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ADHDのお薬は飲むべきでしょうか?知っておきたいADHD薬の基本特性、種類、服薬の目的、副作用、やめ時、事例ADHD

 発達障害は生まれつきで一生涯続く特性ですが、ADHD(注意欠如多動性障害)には特性の一部を緩和・改善するお薬が存在します。一般に精神系のお薬に対する抵抗感は大きく、「お薬を飲むべきか?」で頭を悩ませる方が多いようです。この記事ではADHDとお薬について知っておくべき基本をまとめました。医師など専門家への質問を整理し、今後お薬とどう関わって行くかを考えるための判断材料としてお読み下さい。

この記事でわかる事

そもそも精神系のお薬とは?

 少し難しい話題になりますが、精神系のお薬でキーワードとなるのが「神経伝達物質」です。脳内の神経細胞から神経細胞へと色々な情報(電気信号)を伝える役割を持っています。人間の世界で言うと”手紙”のようなものでしょうか。神経伝達物質のおかげで、人間を含む動物は、考えたり、感じたり、判断したり、学習したりという、脳の活動が行えているわけです。

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 代表的な神経伝達物質を以下に挙げてみます。それぞれ精神活動への影響の仕方が異なります。

  • ドーパミン → 快感、興奮、幸福感
  • セロトニン → 落ち着き、安定感
  • ノルアドレナリン → やる気、集中、積極性

 ある神経伝達物質が過剰に放出されすぎていたり(届く情報が多い)、神経伝達物質をキャッチする受け皿の働きが弱まっていたりして(届く情報が少ない)、そのバランスが崩れると色々な症状や障害が引き起こされます。手紙が必要以上に発送されてしまったり、発送されている手紙が受け手側の郵便ポストが詰まっていたりして届けられないというような状態です。例えば、セロトニンとノルアドレナリンが不足すると、うつ病になるという説はよく知られています。

 神経系のお薬は、こうした脳内の神経細胞間(=シナプス)における神経伝達物質の授受の仕組みに働きかけて、伝達をスムースに行う役割を果たします。

ADHDの脳内の神経物質を調整する

 ADHDは多動や衝動で知られています。ですので、脳内でやりとりされる情報が多すぎて多動になったり、衝動的になったりすると思われがちですが、実はその逆のことが起こっています。放出された神経伝達物質の一部は取り込まれて再利用される仕組みですが、その取り込み口に神経伝達物質が再吸収されすぎて、神経細胞間の神経物質が少なくなっている、あるいは受け取った神経伝達物質が漏れ出して情報が効率的に伝わらない、というのが実態です。発送された手紙がそもそも相手側に届く前に回収されてしまったり、手紙を集める袋に穴が開いて手紙が失われてしまっている状態に例えられます。ADHDの場合、不足しているのは脳内のドーパミンやノルアドレナリンで、これらの不足が特有の行動につながると考えられています。そこで、送信側の神経伝達物質の再取込口を塞ぐことで受け皿に届くドーパミンやノルアドレナリンの量を適量に調整したり、受信側に届いた神経伝達物質が漏れ出さないようにし、情報がしっかり伝わるようにしたりするのがADHDのお薬の役目です。

ADHDに処方される代表的なお薬

 現在日本で処方が認められているADHDのお薬はコンサータ、ストラテラ、インチュニブの3つです。インチュニブだけは18才未満が対象ですが、先行する薬の例からも今後成人への処方が認められる可能性があります。

ADHDの特性を緩和する薬:コンサータ、ストラテラ、インチュニブ

 3つの薬はどれもADHDの特性の軽減・緩和を目的に開発されたものですが、実際にはそれぞれ効果のある領域や効果の強さは異なります。また、服用してから効果が表れるまでの時間や効果の持続時間、身体への影響の仕方にも違いがあります。

 例えばコンサータはADHDの特性の中でも特に不注意に効果があるとされ、出社前など一日の始まりに一度服用し、日中は効果は持続しますが、薬の切れ目もはっきりしています。

 ストラテラはADHDの特性全体に効果があるとされ、24時間血中濃度が安定するように朝晩2回の服用で穏やかに効くようにできています。効果が感じられるまでには数週間かかりますが、副作用はコンサータより感じにくいと言われています。

 インチュニブ多動・衝動性に効果があるとされ、前の二つが神経伝達物質の送信側の再取込を抑制するのとは異なり、受信側の神経伝達物質の漏れを防ぐ仕組みで、体重に合わせて服用量が変わります。

その他の薬

 ADHDの症状を緩和する薬品の他に、各自の困難や発達障害の二次障害、あるいは併発している疾患に応じて、リスパダール、エピリファイ、パキシルなど精神疾患に用いられる薬や、てんかん発作を抑えるための抗てんかん薬、睡眠の質を高めてくれる睡眠導入剤が処方される場合もあります。抗精神薬だけでなく、あらゆる薬剤は併用することでそれぞれの効果を高め合ったり減じたり、場合によっては生命に危険を及ぼす憎悪反応を起こす場合もあり得ますから、薬の種類や量を増やしたり減らしたりするときは必ず医師に相談し、変更前と変更後の特性に対する効き方や副作用の表れ方をしっかりモニターするようにしましょう。

副作用の現れ方は人それぞれ

 副作用はなぜ起きてしまうのでしょう?原因のひとつは、薬物が目的とは違うところに働いてしまうことで、例えば脳内でドーパミンを十分な量届けてほしいとして飲んだ薬が、他の神経伝達物質にも作用してしまうことがあります。また、目的通りに脳内のドーパミンの量が増えたとしても、そのため注意力が高まると同時に目がさえて不眠になる、といったことが起こります。

 具体的な副作用には、食欲不振、吐き気、頭痛、眠気、不眠などがあります。厄介なのが副作用は薬の効き目と同じで、飲んでみなければその人にどの程度現れるのか分からないことです。「服用してからのほうがかえって辛かった」と言う人もあれば、逆に「特に副作用はなかった」「合わなかったけど、他の薬に変えてもらったら平気だった」というケースもよくあります。

二次障害を防ぐという観点

 ADHDは薬で根本的な治癒には至りません。ではなぜ薬を飲むのでしょう?もちろん症状の一部が緩和することでご本人や周囲の困難や問題が緩和されることが服用の第一の目的ですが、二次障害の防止も劣らず重要なポイントです。

 発達障害の方はその特性上、人間関係でトラブルを起こしたり、職場で叱責されたり、仕事に集中できずに結果が出なかったりということが起きやすく、「自分はどうせダメな人間なんだ」と自信を失ってしまう傾向にあります。そうした苦しい状態が長く続けば、発達障害とは別の問題(二次障害)を併発してしまう恐れも出てしまいます。ストレスで気分が落ち込み、生活全般への意欲が下がってしまう、あきらめの気持ちが強くなり、何事にも反発しがちになる、といった状況です。発達障害と二次障害が重複すると、何が本人を苦しめているのか見極めることが難しくなり、年齢と共に問題も対応も複雑化します。そのため、できるだけ早い段階で二次障害を防ぐことが重要で、周囲の理解やできるだけ早い時期からのソーシャルスキル教育とともに、お薬の適切な活用もそのための選択肢のひとつになります。

薬物依存や長期服用の影響は?

 薬の服用を検討するとき、一番気になるのは依存性や長く飲み続けた場合の悪影響についてでしょう。多くの薬にはそれまでと同じ量では同じ効果が得られなくなる「耐性」が存在し、服用を続けるうちにより多くの量を欲するようになるのは事実です。ただし、精神科のお薬の場合は、依存が発現しづらくなるように配合し、十分に安全性を確かめた上で慎重に服薬量を調整され、処方が認められています。一日に飲んで良い量も決められています。

 3つのADHDに対する処方薬のうち最も依存性が強いとされるのは中枢神経刺激薬のコンサータです。身体依存(薬をやめた後のイライラや震えなどの離脱症状)はないですが、精神依存が出る場合があるようです。つまり「まだこの薬を手放したくない」「薬がないと生活していくのが怖い」という気持ちが強く出ることがあります。このためコンサータは処方の際に週に一度の休薬日を設けるなどの工夫をすることがあります。精神依存は服薬を止めれば徐々に消失するとされますが、決められた量以上は服用しないこと、飲み忘れたからと言って忘れた分をまとめて服用したりしないこと、などに注意が必要です。

 欧米で実際に社会問題になっていることですが、中枢神経を刺激するタイプのADHD薬を興味本位でスマートドラッグとして本来の目的以外の効能のために服用することは非常に危険で、絶対に慎まねばなりません。一方でコンサータより効き目も副作用も穏やかとされるストラテラについても、好ましくない精神作用についての研究報告や議論があることは事実です。心配な点があれば医師に説明を求めましょう。

お薬のやめ時は?

 ADHDの困り感や問題に対する第一の対策は環境調整です。お薬はあくまでそれを補助する手段のひとつとして「一時的に助けを借りて、必要なくなったらやめれば良い」という見通しで処方されます。お薬の効果で気分が穏やかになったり、集中しやすくなったりし、服薬前より頑張れるようになったり、周囲とより上手くコミュニケーションが取れるようになることで、周囲から以前より評価されるようになると、もっと頑張れる、失敗をもっと上手くカバーできる、かつてほど失敗で落ち込まなくなる、という良いスパイラルが生まれ、傷ついた自尊心を癒し、自信を取り戻すことができます。それがADHDのお薬の理想的な利用の仕方です。ですから、十分に自尊心を取り戻し「自分はこのお薬の助けを借りなくても大丈夫かな」「失敗はあっても周囲と前向きに解決して行けそうだ」と思える時期が来たら、そこがお薬の最高の止め時と言えるでしょう。

訓練生Aさんの事例

 なかなか仕事にとりかかれない、とりかかってもすぐに気が散ってしまうAさん。ご家族からあるお薬を飲み始めたという連絡がありました。Aさん曰く「飲んだら集中できるのは分かってるんだけど。実はあんまり飲みたくない」とのこと。服用すると、頭がぼーっとしたり、だるい感じがしたりするのだそうです。いくらプラスの効果があったとしても、副作用がつらければ飲みたくないでしょうし、その感覚、抵抗感はご本人にしか分からないものです。

 当社ではAさんに以下の対応をしました。

  • 服薬時は、①指示がすっと入る、②作業の切り替えが早い、③作業中にキョロキョロする挙動が少ない、④他の人の会話にいきなり入ったりすることが減っている、ことを本人に伝えた。
  • 客観的に感じた、頑張っているところ、できているところ、伸びているところを率直に伝え続けた。
  • 「それが薬の効果だから飲んだほうがいいよ」という言い方はしない。また飲み始めて体がお薬に慣れるまでは副作用が強く出るが、徐々に少なくなっていく人が多いのは事実ですが、個人差がある問題なので「今は我慢して飲もう」というようなことも言わない。

 Aさんは結果的にお薬を飲み続けることを選び、生活には安定感が出てきました。チャレンジできることも増えました。我々スタッフも、Aさんが自身の行動の変化を客観的に自覚するためのお手伝い、頑張る気持ちを引き出すお手伝いはできたと振り返っています。

まとめ 環境調整を第一に上手にお薬と付き合う

 医療の世界には「服薬アドヒアランス(服薬する本人がお薬が必要な状況を理解し、意志を持って服薬しているかどうか)」という概念があります。服薬アドヒアランスが低いと、お薬を飲み忘れたり医師の指示通りではない時間や回数で服用したり、といった問題が増える傾向があり、それでは得られる効果も減ってしまいます。ですから何を目的にして薬を飲むか、薬を飲むメリットとデメリットは何か、いつまで薬を続けるか、そうした事柄を医師と話し合い、しっかり納得した上でお薬を服用することが重要です。

 お薬の効果は一時的なものです。それに対し「できた!」「褒められて嬉しい」という記憶は薬の効果が消えても残り、力となり続けます。あくまでもご本人と周囲が特性にあった関わり方をしつつ、特性が生きる環境調整を同時並行で行なってこそ、初めてお薬の効果も最大限生かせるもの、という基本を理解し、成功体験を積み上げるために上手にお薬と関わっていきましょう。