【セミナー解説】発達障害者支援法 制定までの物語

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発達障害者支援法が制定されてから、2024年で20年となります。これを受けてKaienでは、「ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024」の第一弾として2024年1月1日にオンラインイベントを開催しました。

本記事では、「発達障害者支援法 制定までの物語」をテーマに、医師であり、元衆議院議員の福島豊(ふくしま・ゆたか)先生にお話しいただいた内容を紹介します。福島先生は発達障害者支援法の制定当時、発達障害*の支援を考える議員連盟の事務局長として、法律の制定に関わっていました。

発達障害者支援法の概要や成立過程、法律制定時の課題などを詳しくまとめているので、ぜひご覧ください。

2024年1月1日開催のオンラインセミナー「発達障害者支援法 制定までの物語 (講師:福島豊 医師・元衆議院議員発達障害の支援を考える議員連盟 事務局長(制定当時)) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら

発達障害者支援法とは

発達障害者支援法が制定されるまでは発達障害について明確に定義した法律がなく、国や自治体が十分に支援できていない状況がありました。このような状況を解消するために定められたのが、発達障害者支援法です。

ここでは、発達障害者支援法で発達障害がどのように定義されているのかと、この法律の役割について紹介します。

発達障害者支援法における発達障害の定義

発達障害者支援法では、発達障害を以下のように定義しています。

『自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。』

「政令で定めるもの」という言い回しは、「学問の進歩によって今後変化することが見込まれるものに対して柔軟に対応するために使われている」と福島先生は解説しています。

発達障害者支援法の役割

発達障害者支援法には、大きく以下の3つの役割があります。

  • 発達障害の定義と法的な位置づけの確立
  • 地域で支援体制を整えるうえでの法的根拠
  • 発達障害への啓発を進めて子育てへの不安を軽減

発達障害者支援法が制定されるまでは、発達障害のある人を支援するための法律はありませんでした。そこで、従来の法制度で谷間に置かれていた発達障害の定義と法的な位置づけを確立させることが、発達障害者支援法の大きな役割のひとつです。

加えて、それぞれの自治体で発達障害を持つ人への支援体制を整えるには法的基盤が必要で、発達障害者支援法はどのような支援を行うべきかを検討する法的根拠の役割もあります。

また、発達障害者支援法が制定された当時は、まだ発達障害に対する周知や理解が十分に広がっていませんでした。そのため、法律を作ることで啓発を進め、子育てに対する不安を軽減するという目的もあります。

日本の障害者福祉の歴史

発達障害者支援法が制定された理由を解説するには、まず日本の障害者福祉の歴史を振り返る必要があると福島先生は言います。

日本で最初に成立した障害者福祉に関する法律は身体障害者を対象としたもので、戦争で負傷した傷痍軍人の支援が目的です。これは一般の国民は対象ではありませんでしたが、戦後1949年には一般の国民も対象とする身体障害者福祉法が制定されました。

知的障害者を対象とする法律は、1947年に児童福祉法、1960年に精神薄弱者福祉法が制定されています。

精神障害に関しては、1987年に精神保健法で初めて「精神障害者への福祉の増進」が規定されました。その後、1993年の障害者基本法によって、身体障害・知的障害・精神障害の3障害が法律で規定されています。

このように、長い時間をかけて障害者福祉の対象が拡大されてきた一方で、それ以外の障害に対する支援は十分に確立されていませんでした。

発達障害をめぐる状況

発達障害者支援法が制定される以前、以下のようなものは障害の範疇として認識されていませんでした。

  • 境界知能(IQ70から84)
  • 広汎性発達障害
  • 学習障害
  • 注意欠陥多動性障害
  • 発達性言語障害
  • 発達性協調運動障害

これらは、「支援が必要であるにもかかわらず支援の対象になっていない」という状況にあったのです。

2004年障害者基本法改正における附帯決議

法律で定める障害者福祉の対象範囲が狭かった時代、てんかんや自閉症などを抱える人は、障害者の対象を拡大するよう国に繰り返し要請していました。このような関係者からの働きかけを受けて、2004年の障害者基本法改正における付帯決議では以下のとおり定められています。

『「障害者」の定義については、「障害」に関する医学的知見の向上等について常に留意し、適宜必要な見直しを行うよう努めること。』

また、てんかんや自閉症、その他の発達障害や難病についても障害者の範囲に含め、必要な施策を推進するよう努めることも明記されました。

ただし、福島先生は「障害者の定義が十分に拡張されていないことが認識されたひとつの証である一方で、行政を動かすうえで付帯決議には法律ほどの推進力はないと言わざるを得ない」と言及しています。

障害者福祉に関する国の取り組み

障害者福祉については法整備が十分に追いついていませんでしたが、行政もそれを認識していなかったわけではありません。ここでは、障害者福祉に関する厚生労働省と文部科学省のそれぞれの取り組みを紹介します。

厚生労働省の取り組み

厚生労働省は、まず2002年3月に母子保健のなかで「ADHD、LD、高機能自閉症児の保健指導手引書」を作成しました。診断・治療の範囲では、2002年度に作成された「注意欠陥/多動性障害-AD/HDの診断・治療のガイドライン」の作成において国も支援を行っています。

療育においては、第1種自閉症児施設(医療型)が4カ所、第2種自閉症児施設(福祉型)が3カ所整備されました。ただし、これらは数が非常に少なく、必要なニーズがカバーできているわけではないと福島先生は言います。

自閉症・発達障害支援センターは2002年度から整備が進み、2024年1月時点で20カ所存在します。

文部科学省の取り組み

文部科学省では、1999年以降に各種指導の通知やモデル事業を行っています。具体的には、以下のような取り組みがあります。

  • 学習障害児に対する指導について(1999年7月)
  • LD/ADHD/高機能自閉症に関する全国実態調査の発表(2002年10月)
  • 特別支援教育推進体制モデル事業(2003年度〜)
  • LD・ADHD・高機能自閉症児担当指導者養成研修(2003年度〜) など

福島先生は、「これらの取り組みが進められていたことからわかるとおり、法律だけが宙に浮いた形で検討が進められたわけではなく、背景には関係者の方々や厚生労働省、文部科学省の職員の方々の意識と努力がある」と解説しています。

障害者福祉法制をめぐる状況

発達障害者支援法が制定された当時、障害者福祉そのものが大きな転換期にありました。障害者福祉予算が、裁量的経費から義務的経費に転換されたのです。

裁量的経費とは、あらかじめ決められた予算のなかで取り組みを行うものです。一方、義務的経費は、ニーズに応じて予算が拡充されるようになっています。ニーズが高まって予算が足りなくなった場合には、政府が補正予算を組んでカバーしなければなりません。

障害者福祉予算が義務的経費に転換された結果、障害者福祉サービスのニーズに基づいた拡大を実現できました。

発達障害者支援法の成立過程

以下のような過程を経て、発達障害者支援法は成立しました。

  • 2004年5月19日 発達障害の支援を考える議員連盟の設立
  • 2004年6月15日 発達障害者支援法案取りまとめ
  • 2004年11月19日 発達障害者支援法案提出
  • 2004年12月3日 参議院で可決され成立

上記のとおり、発達障害者支援法は約半年という短い期間で成立していることがわかります。これは、厚生労働省・文部科学省合同の勉強会を開催して法律の土台を作りながら、具体的な施策の取りまとめと予算につなげる活動の両輪を動かした結果だと福島先生は解説しています。

ライフステージにおける発達障支援と支援体制

ライフステージにおける発達障害者支援も必要という考えから、0歳から20歳まで年齢に応じた適切な支援が受けられるような仕組みづくりが進められています。

まず、小学校に入学する前の段階では、小児科医や児童福祉施設などで早期発見および早期の発達支援、専門的発達支援に取り組みます。小学校・中学校に入学してからは、特別支援教育と放課後・夏休みの支援が必要です。

学校を卒業してからの支援としては、企業・職業紹介によって適切な就労機会の確保に取り組み、グループホーム等では地域における自立した生活の支援も求められます。

発達障害支援の拡大とその後の流れ

発達障害者支援法は2004年12月に成立し、翌年4月に施行されました。その後、2006年6月には厚生労働省に「発達障害対策戦略推進本部」が設立され、2009年度中に発達障害者支援センターが60カ所まで拡充されています。

発達障害者支援施策のその後の流れとしては、発達障害者支援法の施行から3年が経過した2008年に見直しの検討が開始されました。また、同年は障害者自立支援法の施行後3年の見直し時期でもあり、この2つの法律の一体的な見直しが行われています。

障害者自立支援法(現:障害者総合支援法)と発達障害

障害者自立支援法では従来の手帳制度の見直しが行われ、どの程度の支援が必要なのかを評価する仕組みに変わりました。これは介護保険の要介護認定に倣った仕組みで、この仕組みの変化が発達障害との関連において大切なポイントとなっていると福島先生は言います。

また、障害者福祉サービスとして児童のサービス・地域の支援体制の構築・就労支援のあり方などの見直しが進められていますが、これは発達障害者支援の観点からも重要であると福島先生は解説しています。

なお、障害者自立支援法は2013年に改正され、現在では「障害者総合支援法」に変更となっています。

発達障害支援法制定時の課題感

発達障害者支援法の制定時には、多くの課題感が残されていました。福島先生は、主に以下のようなテーマにおける課題を指摘しています。

  • 早期発見
  • 早期療育・発達支援
  • 特別支援教育
  • 就労支援
  • 医療領域
  • 司法領域

それぞれどのような課題があるのか紹介します。

早期発見の課題と対策

発達障害支援法が制定された当時、福島先生は以下の6つを早期発見の課題として指摘しました。

  • 母子健康手帳の充実
  • 乳幼児健診・3歳児検診の充実
  • 5歳児検診の実施
  • 就学時健康診断の改善
  • 専門医の育成
  • 早期療育の充実

上記のような課題への対策としては、1歳半検診・3歳児検診の充実が挙げられます。例えば佐賀県では「発達障害スクリーニング」を導入し、1歳半検診および3歳児検診の対象家庭に問診票を郵送しています。また、鳥取県や栃木県などでは、5歳児検診を導入しました。

早期療育・発達支援における課題

発達障害を早期発見した後の早期療育・発達支援については、以下のような課題が指摘されました。

  • 障害児福祉サービス体系等の対応(知的障害児等通所事業、児童デイサービス等)
  • サービス水準の均てん化、量的拡充
  • 子育て支援施策と障害児福祉サービスの中間的なサービス提供
  • 幼児教育での対応(幼稚園での特別支援教育)
  • 保育サービスにおける対応(障害児保育)

特別支援教育における課題

特別支援教育における課題には、以下のようなものが挙げられています。

  • 体制の整備・充実(教職員や支援員の配置、通級による指導体制の充実等)
  • 教職員の専門性の向上
  • 一般の教職員の研修と認識の深化
  • 就学時健康診断および障害児就学時指導のあり方の見直し
  • 教育法の開発と普及
  • 幼児教育・高等教育における対応の充実
  • 特別支援学校等の体系における「自閉症」の位置づけ
  • 学童・保育者の発達障害への理解の促進

医師である福島先生は、特に就学時検診については「現場にいると特に大変だと感じる」と言及しています。

就労支援における課題

就労支援における課題としては、「就労前支援の必要な者への支援体制の構築」が指摘されています。具体的には、以下のような内容です。

  • 障害者就労支援サービス体系の明確な位置づけ(障害者雇用促進法の見直し)
  • 就労支援サービスの強化(ジョブコーチの拡充、マネジメントの改善等)
  • 事業主への啓発と雇用管理の改善

これらの課題についても福島先生は「法律制定から20年経ったものの、身近な風景を見る限りなかなか難しいところがある」と解説しています。

医療領域における課題

医療領域における課題としては、まず児童精神科・小児神経専門医の養成が挙げられます。実際に小児科医がどんどん増えているとは言えない中で、発達障害を含め「あれもこれも」と対応の幅を広げるのは難しいと福島先生は言います。

また、福島先生は児童だけでなく大人の発達障害についての課題も指摘していて、認知症と発達障害が重なった例など、実際の医療現場ではさまざまな事例が見られる大変さにも言及していました。

そのほか、スライドでは以下のような課題も挙げられています。

  • 各種アプローチの課題
  • 小児科医など一般の医師の理解の拡大
  • 一般の医療機関における発達障害者への医療ケアのあり方

司法領域等における課題

司法領域等における課題としては、以下が指摘されています。

  • 犯罪被害者となることの防止
  • 反社会的行動の発生の予防
  • 捜査や裁判におけるプロセスの妥当性・適切性の確保
  • 司法関係者の発達障害への理解促進
  • 矯正教育のあり方
  • 再犯を防ぎ安定した生活を確保するための継続的な支援

福島先生は特に、事件発生の背景や矯正教育、司法関係者の発達障害への理解などについて、「法律制定から20年経過して、実際にどこまで進んだのかと率直に感じる」と語っています。

発達障害支援の今後の課題と期待

発達障害者支援法が制定されてから、2024年で20年となります。この法律が制定されるまで、発達障害について定義や法的な位置づけが明確になっていませんでした。そこで、地域で支援体制を整えるうえでの法的根拠としての役割や、発達障害への啓発を進めて子育てへの不安の軽減を目的に、発達障害者支援法が制定されました。

セミナーの最後に、福島先生は「この20年で自閉症と遺伝子の関係について研究が進んでいるため、今後さらに遺伝子や脳科学による発達障害に関する研究が進んでほしい」と語っています。

また、現状は20歳で支援体制が途切れてしまっていますが、20歳以降のいわゆる「親亡きあとの問題」も非常に重要で、「本人の自由と権利を守りながらどのような支援ができるのかを今後も検討していきたい」と福島先生は語ってくれました。

今回の記事では紹介しきれなかった、貴重なお話や具体的な質問にも答えていただいているのでぜひ動画も併せてご確認ください。

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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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