ASDの方の面接対策!受からない理由や採用されるポイントを解説

公開: 2025.5.12

ASD(自閉スペクトラム症)をはじめとする発達障害*がある方は、就職活動において、その特性から面接がうまくいかず、なかなか採用に結びつかないケースがしばしば見られます。そのため、面接に苦手意識を持つASDの方も少なくありません。

しかし、ASDの特性を理解し、特性に合わせた面接対策を行えば、就職の道を開くことができます。今回はASDの方が面接で不採用になりやすい理由や、面接の対策方法、利用できる支援機関を解説します。ぜひ参考にしてください。

ASDの方が面接に受からない理由

一般的に就職活動の面接では、相手からの質問に対して、文脈に合った的確な回答をすることが求められます。ASDの方の場合、特性によりこうした面接に困難を抱えるケースが少なくありません。ASDの方が面接に受かりにくい理由として、以下が挙げられます。

  • 質問の意図を読み取るのが苦手
  • 話を聞く姿勢や態度が悪い
  • 質問されても言葉が出てこない
  • 身だしなみが整っていない

どういうことか、詳しく見ていきましょう。

質問の意図を読み取るのが苦手

ASDの特性として、「中枢性統合の弱さ」があります。中枢性統合とは、複数の情報を統合して物事全体の状況を把握する能力のことです。ASDの方が場の空気を読むのが苦手だったり、暗黙の了解がわからなかったりするのは、この中枢性統合の弱さが一因といわれています。

また、表情や仕草から相手の気持ちや思考を推し量る力である「心の理論」が欠如しているのもASDの特性の1つです。こうした特性により、面接の場で質問の意図をくみ取って答えることが難しく、質問に対して常識から外れた解釈をして、的外れな回答をしてしまう場合があります。

話を聞く姿勢や態度が悪い

ASDの方は、面接の待ち時間や面接の間、腕を組んでいたり、ふんぞり返っていたりして、周囲から「態度が悪い」と受け取られてしまうケースが見られます。しかし本人に悪気はなく、周囲を不快にするつもりはありません。

ASDの特性として、体幹の弱さや身体感覚の鈍さが挙げられます。そのため、長時間同じ姿勢を保持することが難しかったり、背筋を伸ばして座ることが困難だったりするのです。また、自分の状況を客観視して適切な対処をする「セルフモニタリング」が困難という側面もあります。加えて自身の感情を自覚し、表現することが苦手なため、表情が乏しくなってしまうことから、態度が悪いと誤解されてしまう場合もあるでしょう。

質問されても言葉が出てこない

相手の言葉を字義通りに受け取ってしまい、返答に困って答えられなくなってしまうのも、ASDの方によく見られる特徴です。また、グレーゾーンと呼ばれる薄い自閉の方の場合、場の空気を一生懸命読もうとする過剰適応の傾向が見られるため、何か質問された際に、自分が考えた答えが場に合うものかどうかを考えすぎてしまい、なかなか言葉が出てこなくなってしまうことがあります。

他にも、面接に対する苦手意識が強いと過度に緊張してしまい、体が硬直してフリーズしてしまう、「静のパニック」が起こることもあるかもしれません。

なお、ASDの方に併発しやすい疾患として、「場面緘黙」が挙げられます。場面緘黙症については、以下の記事で詳しく紹介しているので、併せてご覧ください。

身だしなみが整っていない

ASDの方は、前述のとおりセルフモニタリングが苦手で、世間一般の基準や常識を理解しづらい傾向にあります。そのため、就職活動にふさわしい身だしなみがわからずに場違いな格好をしてしまったり、スーツを着用してもしわが目立って清潔感に欠けたりと、周囲から「身だしなみが整ってない」と思われてしまうことも少なくありません。

また、暗黙の了解で決まっているビジネスマナーが理解できず、礼儀を欠いた状態で面接を受けてしまう場合もあります。意図していなくても、相手にだらしない印象を与えてしまう可能性があるので、注意が必要です。

ASDの方が面接で伝えておくべきポイント

採用につなげるためにも、ASDの方が面接を受ける際は、以下の2点を伝えておくと良いでしょう。

  • 障害特性
  • 希望する配慮

それぞれどのような内容を伝えるべきか、詳しく見ていきましょう。

障害特性

障害者雇用など、障害を開示した状態で就職活動する場合、ASDの特性や仕事をする上でどういった配慮が必要なのか、面接で伝えることが大切です。これにより、ASDの方がどれだけ自身の障害を理解しているか企業側が判断でき、ASDの方が求める配慮を企業が提供できるかもわかります。

その際、特性による困難の数が多すぎると、企業側に避けられてしまうことが懸念されます。しかし少なすぎると「障害者雇用は必要ない」と判断され、面接で落とされてしまうケースや、入職後の環境が合わずに辛い思いをする可能性があります。そのため、伝える特性は3つくらいに絞るのが無難でしょう。過去のエピソードなど具体例を挙げて説明すると、相手に伝わりやすくなります。

希望する配慮

障害のある方は、その特性や困りごとに合わせて、職場で合理的配慮を求めることができます。ASDの方の特性に対する合理的配慮を行った時、実際の業務にどう影響するか、面接の場である程度イメージしておきたい企業は多いです。そのため面接では、障害特性と同時に必要な配慮を具体的に伝えておくと良いでしょう。合理的配慮の例として以下が挙げられます。

  • 曖昧な指示は避け、業務の期日などを明確にして説明する
  • イレギュラー対応をなくし、予測可能な業務環境をつくる
  • 騒音や周囲の雑音などを避けるためにパーテーションの使用を許可する

なお、これらの配慮事項は履歴書にも記載すると、より企業側に伝わりやすくなります。

ASDの方の面接対策

ASDの方の面接対策として、以下の5点が挙げられます。

  • 身だしなみやマナーを確認する
  • 言い回しや話し方を意識する
  • 簡潔に答える練習をする
  • 聞かれそうな質問をピックアップする
  • 自分以外の誰かに見てもらう

それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。

身だしなみやマナーを確認する

就職活動にふさわしい格好をしているか、ビジネスマナーを理解できているかどうかなど、面接前に確認しておきましょう。たとえスーツを着ていたとしても、服がしわしわだったり、髪の毛がボサボサだったり、清潔感に欠けている状態だと相手へ悪い印象を与えてしまうので、注意が必要です。

また就職活動では、時間を守る、挨拶するといった基本的なマナーも大切です。入室時のノックの仕方や着席のタイミング、退室方法など、暗黙の了解の面接作法も心得ておくと安心です。面接の待ち時間もマナーを崩さないよう、意識しましょう。

言い回しや話し方を意識する

場の空気を読むのが苦手という特性により、ASDの方はしばしば一方的に話してしまったり、早口になってしまったりする場合があります。会話のキャッチボールを意識して、適切なタイミングで相づちを打つ、ゆっくり話すといった練習をしておくと良いでしょう。

また、退職や失敗の経験など、ネガティブな話題になった時は、他責表現をしないよう注意が必要です。仮に自分に非がなくても、「人のせいにばかりする」「被害者意識が強い」といった印象を与えかねません。事実を伝えた上でソフトな言い回しを意識し、反省点やポジティブな解釈を付け加えると、相手からの印象もアップします。

簡潔に答える練習をする

ASDの方は前述のとおり、中枢性統合の弱さや心の理論の欠如といった特性から、場の空気や相手の気持ちをくみ取れず、適切なタイミングで話を切り上げることが困難な傾向にあります。そのため、必要以上に長々と話してしまったり、まったく関係のない話題に飛んでしまったり、会話のキャッチボールが円滑にできないケースも見受けられます。

面接では、1回の質問に対する回答時間は30秒から1分ほどが目安です。長すぎると話をまとめる力がないと、マイナスの評価につながる恐れがあるため、面接対策では質問に対して簡潔に答える練習をしておきましょう。

聞かれそうな質問をピックアップする

面接に苦手意識があるASDの方は、面接で聞かれそうな質問をピックアップし、あらかじめ回答をまとめた想定問題集をつくっておくと安心です。想定問題集をもとに面接の練習を重ねれば、本番で同様の質問をされた際も、あせらずに答えられるでしょう。障害者雇用の場合、企業によっては想定問題集の持ち込みを許可してくれる場合もあります。

企業は面接において、「長く安定して働けるか」「協調性のある働き方ができるか」を知りたがっています。面接では質問を通して、この2つのポイントを確認される可能性が高いので、質問の意図を意識して想定問題集をつくりましょう。

自分以外の誰かに見てもらう

面接での所作や話し方の改善は、1人で練習するだけでは限界があります。特にASDの方はセルフモニタリングが苦手な傾向があるので、家族や友人など、自分以外の誰かに見てもらい、客観的なアドバイスをもらうと効率的です。就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなどの支援機関でも模擬面接を受けることができるので、活用するのも良いでしょう。

ASDの方が面接対策として利用できる機関

ASDの方が就職や転職の面接対策で利用できる機関として、以下が挙げられます。

  • ハローワーク
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 学生向け支援「ガクプロ」
  • 就労移行支援
  • 自立訓練(生活訓練)

それぞれの概要と支援内容を、詳しく見ていきましょう。

ハローワーク

ハローワークでは、事前予約制の面接対策を実施しています。面接対策では、面接における基本のマナーを学んだり、模擬面接を行ったり、実践的な練習ができる点が特徴です。対策を通して、志望動機や自己PRなど、面接で聞かれそうな質問に対する回答をブラッシュアップすることもできます。

また、ハローワークには、「ハロートレーニング」と呼ばれる求職者のスキルアップを目的とした無料の職業訓練制度があり、さまざまな職種の職業訓練を受けられます。グループワークも多いので、大勢の前で話す練習にもなるでしょう。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターでは、面接対策として、以下のサポートを受けることができます。

  • 模擬面接の実施
  • 履歴書・職務経歴書の作成支援
  • ビジネスマナーや基本的な社会人スキルの指導
  • 必要に応じた面接への同行

面接だけでなく、面接に至るまでの履歴書や職務経歴書の作成など、就職活動全体をサポートしてくれる点が特徴です。模擬面接では回答の内容はもちろん、表情や声の大きさ、話すスピードなどもアドバイスしてもらえます。

学生向け支援「ガクプロ」

「ガクプロ」はASDなどの発達障害がある学生や、診断のないグレーゾーンの学生を対象に、Kaienが実施する就活支援サービスです。ガクプロでは、就職活動のハードルとなるASDの特性への対処法を学びながら、エントリーシートの作成支援や面接対策まで、就職活動に必要なサポートを網羅的に受けることができます。障害者雇用のインターンシップや求人紹介も行っているので、障害者雇用を目指す学生の方にもおすすめです。

ガクプロの「コーチング」では、学習方法や時間管理のアドバイスを行うアカデミック・コーチング、面接練習や職業選択をサポートをするキャリア・コーチングの二軸で、学業と就職の両方から利用者を支援します。スタッフがリードするプッシュ型のコーチングなので、自分からだと動けないという方にも安心です。

就労移行支援

Kaienの就労移行支援では、職業訓練から就活支援、就職後の定着支援まで、一般就労に向けたさまざまなサポートを行っています。

常時100種類以上の職種を体験できる実践的な職業訓練や、自己PRのつくり方からスーツの着方・就活の身だしなみ、基本的なビジネスマナーまで学べる講座など、多種多様なカリキュラムが特徴です。模擬面接をはじめとした面接練習や履歴書の作成サポート、面接への同行も実施しています。

自立訓練(生活訓練)

Kaienの自立訓練(生活訓練)では、プログラムを通して自身の特性理解や自立スキルの習得を目指します。就活の前段階として、将来の再設計や基盤を築きたいという方におすすめです。

プログラムはコミュニケーションスキルや生活スキルを身につける「ソーシャルスキル講座」、講座で学んだ内容を実践する「マイ・プロジェクト」、自身の強みをスタッフとマンツーマンで探す「カウンセリング」の3本柱で実践します。面接対策というよりは、特性への理解を深め、特性への対処方法や社会スキルを学べる場として活用できます。

Kaienでは、就労移行支援と自立訓練(生活訓練)ともに、無料の見学会や体験利用を随時実施しています。気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。

採用面接はASDの特性を考慮した対策を

ASDの方が採用面接を受ける場合、事前にASDの特性を考慮した対策を行うことが重要です。事前に質問を想定して準備したり、自分の特性を適切に伝える工夫をしたりすることで、相手が受ける印象は大きく変わるでしょう。また、家族や友人、支援機関など、第三者のアドバイスを参考に練習を重ねるのも有効です。焦らず、自分のペースで準備を進めていきましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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