大人のADHDは治せる?特徴や治療方法、改善策を解説

公開: 2010.12.13更新: 2025.7.22

テレビやネットなどで取り上げられる機会が増えてきたADHD(注意欠如多動症)。ADHDは発達障害*の一種で、先天的な脳機能の偏りによって、不注意や衝動性、多動性といった特性が現れるものです。ADHDは幼少時から特性が顕著に見られることが多いですが、中には大人になってからADHDに気付き、生活上や仕事上の困りごとを抱える方もいます。

この記事では、大人のADHDの特徴や主な治療方法、自分でできる対処法について解説します。ADHDの方が利用できる支援機関も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

大人のADHD(注意欠如多動症)とは?

ADHD(注意欠如多動症)は、子どもだけに見られるものではなく、大人になってからADHDと診断されるケースもあります。

子どものADHDというと「衝動的に話し出す」「じっと座っていられず動き回る」などの特徴が一般的です。一方、大人のADHDの場合、注意の持続が困難あるいは細部まで注意が向かないために、仕事や家事でのケアレスミスや物忘れが多いといった特徴が見られます。

ADHDの特性を持っていても、子どもの頃には症状が目立たずに見過ごされることがあります。そのため、成人後、就職や結婚などでライフステージが変わり、人間関係や行動範囲が複雑化した際に対処しきれず、問題が表面化して症状に気づくケースも少なくありません。

医学的に使われているものではありませんが、ADHDの特性は以下の3つのパターンに分けるとわかりやすいため、ここで紹介します。

●不注意優勢型

「うっかり」ミスや忘れ物、約束を忘れる頻度が高く、気が散りやすい。長時間集中できない場合や、片付けが苦手な場合などもある

●多動・衝動優位型

心と体が落ち着かず、じっとしていることが苦手で衝動的に行動してしまう

●混合型

不注意優勢型と多動・衝動優位型の特徴を併せ持つ

ADHDの特徴と原因について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。 

大人のADHD(注意欠如多動症)とは?向いている仕事や困りごとへの対処法

大人のADHDは治療すれば治る?

ADHDは生まれつきの特性であるため完治するものではありませんが、治療薬によって特性の一部緩和や改善は可能です。治療は精神科や心療内科などにかかり、定期的に通院して行います。処方された治療薬を飲むことで、神経伝達物質である脳内のドーパミンやノルアドレナリンなどのバランスを調節し、ADHDの特性である「不注意」や「多動・衝動性」を抑えます。

また、治療には服薬以外にも行動療法、環境調整、心理療法などを一緒に行うのが一般的です。グループ・プログラムなどの行動療法や、医師や臨床心理士からカウンセリングを受けて自分の行動や考え方の整理をし、ストレスを少なくする心理療法、生活リズムの見直しや職場の環境改善を行う環境調整などが挙げられます。これらを服薬と一緒に行うことで、ADHDの特性の緩和や改善が見込まれます。

大人のADHDの治療方法

先ほど触れたように、大人のADHDの治療方法には、主に以下の3つがあります。

  • カウンセリングを受ける
  • 認知行動療法
  • 薬物療法

上記に加えて、現在スマートフォンなどでプレイできる「デジタル治療用アプリ」が開発中です。ここでは、これら4つの治療方法について、詳しく解説します。

カウンセリングを受ける

カウンセリングをすることにより、自身のおかれている状態や症状を客観視でき、自己理解を深めることができます。カウンセリングは医療機関や支援機関などで受けることが可能です。薬の服用により、生活や仕事で「失敗が減った」「失敗しても自分を責めなくなった」などの成功体験を、カウンセリングの際に伝えるだけでも自信に結びつきます。

また、医師や専門家とのカウンセリングだけでなく、友人や家族とコミュニケーションをとるだけでも自己理解につながります。自分自身を知るためにも、身近な人に相談してみましょう。

認知行動療法

認知行動療法は物事のとらえ方や行動の偏りについて考え、ストレスを少なくしていく方法です。治療として受けられる医療機関はまだ多くはありませんが、特性に対する困りごとについてグループで話し合う「グループ・プログラム」などが、方法の1つとして挙げられます。

悩みを共有することで対処法を知り、知識を習得できるほか、自己理解を深める効果も期待できるでしょう。

薬物療法

大人のADHDの治療では、薬物療法も効果的です。ADHDにおける薬物療法は、特性を消失させたり障害を根治させたりするものではありません。投薬を通してADHDの特性を軽減させ、日常生活の困りごとの改善や生きづらさの緩和を目指すものです。

薬物療法には、衝動性・多動性の軽減や集中力・注意力を高める効果が望める薬を使用します。服用に際しては、医師の指示のもと用法・用量を守り、自己判断で減薬や断薬をしないことが大切です。具体的な治療薬については後述します。

デジタル治療用アプリが開発中

カウンセリングや認知行動療法、薬物療法といった治療をサポートするものとして、アメリカのAkili社で子ども用のADHDのデジタル治療用アプリゲームが開発されました。このゲームは、一人ひとりに最適化された課題をクリアをしていくことで大脳皮質を刺激し、ADHDの症状改善を促すといわれています。現在日本でも塩野義製薬が独占販売権を取得し、導入準備が進められているので、近い将来プレイできる可能性が高いでしょう。

1点注意したいのは、このアプリゲームはあくまでも治療をサポートするもので、他の治療方法の代替にはならないということです。現時点では、治療の補完的な位置づけだと捉えておきましょう。

ADHDの代表的な治療薬

ADHDの治療で主に使われる4種類の治療薬を、以下に表でまとめました。

治療薬概要
コンサータ・ADHDの治療薬として国内で初めて承認を受けた・ドーパミンの再取り込みを抑制し、不注意の特性に効果がある
・1日1回、朝に服用
ストラテラ・ADHDの特性全体に効果が見込める
・コンサータよりも副作用を感じにくい・効果を実感するまでに数週間かかる
・1日1回もしくは2回の服用
インチュニブ・多動・衝動性や感情不安定に効果あり・チックや反抗挑戦性障害(反抗挑発症)を併発している方にも有効・体質によって合う合わないがある
・1日1回服用
ビバンセ・6~18歳の小児を対象とした新しい治療薬
・欧米ではポピュラー
・不注意の特性の改善に効果が見込める

大人のADHDの治療では、主にコンサータやストラテラ、インチュニブが処方される場合が多いでしょう。

ADHDの診断方法

ADHDの診療は精神科や心療内科で、問診や各種検査に基づいて行われます。また、診断にはアメリカ精神医学会が発行した「DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)」が参照されます。主に行われる検査方法は次のようなものが挙げられます。

●CAARS(Conners’ Adult ADHD Rating Scales)

ADHD症状の度合いを測定する心理検査で、18歳以上が対象。検査を受ける人が自分で記入する自記式と家族など周囲の人が記入する観察者評価式に分かれている

●ADHD-RS(ADHD-Rating Scale/ADHDアセスメント)

18歳以下が対象で、ADHDの特性に関する18項目の質問に保護者・教師など周囲の人が回答する形式の検査方法。家庭版と学校版に分かれており、結果は4段階で評価される

ADHDの診断方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

大人のADHDは何科を受診する?検査方法や診断までの流れ、医療機関の探し方を解説

大人のADHDの方が自分でできる対処法

薬物療法や認知行動療法などの治療法の他に、大人のADHDの方が自発的にできる対処法として、以下が挙げられます。

  • 自己理解や特性理解を深める
  • 規則正しい生活習慣を身につける
  • 適切な支援を受ける

それぞれの対処法を詳しく見ていきましょう。

自己理解や特性理解を深める

自己理解・特性理解とは、自分のこれまでの経験や、ADHDの特性に関連するできごとを客観的に振り返り、自分自身を見つめ直すことです。特性による得意・不得意が理解できれば、自分に合った環境を見つけやすくなります。特に、就職や転職を行う際は、自己理解や特性理解は不可欠でしょう。

自己理解や特性理解の方法として、以下が挙げられます。

  • ADHDに関する本を読む
  • 自分の得意なこと、苦手なことを紙に書きだす
  • 日常生活で困ることを紙に書きだす
  • 親や友人、信頼できる同僚などに自分に対する客観的な意見を聞く

自己理解や特性理解を深めることは、周囲と円滑なコミュニケーションを行う上でも大切です。

規則正しい生活習慣を身につける

睡眠不足や食生活の乱れは、生活の質を下げることにつながるので要注意です。規則正しい生活習慣を身につけることで、失くしものが減る、気が散りにくくなるといった効果も期待できます。ADHDの方は睡眠障害のある方も多く、不眠によって注意力に影響が出ることも少なくありません。

生活リズムを整えたい場合は、後述する自立訓練(生活訓練)も有効なので、自分だけでは生活習慣を整える自信のない方は利用を検討してみましょう。

適切な支援を受ける

自分だけで問題を抱えるのではなく、適切な支援を受けるのも1つの手段です。支援先は相談したい内容によって異なり、日常生活に対する困りごとがあれば発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなど、就労の相談ならば就労移行支援事業所や地域障害者職業センターなどが利用できます。

主な支援先については後述しますが、各支援先によって目的や支援内容が異なるため、自分に合った支援先を選ぶことが大切です。

ADHDの方が利用できる相談・支援先

ADHDという診断を受けたとき、もしくは「ADHDかもしれない」とわかった際には、専門家への相談も検討してみましょう。ここでは、日常生活や就労に関する困りごとについて相談できる専門機関を紹介します。

日常生活の困りごとに対する相談先

日常生活におけるさまざまな困りごとを相談できる場所として、以下の相談先があります。

  • 発達障害者支援センター:ADHDなど発達障害がある方への総合的な支援を目的とした専門的機関で、都道府県・指定都市に設定されている
  • 精神保健福祉センター:精神保健や精神障害のある方の福祉に関する相談および指導を行う施設で、各都道府県に設置されている
  • 自助グループや家族会:ADHDの特性による困りごとを抱えた人が集まる場所で、困難をうまく乗り越えるアドバイスやアイデアを共有できることもある

就労に関する支援機関

就労に関する主な相談先として、下記があります。

  • 就労移行支援事業所:ADHDなど障害のある方を対象とし、一般企業への就職サポートや定着支援を行う場所
  • 地域障害者職業センター:障害のある方向けの職業リハビリテーションや就職継続支援などを提供する場所で、都道府県に設置されている
  • 障害者就業・生活支援センター:障害がある方の職業生活における自立を目的とし、就労面や生活面に関する相談や支援を行う機関
  • ハローワーク:求人紹介やセミナーなど就労全般をサポートする場所(発達障害の理解がある専門チューターの配置や相談業務がある場所も)

Kaienでは、就労移行支援と自立訓練(生活訓練)を通して、大人のADHDの方の就職と自立した生活をサポートしています。

就労移行支援では、ADHDの特性理解が深まる講座や、特性に合った仕事を探せる職業体験、ADHDに理解のある企業への就職サポートなどを行っています。

就職の前段階に位置する自立訓練(生活訓練)では、コミュニケーションスキルや生活スキル、感情コントロールの方法などを実践的に学びながら、ADHDの方が自分を見つめ直すサポートを行います。

就労移行支援と自立訓練(生活訓練)のいずれも無料見学会・体験利用を随時実施しているので、気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。

大人のADHDは特性に合った治し方や改善方法を探そう

大人のADHDの特性は生まれつきのものですが、治療薬や対処法を工夫することで状態の緩和を図れます。カウンセリングや相談などによる自己理解、規則正しい生活習慣、認知行動療法なども困りごとを減らす方法として有効です。加えて、適切な支援を受けることで、問題解決への道筋を見つけやすくなる可能性があります。自分の特性に合った治し方や改善方法を探してみてください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

自分がADHDじゃないか?と疑問を持つ方はますます増えているようです。特に成人女性に多いようで、実際私の外来でも成人で初診に至った方が大勢いらっしゃいます。これは大人になってから発症した訳では無いと考えられています。小さい頃はADHD特性があっても「子どもなら当たり前」と言われたりして見逃され、「上手くできないこと」が軽く見られてしまうことが多いのです。能力のある方の場合には、成人するまでの環境下では何とかやってこられたり、周囲の自然な配慮によって問題視されてこなかったという方も大勢います。ADHDは脳の特性という性質上、治療で無くす類のものではありませんが、医療的には抗ADHD薬という手段があり、とても役立つこともわかっています。日常生活上の工夫は不可欠ですが、それに加えて医療に相談という手段も恐れずに考えてもらえればと思います。

また、ADHDは不安症、うつ病、双極症を合併することが多く、そちらの治療から開始されている方もいます。その場合、症状が強ければ優先されるべきはそれぞれの疾患治療になりますが、一方でADHDへの対策、治療も重要なことがわかってきました。自分には特性があるのでは?と疑う方は主治医と是非相談してみてください。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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