発達障害のある方の進学進路 「高卒で就職か?大学・専門学校に進学か?」

どちらが有利になるのか?特に大都市圏での考えをまとめました
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深刻化する労働者不足 高卒・大卒者の就職内定率はいずれも95%超

 厚労省の 平成27年度(2015年度)調査blank によると、高校生の就職内定率は99.1%と前年比0.3ポイント上昇し、平成3年以来25年ぶりの水準です。この統計は発達障害*のあるなしに関係のないすべての高校生に関する統計であることに注意する必要はありますが非常に高い数字であるのは明らかです。

 別の 厚労省の調査blank によると大卒者の内定率も97.3%と高い数字です。しかし、高卒と大卒の差はわずかであるうえに数字上は高卒者のほうが上回っており、単に就職をするためだけに大学に行くということはそれほど意味を持たなくなりつつあると言えます。それほどまでに今の日本は働き手が不足しています

 それでは発達障害のある学生にとって高卒で働くことが良いのかどうか?それは一概には言えません。そもそもご家庭の経済状況によって進学を諦めざるを得ないこともあるでしょう。しかし、ここでは経済的には大きな課題はないケースを前提に、高卒で就職を目指すべきか、大学進学を考えるべきかを、いくつかポイントを挙げ、検討していきます

大都市圏に住んでいるかどうか?

 まず重要なのはどこに住んでいるかということです。大都市以外ではまだ高卒での就職が一般的であり、地域で一緒に育った子どもたちも多くが高卒で就職をする環境です。この中では発達障害のあるお子さんも高卒で就職を目指すことに違和感はないでしょう。かつ大学など高等教育機関もごくごく限られており、進学しようにも選択肢が乏しいのが実際です。

 一方で大都市圏では高卒で就職をする人は少なめ。かつ様々な大学・専門学校が存在します。一緒に育ってきたお友達も多くが進学されるでしょう。こういった環境の中で人と違う道を進むのは、親子ともどもそれなりに勇気のいることです。小さいうちから相当の覚悟で「高卒で就職をさせる」という判断を下していない限りは、大学や専門学校に進学させることが多くなるでしょう。

知的障害があるかどうか?

 今では大学全入時代になりましたので、実は知的障害があっても大学に進学できるようになりました。実際大学関係者にお話を聞いても、また当社の大学生向けのプログラム(ガクプロ)を利用する方の知的検査の結果を聞いても、相当の数の知的障害の方が大学に通っています。

 しかし履修登録で苦労をしたり、グループワークで発言がかみ合わなかったり、レポートの作成に大きな困難を感じたりするなど、大学のレベルについていくのに厳しい状況に置かれることは多いと言えます。知的障害がある場合は、学問に対する適性があったり学ぶことが好きである場合を除いて、進学よりも就職を目指した方が、ご本人のその後幸せに生きる可能性は高まる、と当社では考えています。

 ただし、繰り返しになりますが、知的障害の人でも入学できる大学は多くありますし、そこでご本人が充実感を得られるケースも多数みています。就職のためというよりも、ご本人の社会性向上のためや豊かな人生を過ごすために進学されることは、知的障害があってもなくても、好ましい考え方でしょう。

 なお、知的障害の人が18歳で就職を目指すことが多い理由はもう一つあります。それは就職支援が非常に充実している特別支援学校や高等養護学校(※)に通うお子さんが多いからです。知的障害がないと、なかなか特別支援学校の高等部には通おうとしないですし、実際入学できない場合が多いでしょう。知的障害があまり見られない場合でも、何とかして特別支援学校(あるいは高等養護学校)に通わせようという親御さんが多いのは、特別支援学校等が就職に非常に強いということがあります。

※ 特別支援学校 高等部 … 障害児が通う、一般で言う高校にあたる学校のことを言う。
※ 高等養護学校 … 通常の特別支援学校には小・中・高とあるが、高等養護は高等部のみしかない学校のことを言う。

 つまり学力的に厳しさがあるという消極的な理由と、就職サポートが手厚い特別支援学校等に入ることも出来るという積極的理由から、知的障害のある人の場合は18歳の段階での就職を目指す方が多いということになるでしょう。

大学生・専門学校生向け 発達障害の特性を活かした就職支援

プラス2~3万円の月給UPが見込めるかどうか?

 今度は純粋に経済的に見てみましょう。学力に凸凹のあるお子さんが多い発達障害児の場合、私立大学に進学するケースが一般的と言えます。それを前提に、進学するといくらかかるのか、高卒後すぐに働き始める場合と比較して考えてみましょう

進学する場合と、すぐに働いた場合の差は 1120万円

仮定 1)私立大学の学費・経費を総額100万円/年とする
仮定 2)高卒で働いていれば稼げたはずの額を月給15万円とする

  • 大学にかかる経費 100万円×4年=400万円
  • 稼げたはずの給与 15万円×12ヵ月×4年=720万円

 つまり、4年間で1100万円の意味が進学することで得られないと経済合理性はありません。また留年する率も高いのが発達障害のあるお子様の現状ですので、それによっては1200万円、1300万円と負担が増えることが考えられます

40年間働くことが出来るとすると…

大学に行って稼げる額が月1万円増になる(つまり月給16万円になる)
 月給の差 1万円×12ヵ月×40年=480万円

大学に行って稼げる額が月2万円増になる(つまり月給17万円になる)
 月給の差 2万円×12ヵ月×40年=960万円

大学に行って稼げる額が月3万円増になる(つまり月給18万円になる)
 月給の差 3万円×12ヵ月×40年=1440万円

 これらの計算からわかる通り、(税金・年金など複雑な計算を抜きにした)単純計算だけで考えると、月給が2~3万円上がる力が大学で得られるかどうかが、進学するかしないかを経済的に判断するうえでの基準になることがわかります。現実問題、これだけの稼ぎの力が上がることは稀であると言えますので、経済合理性だけで進学を目指すのではなく、それ以外の価値(社会性を高める、教養を高める、それらによって豊かな人生を送る)を大学の4年間に求める必要があるでしょう。

最後に

 進学か就職かを決める中では、ご家族やご本人の人生観が大きく影響します。ご本人が15・16歳の時までにどのような人生設計を作れるか、上手に考え方をサポートしてあげるのが親の役割ということになります。もちろん想像が苦手な発達障害の傾向のあるお子さんの場合はゼロから将来を考えるのは至難の業です。選択肢とメリット・デメリットを保護者の方が用意し、そこからご本人が選ぶような形にするのが良いのではないでしょうか。

 また、大学に進学しないとそもそも就けない仕事も技術・専門職を中心に多数あります。最終的に経済的に損をしたとしても、納得感を大事に人生の選択をすることは重要です。早いうちから親子で話し合うことを強くお勧めします

本当に就職できるの?適職がわかるの? 発達障害の特性に適した就活をご説明します

 

※Kaienでは、職業訓練や求人紹介を通じて適職を一緒に探す「就労移行支援」や、自立に向けた基礎力を養う「自立訓練(生活訓練)」、学生向けの「ガクプロ」などを通じて、発達障害やグレーゾーンの方の就労支援を行っています。「ガクプロ」には知的障害もある発達障害・グレーゾーンの学生が多数所属していますし、進学しない場合はまず「自立訓練(生活訓練)」に所属し学校や家庭で学び漏れた自立へのスキルを習得している方が多くいます。


監修者コメント

発達障害の患者さんで、大学生から社会人になった途端、気持ちが明るくなった方も多く知っています。その人の場合、大学というシステムが合わなくても、会社というシステムの方が合っていたんです。

将来賃金的にもそこまで差がないなら、学歴にこだわる必要はあまりないように思います。人は我慢強い動物ですが、だからといってわざわざ苦しむ道を選ぶ必要はありません。生きやすい道を選ぶのが良いです。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修 : 益田 裕介 (医師)

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