自分を否定されたり批判されたりすると、誰しもが嫌な気持ちになるでしょう。しかし、そうした気持ちが人一倍強く、仕事や生活にまで支障をきたしてしまう場合、病気や特性が影響している可能性があります。実は回避性パーソナリティ障害はこのような傾向があり、あなたの悩みもその特性が起因しているものかもしれません。
この記事では、回避性パーソナリティ障害の症状が仕事に与える影響や、向いている仕事の種類、働きやすい職場環境を探すポイントなどを解説します。
回避性パーソナリティ障害の症状が仕事に与える影響
回避性パーソナリティ障害とは、失敗することや他人からの拒絶、批判などを恐れるために、それらにつながる可能性がある行動を避ける特徴がある障害のことです。
批判や否定を恐れるあまり他者とのコミュニケーションを避けることが多く、仕事においては自分の意見を伝えることや会議に参加して発言することなど、自分の考えを表に出すことを苦手とする傾向があります。また、周囲からの批判や嫉妬を避けるために、責任のある役職への昇進を拒むケースも珍しくありません。
ちなみに、回避性パーソナリティ障害の原因はまだ明らかになっていませんが、一説によると、先天的な遺伝要因と後天的な環境要因の相互作用が影響しているといわれています。
回避性パーソナリティ障害の方に向いている仕事の条件
回避性パーソナリティ障害の方は「自分が苦手なことをできるだけ避ける」という視点で仕事を探すと、無理なく働き続けられる仕事を見つけられる可能性が高まります。主な仕事の条件として、次のようなものが挙げられます。
- 人との関わりが少ない:チャットやメールなど文字でのやりとりが中心の職場。他者と密に関わることが少ない
- ルーティンワーク:工場作業や清掃業務など毎回同じ手順の業務。イレギュラーな業務や環境の変化が少ない
- マニュアルが整っている:失敗や判断ミスなどのリスクが少なくなるので、心理的な負担が軽くなる
- リモートワークやフレックス勤務:人との関わりや時間のプレッシャーを避けやすく、自分のペースで働ける
回避性パーソナリティ障害の方に向いている仕事8選
回避性パーソナリティ障害の方は、落ち着いた環境で一人で取り組める業務に適性があることが多いです。ここでは、自分のペースで安心感と集中力を保って働きやすい、おすすめの8つの職種を紹介します。就活や転職時のヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。
プログラマー
プログラマーは、システムやアプリケーションなどのソフトウェアを開発する職種で、プログラムコードを記述する作業が中心です。プログラムの構築は、仕様に従って論理的に進めていくため、ルールや手順が明確になっていることが多いです。
作業のほとんどが個人で進められるため人との会話が少なく、集中して仕事に取り組める環境が整いやすい職種でもあります。また、パソコンがあれば自宅でも作業できるので、在宅勤務やフレックス勤務を導入している企業も多く、自分のペースで働ける点も魅力です。
ウェブライター・編集者
ウェブライターや編集者は、主にインターネット上の記事やコンテンツの制作に携わる仕事です。文章の企画や構成、執筆、校正といった作業が中心で、ほとんどの業務が個人で完結します。働き方は正社員として働くほか、リモートワークやフリーランスとして業務委託を受けるケースが一般的なので、こまめなコミュニケーションや対面でのやり取りは少なめです。
また、業務連絡は主にメールやチャットツールで行われることが多く、口頭でのやり取りに苦手意識がある方でも安心です。作業ペースや働く時間をある程度自由に設定できるため、ストレスを抑えながら自分のスタイルで働きやすい職種といえるでしょう。
データアナリスト
データアナリストは、膨大な数値データを収集・分析し、経営や業務改善に活かす提案を行う仕事です。数字やグラフを扱いながら、論理的に物事を読み解くスキルが求められます。
業務の大部分はパソコンで行うため、静かな環境の中、一人で集中したいという方に向いています。人との関わりよりもデータを読み解くことに重きが置かれるので、コミュニケーションは比較的少なく、対人関係に不安を感じやすい方でも働きやすいでしょう。
図書館の司書
図書館の司書は、蔵書の整理や貸出対応、利用者への案内などを行う仕事です。図書館という静かな環境で働けることに加え、日々の業務が定型化されており、急な対応や判断を求められる機会が少ないのが特徴です。
利用者とのやり取りはあるものの、穏やかなコミュニケーションが中心であり、プレッシャーの強い対話が発生することは少ないです。見通しの立つ業務に安心感を覚えやすい方や、コツコツと丁寧に作業することが得意な方に向いています。
データ入力オペレーター
データ入力オペレーターは、紙媒体やデジタルの情報をフォーマットに沿って正確に入力する仕事です。マニュアルに基づいて手順が明確に定まっており、業務中の判断や対話の機会は少ない傾向にあります。
入力作業は集中力が求められますが、基本的には一人で取り組めるため、他人とやり取りすることなく自己完結が可能です。
また、業務委託の形を中心として在宅勤務の案件も多くあるので、職場に通わずに働くこともできます。在宅で働きたい方は、まずはクラウドソーシングサービスなどで案件を探してみるのもよいでしょう。
グラフィックデザイナー
グラフィックデザイナーは、広告やWebサイト、商品パッケージなどに使用されるデザインを制作する仕事です。デザインに関する基本知識や創造性は必要になりますが、作業は一人で集中して進めることが多いので、落ち着いた作業環境の中で働きやすいです。
コミュニケーションについては、クライアントとのやりとりは発生しますが、その多くはメールやチャットでも対応可能です。電話や対面でのやりとりを避けたい方にも向いているでしょう。
また、業務フローが比較的安定しているので、自分のリズムで作業を進めたい方にとっても働きやすい職種といえます。
イラストレーター
イラストレーターは、出版物・広告・ゲームなどの媒体で使用されるイラストを描く仕事です。業務の大部分は自宅などで一人作業として行われるため、淡々と作業したい方に適しています。
クライアントとのコミュニケーションは、発注イメージの確認やラフ、色のチェックなど、ステップごとに発生しますが、多くはチャットやメールでのやりとりで完結します。集中して一つの作業に没頭できる環境を好む方や、対面でのやり取りに不安がある方にとって、長く続けやすい仕事といえるでしょう。
工場勤務
工場勤務は、製品の組立や検品、梱包などを、決まった手順に沿って行う作業が中心の仕事です。業務がルーティン化されているため、突発的な業務対応が少なく、毎日の見通しが立てやすい点がメリットです。
また、業務のほとんどは個人単位で行われるので、人とのコミュニケーションもほとんどありません。黙々と作業に集中できる環境を求める方に向いているでしょう。
加えて、勤務時間や作業スケジュールが安定しているため、毎日の生活リズムを一定に保ちたい方にもおすすめです。
回避性パーソナリティ障害の方に向いていない仕事
社内外におけるコミュニケーションやイレギュラーな業務が多い仕事は、回避性パーソナリティ障害のある方にとっては強いストレス要因になりやすいので避けることをおすすめします。特に次のような職種は、特性との相性がよくないため注意が必要です。
- 接客業・営業職など、人と頻繁に接する仕事
- クレーム対応や緊急対応など、イレギュラーな業務が多い仕事
- 異動・転勤が多く、環境の変化が大きい職場
これらの職種では、他者からの評価や拒絶に敏感になりやすく、不安や緊張が継続的に続いて負担に感じてしまう可能性があります。仕事や職種を決める際には、具体的な業務内容をよく聞いて、自分にとってストレスが少ない環境で働けるかを確認しておきましょう。
回避性パーソナリティ障害とは
回避性パーソナリティ障害とは、精神疾患の「パーソナリティ障害」のうちの一つです。主な特徴として、他者からの批判や拒絶に対して過度な恐怖を抱き、人との関わりを避けようとする傾向が見られます。
失敗や否定されることへの強い不安は、仕事にも影響を及ぼします。たとえば、批判を恐れて会議に参加できなかったり、自分に価値がないと思いこんで昇進を断ったりする場合があります。
また、「傷つきたくない」という思いから人との接触を控えるようになり、社会的な孤立や就労困難につながるケースも少なくありません。
回避性パーソナリティ障害と発達障害の関連性
回避性パーソナリティ障害の症状は、発達障害*の特性と似ていると言われており、見極めが難しい場合があります。しかし、両者はあくまで別の障害で、発達障害が先天性であるのに対して、回避性パーソナリティ障害は後天性であるという大きな違いがあります。
また、発達障害の二次障害として回避性パーソナリティ障害を発症するケースがあります。回避性パーソナリティ障害は、幼少期の褒められた経験の少なさや他者からの否定などにより後天的に発症することがあり、その根本に発達障害による困難や生きづらさが隠れている場合があります。
ちなみに近年では、前述のように回避性パーソナリティ障害が二次障害である場合や、回避性パーソナリティ障害が原因で他の精神障害を発症し、そちらの症状が前面に出る場合もあり、回避性パーソナリティ障害と診断される例は減少傾向にあります。
回避性パーソナリティ障害の方の仕事選びのポイント
回避性パーソナリティ障害の方が仕事を選ぶ際のポイントとしては、失敗や批判につながる恐れがある要素をなるべく減らし、仕事中に感じるストレスを減らすことが大切です。以下に挙げるような基準を例に仕事を選んでみましょう。
- 会議やチーム作業が少ない
個人での作業が多く、会議や営業など対人関係を求められる場面が少ない - プレゼンテーションの機会がない
自分の意見を言う場や他者から注目されることが少ない - 異動や転勤がない
仕事の環境や業務内容の変化が少なく、慣れた環境で長く働きやすい - 実績の競争が少ない
成果や成績を他人と比較されることが少なく、プレッシャーを感じにくい
回避性パーソナリティ障害の方が無理なく働くコツ
回避性パーソナリティ障害の方が無理なく働くには、就労環境という外的要因を整えるほかにも、可能な範囲で治療や自己理解、働き方の見直しといった対応をしていく必要があります。ここでは、主な対処法や意識したいポイントなど、働き方のコツを5つ紹介します。
治療を継続する
回避性パーソナリティ障害の治療をしている場合、一時的に症状が改善したとしても、自己判断で治療をやめると症状が悪化する恐れがあるので危険です。状態が良くなったとしても、今後については必ず主治医に相談しながら対応を決めましょう。
なお、回避性パーソナリティ障害の治療法は、人との対話や訓練などを介して認知や行動に変化をもたらす精神療法が基本です。精神療法は主に以下の4つの治療目標に沿って行われます。
- 苦痛の緩和
- 起きている問題の原因が自分にあると自己理解できる
- 社会的不適応と思われる行動を減らす
- パーソナリティ特性を是正する
自己理解を深める
障害の特性や自分が苦手とすること、快適に過ごせる環境など、自己理解を深めることも大切です。理解を進めていく順序としては、まず障害の特性を知ったうえで、次に個人の特性理解を進めていきます。
自分の特性を理解する主な方法として、自身の特徴をアウトプットする方法があります。自分が回避しがちな状況やストレスに感じること、逆にコミュニケーションの中でもストレスに感じないことなどを書き出していき、自分の傾向を理解していきます。
その他にも、第三者の意見を参考にするために医師や専門機関に相談するといった方法もあります。
職場に合理的配慮を求める
合理的配慮とは、事業主が障害がある方に対して、能力を有効に発揮するために講ずるべき配慮や気遣いのことです。精神疾患や障害のある方に対する合理的配慮としては、出退勤時刻や休憩の頻度などに対する配慮や、可能な範囲における業務内容や就業環境の調整などがあります。
回避性パーソナリティ障害の方が求められる可能性がある配慮の具体例としては、コミュニケーションにチャットツールを使用する、会議やグループワークの機会を減らす、リモートワークやフレックス通勤を認めてもらうなどが考えられます。
障害者雇用を検討する
障害者雇用とは、一般雇用とは別に障害がある方を対象に雇用を行うことです。障害者の雇用の促進等に関する法律に基づいて、一定規模以上の企業は、障害がある方を一定割合以上雇用することが義務付けられています。
障害者雇用のメリットは、障害があることを前提にした就労が可能なことです。あらかじめ業務内容や就労環境、合理的配慮のすり合わせがしやすいので、障害に対する不安や負担を軽減した働き方が叶いやすくなります。
支援機関に相談
障害への対応や自分に合った仕事探しは1人で行おうとせず、専門家から就労や日常生活、障害理解などに対するアドバイスをもらえる支援機関を頼りながら進めることをおすすめします。
支援機関では、相談やカウンセリングだけでなく、専門的なプログラムや職業訓練なども利用可能です。例えば、障害がある方の一般就労を支援する「就労移行支援事業所」では、多くの場合、自己負担額なしで職業訓練やスキルアップ講座の受講、就職支援などが受けられます。
では、実際に利用できる支援機関にはどのような種類があるのか、次項で詳しく見ていきましょう。
回避性パーソナリティ障害の方が利用できる支援機関
回避性パーソナリティ障害の方が利用できる支援機関には、以下のようなものがあります。
- 就労移行支援事業所
障害がある方の一般就労を目標とし、障害理解やスキルアップなどを行うとともに、職業訓練や就活支援、就職後の定着支援など、就労に対する総合的なサポートを行う。 - 地域障害者職業センター
専門的な職業リハビリテーションを提供する。 - 障害者就業・生活支援センター
職業生活における自立を目指すサポートを実施。 - ハローワーク
障害者雇用の求人の提供や、専門知識を持った職員による相談などを行う。
Kaienでも就労移行支援を行っており、過去10年間で約2,000人の就職を達成した実績があります。就職率86%、月給は3人に1人が20万円以上と高い水準にあり、最長3年半という長い職場定着支援を受けられるのも特徴です。
Kaienでは無料で見学会や体験利用を実施していますので、お気軽にご連絡ください。
特性を理解し、向いている仕事を探そう
回避性パーソナリティ障害の方が安心して働くためには、まず自分の特性を正しく理解することが重要です。人との関わりに不安を感じる場合は、個人作業が中心の仕事や、業務内容が明確な職種を選ぶとよいでしょう。
また、Kaienをはじめとした支援機関を利用して自己理解を深めたり、職場に合理的配慮を求めたりすることも、働きやすさを高めるポイントです。就労に関する悩みがある場合は、Kaienまでお気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
監修者コメント
回避性パーソナリティ症が今回の記事ですが、実は精神科医としては診断したことがありません。対人関係や評価への過度な不安、傷つきを避けようとする傾向は見られるかもしれませんが、それは必ずしも「障害」と断定されるものではなく、性格特性や生育歴の中で形成された「対人様式」と言ったほうが適切な場合が多い印象です。また、パーソナリティ症の全般的な定義に「規範やその人から属する文化から期待されるものから著しく偏り…」とあるので、文化圏の違いによっては診断するもしないもありえます。確かにアメリカと日本では回避的とみなされる行動に差はありそうです。私自身もアメリカに行くと回避性パーソナリティと言われてしまうかも。
現実的に診察室に来た場合には、そこに苦しさがあり、治したいという希望がある場合には社交不安症と診断することが多い気がしますね。定義を読むと、一部は自閉症スペクトラムの方で二次障害的に形成されるような印象も受けます。回避性パーソナリティ症として明確に診断しなくても、その部分の苦しさに焦点をあて、長期的なカウンセリングを考えるということもあるとは思います。
ともあれ、回避性パーソナリティを診断されるということ自体は珍しいわけですが、同様のパーソナリティのある方が就労移行支援などで良い体験を社会へのリハビリとして積んでいくことは良いはずです。自分に当てはまると思う方には是非勇気を持って頼って欲しいですね。

監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。