり、これも言葉に詰まる原因です。また、緊張する場所や慣れていない場所など、特定の場面で言葉が詰まることもあります。
思うように話せないと「吃音症なのでは」と考える人が多いかもしれません。しかし、ASDなど他に原因がある可能性もあります。今回は吃音症について解説しますが、自己判断で決めつけないことが大切です。
吃音症とは?
吃音症とは、話すときに言葉がスムーズに出てこない状態になる発話障害の一つです。「お、お、おはよう」のように最初の音を繰り返したり、「おーーはよう」と引き伸ばしたり、「……っおはよう」と発話の出だしで詰まってしまったりする症状が見られます。
吃音症の9割を占める「発達性吃音症」は2歳から4歳のときの発症が多いとされ、その多くが成長とともに自然に治る傾向にあります。ただ、大人になっても約100人に1人は吃音の症状が続くといわれており、日常生活や仕事の中で支障を感じているケースも少なくありません。
大人の吃音症
大人でも吃音症の症状に悩む人は多くいます。大人の場合は、職場での会話や電話応対、プレゼンテーションなど、話すことが求められる場面で緊張や不安から症状が強く出る傾向があります。また、仕事のストレスなどから「獲得性吃音」を発症するケースもしばしばです。
また、大人になると「どもらないようにしなければ」という意識が強まり、言葉の置き換えや会話の回避といった工夫を無意識に行うようになる場合もあります。これにより吃音が目立たなくなることもありますが、内面的には大きな負担を抱えていることも少なくありません。
吃音症の特徴と症状
吃音症の症状は、繰り返し・引き伸ばし・ブロックの主に3種類です。それぞれ次のような特徴があります。
- 繰り返し:「お、お、おはよう」のように最初の音を繰り返してしまう症状
- 引き伸ばし:「おーーーはよう」のように最初の音が伸びてしまう症状
- ブロック:「……っおはよう」のように最初の音がなかなか発せない症状
加えて、上記のような症状が出ないように意識することで、次のような言動が生じるケースもあります。
- 助走:「えーと、あのー」のように話し始めに意味のない言葉が入ってしまう
- 置き換え:言いたい単語とは別の単語に言い変えてしまう
- 回避:話すことをやめる、もしくは話す場所に行くのをやめてしまう
いずれかの症状しか出ない人もいれば、複数の症状が併発する人もいます。また、上記のような話し方に関する症状に加えて、身体の一部が力んだり手足が動いてしまったりすることもあります。
吃音症の症状が出やすい場面とは?
吃音症の症状は、精神的なプレッシャーや緊張がある場面で出やすくなると考えられています。
例えば、苦手な言葉を発さなければならないときや、周囲の目が気になるときは、吃音症の症状が出やすくなる人が多いでしょう。不安を感じたときや、「どもりたくない」と吃音を強く意識してしまったときにも症状が出やすくなります。
また、大勢の人の前で話さなければならない場面や電話での会話が苦手だという人も少なくありません。
吃音症の種類と原因
吃音症は、「発達性吃音」と「獲得性吃音」の2種類があります。ここでは、吃音症の種類と原因について詳しく見ていきましょう。
発達性吃音
発達性吃音は2〜4歳ごろに発症することが多い吃音症で、成長とともに症状が解消する人も少なくありません。吃音症の9割は、この発達性吃音に分類されます。
発達性吃音の原因は明確にはわかっていませんが、考えられる原因として次の3つが挙げられます。
- 体質的(遺伝的)要因:本人の体質によるもの
- 発達的要因は:身体や認知などの急激な発達によるもの
- 環境要因:周囲の人との関係やこれまでの体験によるもの
獲得性吃音
獲得性吃音は特定の原因によって発症する吃音症で、「獲得性神経原性吃音」と「獲得性心因性吃音」の2種類があります。
獲得性神経原性吃音は、脳卒中や認知症といった脳や神経の病気、頭のケガや薬物の使用などが原因となる吃音症です。事故で頭を打った人や薬物中毒の人に吃音の症状が現れた場合、獲得性神経原性吃音に該当します。
一方、獲得性心因性吃音はストレスやトラウマによって発症する吃音です。ストレスやトラウマの原因となった事象に似ている場面で、吃音の症状が出やすいと言われています。
発達障害との関係性
吃音症は、医学的には「小児期発症流暢症(吃音)」と呼ばれ、アメリカ精神医学会が定める「DSM-5-TR」において神経発達症(発達障害*)の一つとして分類されています。成人後に発症した場合は「成人期発症の流暢症」という診断名がつく場合があります。
また、吃音症は半数以上がASD(自閉スペクトラム症)など、他の精神疾患と併存があるといわれています。現段階で併存がない場合でも、吃音症により話すことが苦手、恥ずかしいといったストレスを抱えている場合、二次障害に注意が必要です。二次障害とは、発達障害の特性により後天的に他の精神疾患を発症することをいいます。
発達障害の二次障害については、以下の記事で詳しく解説しているので併せてご覧ください。
吃音症の治療方法は?
吃音症は、医療機関で診断が受けられます。具体的には精神科・心療内科・耳鼻咽喉科などで診断が受けられますが、「これらの科ならすべての医療機関で吃音の診断が受けられる」とは言い切れないので注意してください。まずは、近隣の地域に吃音症について詳しい医療機関がないか調べてみましょう。
吃音症に確立された治療法はありませんが、言語聴覚士による指導・支援によって症状を和らげられる可能性があります。言語聴覚士による指導・支援は耳鼻咽喉科やリハビリテーション科で受けられますが、すべての医療機関が対応しているわけではありません。吃音症の治療が受けられるかどうかは、事前に問い合わせが必要です。
ただし、吃音を治さなければと強く意識しすぎると、かえって症状が悪化することもあります。治療や支援を行う際は、本人にとって負担にならないこと、そして「少しでも話しやすくなりたい」「自分らしく伝えたい」といった前向きな動機があることが大切です。焦らず自分のペースで取り組むことが、改善への一歩となるでしょう。
年齢に応じて変化する吃音症の特徴
吃音症の特徴は、年齢に応じて変化するといわれています。ここでは、「幼児期」「学童期〜思春期」「成人期」で見られる吃音症の特徴について、それぞれ紹介します。
幼児期
2歳から4歳ごろの幼児期の吃音症には、繰り返しや引き伸ばしの症状がよく見られます。多くの幼児にはスムーズに言葉が出にくい症状が見られ、幼児期の2〜5%が吃音症を発症するともいわれています。また、幼児期の吃音症は、成長とともに自然と症状がなくなるケースも少なくありません。
学童期〜思春期
学童期とは、6歳から12歳ごろの小学校に通う年齢のことです。この時期の吃音症は、ブロックの症状が多く見られるのが特徴です。また、スムーズに話すために置き換えなどの工夫が始まる時期でもあります。
思春期は、12歳から18歳ごろの年齢層です。学童期に身につけた工夫により、一見すると吃音の症状が出ていないように見える人もいます。また、置き換えに加えて、回避行動を取る人も多く見られる年齢です。
成人期
成人期とは、18歳以上の年齢を指します。幼児期に発症した吃音症は成長とともに症状がなくなるケースが多いものの、成人期の1%の人には吃音の症状が残るといわれています。
成人期でも思春期と同様に回避行動を取る人が多くいますが、働き始めると回避が難しい場面も少なくありません。そのため、後述する「吃音症の方ができる仕事での工夫や対処法」で紹介するような対応が必要になるケースが多くあります。
吃音症のある方が仕事でできる工夫や対処法
吃音症があることで、仕事に支障を感じる人も多いでしょう。吃音症を抱えながら仕事に取り組むには、工夫や対処法を知っておくことが大切です。
ここでは、吃音症の方ができる仕事での工夫や対処法を紹介するので、ぜひ実践してみてください。
話すことにこだわり過ぎない
吃音症があると、「うまく話せないかもしれない」と考えてしまいがちです。吃音症を意識しすぎると、緊張によってかえって症状が強く出ることがあるため、話すことにこだわり過ぎないようにしましょう。
「うまく話す」のではなく、「相手に伝える」ことを意識してみてください。会話への緊張が和らぎ、話しやすくなる可能性があります。会話にジェスチャーを交えたり、会話のあとでメールなど文章で補足したりするのもおすすめです。どうしても言葉が出ないときは、筆談を依頼するという方法もあります。
仕事上の配慮や環境調整
吃音症により仕事に支障が出ている場合は、会社に合理的配慮を求めるのも一つの方法です。合理的配慮とは、事業者が障害のある方に対して、本人の申し出に応じて職場環境や業務内容などを調整することです。障害者差別解消法に基づいて定められており、事業者の負担が重すぎない範囲で対応を求められます。
吃音症に対する具体的な合理的配慮の例としては、以下のようなものがあります
- 電話応対など言葉に強く依存する業務を避ける
- プレゼンや会議の場で発言を強制せず、事前共有や筆記での参加を認める
- 話すペースを尊重し、急かさずに待つように周知する
- 静かな作業環境や個室など、心理的負担を軽減する環境を用意する
なお、配慮の内容は一律ではなく、本人の希望や職場環境に応じて調整していきます。本人が「こういう配慮があると働きやすい」と具体的に伝えることも重要ですが、それと同時に、上司や人事が合理的配慮の考え方を理解し、積極的に対話を重ねる姿勢も求められます。
吃音について周囲に伝える方法
吃音症について周囲の人に伝え、業務内容やコミュニケーション方法を変えてもらうなど、働く環境を調整する方法もあります。「どのようなときに症状が出やすいのか」「どのような配慮があると働きやすいか」など具体的なポイントを伝えることで、周囲の理解が得やすくなります。
ただし、吃音についてあまり人に知られたくないという人もいるでしょう。話しやすい上司や同僚がいるなら、まずはその人に相談してみてください。上司や同僚に相談しづらい場合は、産業医や社内カウンセラーなどの窓口を活用するのがおすすめです。
吃音症への対応は、「スムーズに話せなくても言い終わるまで待つ」「言葉を勝手に補足しない」「順番に発言できるような安心できる環境を整える」など、周囲の人が意識すべきポイントも多くあります。周囲の人に適した対応をとってもらえるよう、協力を依頼してみましょう。
人前で話す練習
吃音の症状は、特に人前で話す場面や注目を浴びる場面で強く出やすいといわれています。これは、精神的なプレッシャーや緊張が症状を引き起こす一因となるためです。
プレッシャーや緊張を和らげるために、日頃から人前で話す練習を重ねておきましょう。少しずつ状況に慣れていくことで緊張を感じにくくなり、吃音の症状が出にくくなる可能性があります。
練習でスムーズに話せるようになると、成功体験を得て自信がつくというメリットもあります。吃音症の方が働く際には、こうした練習や成功体験の積み重ねも有効な対策のひとつです。
公的支援の利用
吃音症は発達障害者支援法に基づく支援の対象になっているため、各種支援が受けられます。就労に関する支援制度である、障害者雇用や就労移行支援などの活用を検討してみましょう。
障害者雇用は企業に対して一定割合以上の障害者を雇用するよう定める制度で、障害者手帳を持っていれば障害者雇用枠の求人に応募できます。障害を持つ方の雇用を前提としているため、それぞれの特性に応じた配慮や理解を得やすい職場で働けるのがメリットです。
就労移行支援は、障害のある方が一般企業への就職を目指すときに利用できる支援サービスで、就職に必要なスキルを習得するための訓練や就職活動のサポートなどが受けられます。
これから仕事を探したいという人は、これら支援制度を活用してみてはいかがでしょうか。
吃音症の人に対して周囲の人ができる対応や配慮とは
吃音症の人と会話をする際に周囲の人が心がけるべきことは、まず「最後までゆっくり聞くこと」です。吃音症の人が話し終わるのを待たずに話し方を指示したり、言いたいことを先取りしてしまったりすると、相手の自信を損ねることにつながりかねません。相手が話している間は、途中で言葉を遮らずに落ち着いて聞く姿勢が大切です。
また、「ゆっくりでいいよ」「焦らないで」などの声かけも逆効果になる場合があります。吃音症の人は焦っているのではなく、言葉に詰まるという症状が出ているだけです。そのため、励ましのつもりの声かけも、かえってプレッシャーを感じさせる可能性があります。
ただし、「最後まで話を聞いてほしい」「言葉に詰まったら助け舟を出してほしい」「筆談に切り替えたい」など、考え方や要望は人それぞれです。相手との関係性を築き、要望を聞きながらの対応が求められます。
吃音症は適切な理解と対応が大切
吃音症に悩んでいる方は、ひとりで抱え込まずに周囲や専門機関に相談してみましょう。職場での悩みや不安は、上司や同僚、産業医などに話すことで解決策が見つかる可能性があります。
これから就職を目指す方は、障害者雇用や就労移行支援など就労に関する支援制度の活用がおすすめです。適切な支援を受けながら、自分らしく働ける職場を探しましょう。
就労移行支援を利用したいと考えている方は、ぜひKaienにご相談ください。Kaienでは発達障害の強みを活かした就労移行支援を実施していて、多様な業界への就職実績があります。見学・個別相談会も実施しているので、わからないことや不安なことがある方はぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群といわれます。
監修者コメント
吃音症に関して、医師として正直に言えば、ほとんどの医師は専門的知識を持っていません。関心のある医師が科を問わず診ていることが多いので、医療にかかりたい場合にはホームページで、居住地域で吃音を診ていると謳っている医療機関にアプローチすると良いでしょう。勿論身近な小児科、耳鼻科、脳神経内科や精神科に相談するもの1つです。ただし、例えば、精神科単独では本来治療的アプローチをしようとしても足りない部分があります。吃音があるとどうしても対人場面で不安が生じ、それがさらに吃音を増し、というような場合であれば、ある種の薬剤や認知行動療法を役立つかもしれません。でも、言葉を発する構造的/器質的問題のあることもあり、その評価をしてくれる病院や、経験豊富な言語聴覚士の勤めている病院受診を検討して欲しいのです。その上で、吃音を無くすことを目標にするのではなく、どうすると生活しやすくなるか、生きやすくなるかの対策を医療者と一緒に考えていけることが望ましいと考えます。尚、随分前になりますが、私は言友会という当事者会の方とお話したことがあり、とても勉強になりました。言友会は各県に支部がありますので、一度連絡を入れてはいかがでしょうか。居住地域の医療情報を得たり、当事者の方でないとわからない工夫や生き方を聞いてみるのは有益でしょう。一人だけ、家族だけで頑張るのではなく、体験を共有できる先達と話してみることをお勧めします。

監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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