【セミナー解説】発達障害と医療 法制定後の20年を振り返る

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発達障害者支援法が制定されて20年の節目となる2024年、株式会社Kaienでは「これまでの20年、これからの20年」をテーマとし、2024年元日にオンラインイベントを開催しました。

本記事では、「発達障害と医療 法制定後の20年を振り返る」をテーマに、医師であり、日本発達障害ネットワーク理事長である市川宏伸(いちかわ・ひろのぶ)先生にお話しいただいた内容を紹介します。

発達障害者支援法制定までの経緯や2016年の法改正の内容、発達障害*と近年の社会的話題や発達障害を持つ人と接する上でのポイントなどを詳しくまとめているので、ぜひご覧ください。

2024年1月1日開催のオンラインセミナー「発達障害と医療 これまでの20年の到達点と課題 (講師:市川宏伸 医師・日本発達障害ネットワーク理事長) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら

発達障害支援法とは

発達障害者支援法とは、それまで法律で明確に定義されていなかった発達障害について法的な位置づけを確立し、適切な支援を実施するために制定された法律です。

はじめに、発達障害者支援法が制定されるまでの経緯や内容、法律における発達障害の位置づけなどについて、詳しく見ていきましょう。

制定までの経緯

発達障害者支援法が制定されるまで、多くの公的扶助は知的障害者(児)を対象としたものでした。そこで、法律が制定される7、8年ほど前から、知的障害を持たない発達障害者への援助を求める運動が始まり、それに共感する国会議員の間で議員立法を作ることが検討され始めました。

法律の制定に向けては厚生労働省が中心となり、そこに文部科学省も加わって検討が進められていきました。そして議員や医療・教育・福祉関係者による検討会が行われ、2004年12月に発達障害者支援法が参議院を通過し成立、翌年4月から施行となっています。

内容

発達障害者支援法は議員が中心となって作成した議員立法であるため、行政的な内容というより理念が中心となっていると市川先生は解説しています。

対象者は「脳機能の障害であって、その障害が通常低年齢に発症するもののうち、ICD-10のF8(学習能力の特異的発達障害、広汎性発達障害など)およびF9(多動性障害、行為障害、チック障害など)に含まれるもの」とされました。

国民に対しては「障害者への理解と障害者の社会参加に対する協力」、国や自治体に対しては「発達障害に対する国民の理解を深めるための啓発活動」などを求めています。市川先生は東京都の啓発活動に携わっていますが、「まだまだ啓発は必要」だと指摘していました。

また、「自閉症・発達支援センター」は「発達障害者支援センター」として、発達障害者に対象を拡大して事業を行うこととされました。センターに対しては発達障害への支援体制の整備や知識の普及・啓発に努めるよう求めています。

発達障害支援法における「発達障害」とは

発達障害者支援法において、発達障害は以下のように定義されています。

『自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であり、その症状が通常低年齢で発現するもの』

上記の文言の作成時に市川先生はアドバイザーとして関わっており、その際に「脳機能障害」というワードにこだわったそうです。

それより以前、日本を含む世界では「子どもが自閉症になるのは母親の愛情が足りないからだ」という誤解が強くありました。このような間違った情報で保護者が責められる時代を繰り返さないために、「脳機能障害」という言葉を法律の文言に入れてもらったと市川先生は語っています。

関連する各種法制度における発達障害の位置付け

2005年4月に発達障害者支援法が施行されてから、さまざまな法律の中に発達障害が位置づけられていきました。それぞれの法律について発達障害がいつ位置づけられたのかをまとめたのが、以下の表です。

法律発達障害が位置付けられた年代
障害者基本法2011年
障害者自立支援法※2013年に障害者総合支援法に改正2010年
障害者総合支援法2014年(障害支援区分認定での対応)
児童福祉法2010年
障害者虐待防止法2011年
障害者優先調達推進法2012年
障害者雇用促進法2013年
障害者差別解消法2013年
その他2011年(手帳・年金等での位置づけ)

各法律において発達障害が位置づけられたことに伴い、障害基礎年金などの対象も拡大されました。例えば発達障害だけでも、生活が困難であれば障害基礎年金を受けられるようになっています。

発達障害支援法の改正

発達障害者支援法は2016年に改正され、目的や定義、基本理念がより明確になりました。例えば発達障害の定義については、以下のように変更となっています。

『発達障害および社会的障壁により日常・社会生活に制限がある者を発達障害者とする。社会的障壁とは、日常・社会生活において障壁になる事物、制度、慣行、観念その他を指す。』

その他の大きな変更点としては、「司法手続きにおける配慮」の追加があります。これについて市川先生は、法律の施行から11年経って理解が進んできたことと、発達障害を持つ人が被告となった裁判員裁判で、発達障害への無理解によって検察の求刑を上回る判決が出てしまったことを理由として挙げています。

また、当初の法律では発達障害を持つ当事者への支援についてが中心でした。しかし改正後は、当事者の家族や関係者への支援について明記されたことも重要なポイントです。

発達障害への現在の考え方

現在、発達障害については以下のように捉えられています。

  • 何らかの脳機能障害の存在が前提
  • 低年齢で生じる
  • 原因ははっきり判明していない
  • 育て方だけで発達障害が生じることはない
  • 医療分野において「発達障害はなくすべき」とは考えられていない
  • 発達障害児・者の持つ社会不適応を減らすべき

これらは市川先生の主観も入っているとのことですが、「育て方だけが原因で発達障害になるわけではない」「社会全体で発達障害児・者を受け入れることが重要」という2点については特に強く言及されていました。

発達障害の特徴

市川先生は、発達障害の特徴のひとつに数の多さを挙げています。2022年の発表では、「通常学級の8.8%が発達障害を持つ」とされました。例えば、特別支援学校の高等部における知的障害・発達障害を持つ生徒の数は、身体障害(盲・聾)の3〜4倍であると市川先生は言います。

また、文部科学省が教育上の配慮を必要とする生徒を調査したところ、2012年から2022年にかけて「学習障害的な著しい困難」の割合が増加しました。この要因として、「単純な数が増えたのではなく、学習障害の存在が知られるようになってきたため」だと市川先生は解説しています。

発達障害は、境界が不鮮明であることも特徴です。例えば、発達障害の特性が濃く出ている場合は早期発見によって支援が受けられるケースが多い一方、特性が薄いために幼少期には発達障害に気づかず、成人期になってから困難をきたす人もいます。

そのほか、環境や対応によっても振る舞いが大きく変わる点や、詳細は判明していないものの遺伝的な背景があること、複数の発達障害が重なるケースが多いことも特徴として挙げられています。

発達障害と社会適応

市川先生は、社会適応に関係する発達障害の特性として次の4点を挙げています。

  • 気持ちを読めない、伝えられない
  • 興味が限定されている
  • 感覚の特別性がある
  • 注意が持続できない

それぞれの詳しい内容について、以下で解説します。

気持ちを読めない、伝えられない

「相手の気持ちがわからない」「自分の気持ちを伝えられない」という特性から、友達を作るのが難しいという点を市川先生は指摘しています。また、「暗黙の了解が理解できない」「融通が利かない」など、周囲の出来事の意味を読み取るのが苦手なのも特性のひとつです。

上記のような特性は、人と心を通わせるのが難しいという問題がある一方で、悪いことばかりではないと市川先生は解説しています。例えば、相手からどう思われるかを気にしないのは、「緊張しにくく本番に強い」という強みになっているケースもあります。

興味が限定されている

発達障害は、「特定のことにのみ興味を持ち、自分が興味のあることは他人も興味があると考える」という特性が表れることがあります。これは「科目によって好き嫌いが激しい」「同じ科目の中でも得意不得意にバラつきが出る」といった学習上の困難につながります。

しかし、興味が限定されるのは問題になるケースばかりではありません。例えば、1つの分野を深く掘り下げることで、類稀な芸術家や研究者になる人も出てくるだろうと市川先生は解説しています。

感覚の特別性がある

感覚の特別性とは、他の人よりも感覚が過敏もしくは鈍感であるケースです。感覚が過敏になると「うるさい」「眩しい」といった周囲の環境に敏感になって具合が悪くなってしまったり、感覚が鈍いと火傷や霜焼け、怪我などに気づきにくかったりするなど、生活に支障が出る可能性があります。

一方で、感覚の特別性を活かす職業もあると市川先生は解説しています。例えば、味覚が鋭い人はソムリエや食品関係の会社、匂いに敏感な人は香水を作る会社なら、特性を活かして働けるでしょう。

注意が持続できない

発達障害には特定のものにだけ注意が向き、他の物事には注意が持続できないという特性が見られることがあります。1つのことに集中できないのは社会生活で問題になるケースもありますが、反対に「さまざまなことに気を配れる」という長所にもなり得ると市川先生は解説しています。

市川先生の解説では、文化人類学者によれば、日本社会は農耕民族であるために集中できないことは生活に困難をきたす可能性が高い一方で、狩猟民族の世界は小さな物音にすぐに反応できなければ生き残れなかったといいます。このように、集中するポイントが移りやすいというのは、場合によってはメリットになるということです。

発達障害は見た目ではわからない

発達障害は、見た目だけでは判断できません。そのため「特別視しなくても良いのでは」という声もありますが、外見で判断できないために周囲から困難に気づいてもらえず、本人が苦労することがあると市川先生は解説しています。

実際に「職場の人とうまくいかない」と感じて市川先生の診察を受けたところ、発達障害であることが判明したというケースもあったそうです。

発達障害を持つ人の多くは生後一貫して困難が続いているものの、本人や周囲がそれに気づいていないケースが少なくありません。幼少期は他の人も自分と同じだと思っており、それが思春期前ごろになって「もしかして自分は人と違うのでは」と感じて驚く人が多いと市川先生は言います。

このような場合、成人になってから医療機関を受診する人も多く、教育現場ではほとんど問題として認識されていないケースが見られます。また、周囲の血縁者に似た特性を持つ人がいる場合があるのも、本人や周囲が発達障害に気づきにくい要因の一つです。

発達障害は昔どのように扱われた?

2005年4月に発達障害者支援法が施行され、発達障害という言葉が広く使われるようになりました。それ以前は発達障害についての理解が広がっておらず、外見からは判断できないため、怠け者のように扱われていたと市川先生は指摘しています。また、その保護者も「しつけのできない親」として周囲から冷たい目で見られていたのではないでしょうか。

障害とは認識されていないため、「どうすれば普通の人になれるのか」と注意や叱責の対象にもなっていました。「普通の人」ではないため、世間から「困った人」「厄介者」といった扱いを受けていたとも推測できます。

ただし、特定の物事を深く掘り下げるなど他の人が真似できないような能力を発揮する人もいるため、一部では素晴らしい仕事をする人として注目を浴びることもあっただろうと市川先生は解説しています。

障害概念とは

障害概念とは、障害をどのようなものと捉えるかという考え方のことです。障害概念は、昔と今で大きく変わりました。

旧来の障害概念は視覚障害や聴覚障害、身体障害などが対象で、境界が鮮明だったのが特徴です。「車椅子に乗っている」「杖をついている」「補聴器を付けている」など外見から判断しやすく、原因もある程度わかっているものを「障害」と捉えていました。

一方、近年の発達障害を含めたものを市川先生は「新たな障害概念」と呼んでいます。新たな障害概念は、まず境界が不鮮明なのが旧来との違いです。また、外見からは判断しづらく、原因もよくわかっていないのも違いとして挙げられます。

国際的な診断基準における発達障害

精神科では、国際的には「ICD-11」と「DSM-5 TR」という2つの国際的な診断基準が使用されています。ICDは世界保健機関が作成していて、2018年に公表された国際疾病分類第11版をICD-11と呼びます。ただし、ICD-11はまだ日本語版が出ていないので、ICD-10を使わなくてはいけないこともあります。

DSMは精神科で主に使用される診断基準で、作成しているのは米国精神医学会です。DSM-5 TRは2022年に発表されました。

ここでは、これらの診断基準の中での発達障害について見ていきましょう。

ICD-11での発達障害

ICD-11には、神経発達症群として以下のような診断名が記載されています。(日本語版は出ていませんが、疾患名については、精神神経学会から公表されています)

  • 知的発達症
  • 発達性発話または言語症群
  • 自閉スペクトラム症
  • 発達性学習症
  • 一次性チックまたはチック症群
  • 発達性協調性運動症
  • 注意欠陥多動症
  • 常同運動症
  • 神経発達症、他の特定される
  • 神経発達症、特定不能

ここでの重要なポイントは、最新のICD-11では「障害」という言葉を診断名に使用していない点です。ICD-10では、「disorder」を直訳して「障害」という言葉を用いていました。

日本では、一般に障害と言うと、「handicap」と捉える方が多いのです。

しかし、本人や保護者の誤解を招かないよう、ICD-11では日本語訳に「障害」という言葉を使わないことを精神神経学会で取り決めたと市川先生は解説しています。

DSM-5 TRでの発達障害

DSM-5 TRには、以下のような診断名が記載されています。

  • 知的発達症群
  • コミュニケーション症群
  • 自閉スペクトラム症
  • 注意欠如・多動症
  • 限局性学習症
  • 運動症群
  • チック症群
  • 他の神経発達症群

DSM-5 TRもICD-11と同様に、日本語訳では診断名に「障害」という言葉を用いていません。

自閉スペクトラム症の治療

自閉スペクトラム症は根本的な原因が判明しておらず、従って根本的な治療法もありません。そのため、環境調整や対応改善が第一の選択になります。療育なども必要ですが、市川先生は「発達障害全体に言えることではあるが、何よりも重要なのは自分の存在感を獲得すること」と解説しています。

薬物療法は、対症療法としては有効です。ただし、先述のとおり根本的な原因はわからないため、薬物療法も根本治療にはなりません。

ADHDの治療と予後

ADHDの治療では、低下している自己評価の改善を目指します。根強い劣等感を払拭し、存在感の獲得につなげることが重要です。薬物治療はそのための対症療法で、ADHD治療薬も登場してはいますが、「薬だけ飲んでいれば治る」というものではありません。

これまでADHDは楽観視されていて、「放っておけばそのうち治る」と言われることもありました。しかし、実際はそんなことはなく、適切な対応がとれなければ素行障害などにつながるケースもあるため注意が必要です。

予後については、症状によって大きく変わります。不注意は成人になっても継続している人が多く、「鍵を失くさないように首にかけておく」「忘れないように腕にメモをとる」など、人によってさまざまな工夫をしています。

多動については、思春期以降は目立たなくなるケースが多いです。衝動性は、その人の置かれる環境によって予後が大きく変化します。自分で衝動をコントロールできる人もいれば、周囲の環境が厳しいと衝動を抑えられなくなってしまう人もいます。

発達障害と薬物治療

発達障害の多くはその根本的な原因がわかっておらず、薬の服用だけで根本治療をすることはできません。ただし、発達障害の治療の一環として薬物治療を行うケースはあります。

発達障害に特化した専用の薬があるわけではなく、現状は他の疾患に用いる薬を医師の判断で使用します。例えば、自閉スペクトラム症で興奮や妄想といった症状が出たときに、抗精神病薬を用いるといったケースです。

また、「薬で気分を安定させて療育に専念する」など、他の治療法のために薬物治療を補助手段として活用することもあります。

早期発見・早期介入から適宜発見・適宜介入へ

「医療機関で早く発見し、積極的に治療すべき」という早期発見・早期介入が必ずしも正しいとは限らないと市川先生は指摘しています。なぜなら、以下のような課題があるからです。

  • 医療的に適切な治療法があるか
  • 適切に診断できる医師がどれくらいいるか
  • 保護者が診断されることを望んでいるか
  • 適切な選択肢を用意できるか

そこで市川先生は「適宜発見・適宜介入」を提唱しています。保護者が「気づいてほしい」「診断してほしい」「治療してほしい」と感じたときに福祉や教育機関が気づきのサポートをし、必要に応じて検査や療育、情報提供などの介入を行うという考え方です。

「早く診断して早く治療するのではなく、早く気づいてそれぞれに合う対応を考えましょう」と市川先生は言います。また、「自分だけがこんなに大変なのでは」と孤独を感じてしまう保護者もいるため、保護者同士の結びつきが重要だと言及されていました。

発達障害と近年の社会的話題

発達障害については社会的な問題もあり、以下のような社会的話題は無視できません。

  • 不登校・引きこもり
  • からかい・いじめ・虐待
  • 自傷・自殺
  • 依存・乱用

それぞれの問題が生じる背景になにがあるのか、以下で解説します。

発達障害と不登校・引きこもり

高機能自閉症やアスペルガー障害がある人は、「どうして自分が社会に適応できないのかわからない」「失敗して叱責されるのを繰り返してしまう」といった状況に陥ることがあります。その結果として不登校や引きこもりになり、一部では被害感や反社会的行動につながるケースも見られます。

不注意優勢のADHDの場合は、劣等感の増大も不登校の原因のひとつです。周囲にADHDだと気づかれず、日々の生活の中で自己評価が低下してしまう人もいます。

市川先生は自身の経験上、「不登校の50%以上に発達障害が存在している」と感じているそうです。発達障害は対人関係やコミュニケーションに課題があり、集団に適応するのが難しいためです。また、不登校が継続して引きこもりに移行する場合もあります。

発達障害が要因となっている不登校・引きこもりでは、自己不全感を改善して自信が持てる点を増やすと良いでしょう。また、他の人に合わせるよりも本人の特性を生かすことも重要です。

発達障害とからかい・いじめ・虐待

発達障害があると、相手の気持ちを理解できなかったり、注意されても同じ失敗を繰り返してしまったりすることがあります。そのため、周囲から「変わっている子」と捉えられて、からかいやいじめにつながるケースも少なくありません。

また、家庭では兄弟と比較して「かわいくない」「何を考えているかわからない」と思われる場合があり、虐待につながる可能性もあると市川先生は言います。

本人はなぜそのような扱いを受けるのかわからず、いじめや虐待が続くと発達障害の症状が一段と顕在化し、悪化するおそれがあります。

発達障害と自傷・自殺

自傷や自殺については、必ずしも発達障害との関連性が高いとは言えません。ただし、自傷・自殺は唐突的なものが多く、周囲から見ると理解できない理由で行われる事例もあると市川先生は指摘しています。特に自己不全感が強かったり自己評価が低かったりする場合に、突発的な自傷や自殺が起きると考えられます。

そのため、発達障害児・者の持つ自己不全感や衝動性亢進と自傷・自殺との関連性は否定できません。また、知的障害を伴う場合には、一段と予測しにくい行動が出現すると市川先生は解説しています。

発達障害と依存・乱用

依存・乱用の問題では、子どものゲームやインターネットへの依存が指摘されています。一方、成人の場合はギャンブル・アルコール・薬物・買い物などへの依存・乱用が問題となるケースが多い傾向です。

これらは、発達障害児・者の持つ自己不全感による現実逃避感や、ADHDの特性である新奇探求性との関連性が指摘されています。そのため、依存・乱用については発達障害への対応で症状が良くなるケースもあるようです。

例えば、市川先生の知人の医師の話では、「一般的なアルコール依存の治療で効果がなかった人を検査するとADHDであることが判明し、ADHDの治療薬が有効だった」というケースがありました。

当事者だけでなく保護者を支援する重要性

発達障害者支援法の改正で当事者の家族や関係者への支援について明記されたことからもわかるとおり、発達障害については当事者だけでなくその保護者を支援することも重要です。

市川先生は文部科学省の「困った子どもは困っている子ども」になぞらえて、「困った保護者は困っている保護者」と考えています。保護者がこれまで子どものためにしてきたことを否定せず、「なんとか症状を良くしよう」ではなく「一緒に困ってみる」というのが市川先生のスタンスです。

発達障害を持つ子どもは家族のもとで暮らしているため、保護者の支援も必要です。医療現場では「子ども家庭支援科」の設置、教育現場ではスクールソーシャルワーカーの導入など、当事者と保護者の両方を支援する仕組みが求められています。

発達障害の方との接する上でのポイント

発達障害を持つ人と接する上でのポイントとして、市川先生は以下の7つを挙げています。

  1. 相手が腹立たしく思っていないか
  2. 相手の気持ちを汲み取れているか
  3. 相手のプライドを傷つけていないか
  4. 相手と信頼関係が築けているか
  5. 支援者側の論理を押し付けていないか
  6. 相手の良さを尊重し、その人らしい生き方ができているか
  7. その人の特徴をなくしてしまっていないか

これらのポイントを見ると、一貫して「支援を受ける側の人の目線に立つこと」を重要視しています。発達障害を持つ人と接する際には、「こちらが良いと思う対応」ではなく「相手が納得できる対応」を意識するのがポイントです。

発達障害へのスタンスと対応

市川先生は発達障害へのスタンスとして、「発達障害は特性であり、多くは環境や対応で改善される」と解説しています。発達障害について「異なるソフトを積んでいる」と表現されており、「互換性ソフトを作るには発達障害者のソフトの中身を詳しく知ることが大切」という考え方です。

発達障害を持つ人への対応については、相手が納得できるように注意の仕方を工夫する必要があります。教育現場では「発達障害を持つ子には注意してはいけない」という誤解が生じているケースがありますが、そうではありません。発達障害を持つ人は「◯か✕か」という考え方をするため、当事者の立場に置き換えて説明できるかどうかが重要だと市川先生は言います。

また、当事者の存在感の確保も重要で、そのためにはその人の特性や良いところを生かす方法を考える必要があると市川先生は語ってくれました。

発達障害が理解され、活躍する時代へ

発達障害者支援法が施行されて20年が経ちますが、「気持ちを読めない、伝えられない」「注意が持続できない」といった特性から、不登校やいじめに発展してしまうケースがいまだに問題となっています。

発達障害を持つ人と接する際には、こちらが良いと思う対応を押し付けるのではなく、相手が納得できる対応や言い回しを心がけることが大切です。また、当事者だけでなくその保護者への支援の重要性についても、市川先生は繰り返し言及されていました。

最後にこれからの20年について、市川先生は「現在でも発達障害の人は社会で活躍していると思うが、人間関係で躓いてしまうこともある。社会全体が発達障害についてきちんと理解し、然るべき対応によって発達障害を持つ人が活躍できる社会になってほしい」と語っています。

今回の記事では紹介しきれなかった、貴重なお話や具体的な質問にも答えていただいているのでぜひ動画も併せてご確認ください。

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*発達障害は現在、医療分野では、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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