認知行動療法(CBT)とは?種類や期待できる効果、実践方法を解説

公開: 2024.4.16更新: 2025.4.28

認知行動療法(CBT)とは、物事の捉え方を変えることでストレスの軽減を目指す治療方法です。不安障害圏の疾患、特にパニック障害、社交不安障害や強迫性障害に効果が高いことが知られており、うつ病や双極性障害などを含め、多くの精神疾患に効果が認められています。薬を使用しないため、薬による副作用が無いこともメリットの1つです。

この記事では、認知行動療法(CBT)の種類や期待できる効果、実践方法を解説します。この記事を読んだ後には、認知行動療法の全体像を理解し、自分に合った認知行動療法を受けられる・学べる先を見つけられるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。

認知行動療法(CBT)とは?実践に知っておきたい知識

認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)は「認知(物事の受け取り方や考え方)」と「行動」に着目し、ストレスや不安、抑うつなどの心理的な問題を改善する心理療法です。私たちは出来事に対して、無意識に特定の思考パターン(自動思考)を持ち、それが感情や行動に影響を与えています。

認知行動療法では、この「認知の偏り」に気づき、より柔軟で現実的な考え方に修正することで、心の健康を整えることを目指します。次の章で、認知行動療法の実践に重要な要素について詳しくみていきましょう。

認知行動療法に重要な4つの項目

認知行動療法では、心の働きを構成する「認知」「感情」「身体」「行動」の4つの項目が重要です。これらは相互に作用し、ストレスや不安の原因となることがあります。

例えば「同僚と目が合ったのに挨拶してくれなかった」という場面では、以下のように反応するかもしれません。

  • 認知:自分は嫌われているのかもしれない(物事の受け取り方や思考パターン)
  • 感情:悲しい(思考に基づいて生まれた感情)
  • 身体:心拍数が上がる(感情が引き起こした身体的な反応)
  • 行動:仕事を無断欠勤し、部屋に引きこもる(思考・感情の影響により取った行動)

上記のうち、認知と行動は自分でコントロールしやすいとされています。反対に、感情と身体は自分で変えようと思ってもなかなか変えられないでしょう。

認知の偏りを改善する精神療法

認知行動療法は、先述した「認知」「感情」「身体の反応」「行動」の4つの要素のうち、特に「認知」の偏りに着目して改善を図る精神療法です。

ここでも「同僚と目が合ったのに挨拶をしてくれなかった」というシーンで考えてみましょう。「自分は嫌われているのかもしれない」と悲観的に捉える思考パターンは、不安や抑うつ感を引き起こす場合があります。

認知行動療法では、こうした非現実的な考え方を客観的に見直し、より柔軟でバランスの取れた思考へと修正していきます。先ほどの例では「こちらに気づいていなかったのかもしれない」「考えごとをしていたのかな」と考えると、あまりストレスを感じないかもしれません。

認知行動療法によって認知を修正することで、感情や身体、行動にも良い変化をもたらし、精神的な不調を軽減できるでしょう。

実践の焦点となる「自動思考」と「スキーマ」

「自動思考」とは、瞬間的に浮かぶ考えやイメージのことを指します。例えば、同僚が挨拶してくれなかったときに「嫌われたに違いない」と即座に思うのが自動思考です。多くの場合、自動思考は意識せずに繰り返されるため、感情や行動に強い影響を与えます。

こうした自動思考の背景には「スキーマ」と呼ばれる深い信念や思い込みが存在します。仮に「自分は嫌われやすい」というスキーマを抱えている場合は、たった1回挨拶を無視されただけでも「あの人に嫌われてしまった」と認知してしまうかもしれません。

認知行動療法では、主に現在の自分を苦しめている自動思考に対して働きかけます。一方で、認知行動療法とは別の「スキーマ療法」では、過去の辛い経験や深層心理に働きかけ、生きづらさの根本にあるスキーマに気づき、徐々に改善していきます。

参考:厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)p18-19

認知行動療法の種類

認知行動療法にはさまざまな技法があり、目的や症状に応じて使い分けられます。代表的なものは以下のとおりです。

  • 曝露療法(エクスポージャー法):恐怖や不安の対象に段階的に触れることで、過剰な反応を和らげる方法
  • コラム法(認知再構成法):出来事に対する自動思考を整理し、現実的で柔軟な考え方に修正する技法
  • 呼吸法:過度な緊張や不安を和らげるための身体的アプローチ方法
  • イメージ技法:安心できる場面を思い浮かべて不安を軽減する方法

呼吸法は、1回の呼吸を5〜6秒かけて行い、数分間繰り返すことでリラックス効果が期待できます。イメージ技法は、不安や緊張を感じたときに、安心できる風景や心地よい思い出を思い浮かべて感情を落ち着かせます。

認知行動療法では、身体的・感覚的アプローチを活用することで、ストレスへの対処力を高められるでしょう。

参考:厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)p10

認知行動療法で期待できる5つの効果

認知行動療法を実践すると、以下の5つの効果が期待できます。

  • 日々のストレスが軽減される
  • 物事を前向きに捉えられる
  • 自分の強みを理解できる
  • 問題解決力が身につく
  • 精神の病気の症状改善や再発予防効果が期待できる

認知行動療法は、考え方や行動パターンに働きかけることでストレスや不安の軽減だけでなく、前向きな思考や問題解決力の向上にもつながります。次の章では、具体的にどのような効果が期待できるのか、詳しく解説します。

日々のストレスが軽減される

認知行動療法は、ストレスの原因となる「認知の歪み」に気づき、修正することで、日々のストレス反応を軽減する効果が期待できます。例えば「失敗=自分はダメな人間」「自分が悪いに違いない」といった極端な思考が続くと、些細な出来事でも強いストレスや不安を感じやすくなるでしょう。

認知行動療法では、自動思考を客観的に見直し、より現実的で柔軟な思考パターンへと修正していくことで、ストレスの受け止め方が穏やかになります。先ほどの例だと「誰にでも失敗はある」といった認知に書き換えていきます。

認知を変えることで感情の揺れが小さくなり、ストレスを感じにくい心の土台が整うでしょう。その結果、ストレスを軽減できるだけでなく、ストレスを抱えにくい思考習慣を身につけられます。ストレスとの向き合い方を根本から変えることができるのが、CBTの大きな強みです。

物事を前向きに捉えられる

認知行動療法の目的は、物事に対する極端で悲観的な考え方を見直し、思考のバランスを整えることです。思考のバランスが整うことで、状況を冷静に見つめられるようになり、ネガティブな感情に振り回されにくくなります。

例えば「失敗した=自分は無能だ」といった偏った認知は、自己評価の低下や落ち込みにつながるでしょう。認知行動療法では、このような自動思考に気づき「今回はうまくいかなかったけど、次に活かせる」といった現実的かつ前向きな捉え方へと修正していきます。

思考が柔軟になることで、状況を冷静かつ多角的に捉えられるようになり、不必要に自分を責めたり、物事を悪く解釈したりする傾向が改善されます。結果として、ネガティブに捉えていた出来事も前向きに受け止められるようになり、気持ちも安定するでしょう。

自分の強みを理解できる

認知行動療法は、ネガティブな思考に偏りがちな自動思考を見直す過程で、自己理解を深める効果も期待できます。「自分がどんな場面でストレスを感じやすいのか」逆に「何にやりがいや楽しさを感じるのか」を振り返るなかで、自分の価値観や特性に気づけるためです。

ネガティブな考えにとらわれていると、自分の良い面や得意なことに気づきにくくなりますが、思考の偏りを修正することで「人と話すのが得意」「コツコツ努力を続ける力がある」といった自分の強みを発見し、言語化できるようになります。

こうした強みは、職場だけでなく人間関係や将来のキャリア選択など、今後の人生をより前向きに、自分らしく生きるための大きなヒントとなります。

認知行動療法は単にストレスを軽減するだけでなく、自分らしい生き方を見つけるための手助けにもなるのです。

問題解決力が身につく

認知行動療法では、自分の思考や感情のパターンに気づき、対処する方法を学ぶことで自己理解が深まります。

自分がどんな場面でストレスを感じやすいのか、どのような対応が効果的かを理解することで、困難に直面した際にも冷静に対処できるようになるでしょう。

認知行動療法では、問題を具体的に整理し、優先順位をつけ、現実的な解決策を検討するトレーニングも行われます。

こうしたプロセスを通して、感情に流されることなく行動できる問題解決力が身につき、日常生活での悩みやストレスへの耐性が高まるでしょう。その結果、心の疲れや落ち込みを未然に防ぎ、より前向きな思考と行動が可能になります。

認知行動療法は、心のケアにとどまらず、日常生活で役立つ実践的な力も養うことができるアプローチです。

精神の病気の症状改善や再発予防効果が期待できる

認知行動療法は、うつ病や不安障害、強迫症、PTSDなど、さまざまな精神疾患に対して効果が認められている科学的根拠に基づいた精神療法の一つです。物事の捉え方やストレスへの反応に働きかけることで、症状の緩和だけでなく、再発を予防する力も育まれます。

また、認知行動療法で身につけたスキルは、治療後も日常生活で活かすことができ、再発予防にもつながります。例えば、悲観的な思考を前向きに修正する力や、自分の強みに気づく自己理解、冷静に状況を整理する問題解決力などは、再び心が不調に傾いたときにも大きな支えとなります。

科学的根拠に基づいた精神療法である認知行動療法は、継続的なメンタルヘルスの維持にも有効です。治療を終えた後もセルフケアとして活用できるため、再発リスクを抑え、安定した心の状態を維持しやすくなるでしょう。

認知行動療法の対象者

認知行動療法は、主に以下のような人が対象になります。

  • うつ病
  • 双極性障害
  • 社交不安障害
  • 発達障害*
  • 統合失調症
  • パニック障害
  • 心的外傷後ストレス障害
  • 強迫性障害
  • 摂食障害
  • ネガティブな考えを和らげたい人
  • 職場や学校での人間関係に悩んでいる人 など

抗うつ薬などを使う薬物療法と認知行動療法を併用するケースもあれば、症状が軽度なら認知行動療法のみで治療を進めるケースもあります。

認知行動療法の実践方法

一般的に、認知行動療法は以下の流れで実践されます。

  1. アセスメント(評価)

まずは、現在の悩みや症状、生活状況を詳しく聞き取り、問題の全体像を明らかにします。

  1. 治療目標の設定

「どのような状態を目指すか」「どの問題に優先的に取り組むか」などを話し合い、具体的な治療目標を設定します。

  1. 自動思考の記録・理解

日々の出来事やその時の思考・感情・行動を記録し、自分の思考パターンや反応の特徴に気づいていきます。

  1. 認知再構成・行動活性化

偏った思考に対し、現実的で柔軟な考え方を取り入れたり、新たな行動にチャレンジしたりして、考え方や行動の修正を図ります。

  1. 振り返りと再発予防

学んだことを整理し、将来のストレスや問題にどう対応するかを考えることで、再発を予防します。

認知行動療法は、上記の段階を踏みながら心の状態を安定させる力を育てていきます。認知行動療法は、医師や臨床心理士などの専門家の指導のもとで進めることが基本です。専門家の指示に従って実践しましょう。

参考:厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル p4

参考:国立精神・神経医療研究センター そもそも認知行動療法(CBT)ってなに?

認知行動療法を医療機関で受けるときの流れ

認知行動療法を医療機関で受けたい場合は、まず精神科や心療内科を受診し、医師に相談しましょう。

医療機関で認知行動療法を受けるときの流れは、以下のとおりです。

  1. カウンセリングを実施している精神科・心療内科を探す
  2. 認知行動療法のカウンセリングを実施している・または認知行動療法を専門とするカウンセラーが在籍しているか確認する
  3. 予約手続き・注意事項の確認を行う
  4. カウンセリングの日程を決めて予約する

認知行動療法は面接だけでなく、日常生活での行動記録や課題(ホームワーク)を行うことが治療の中心であり、ホームワークは必須となります。ホームワークを実践することによって、現実生活の中で思考や行動の変化を感じやすくなるでしょう。

認知行動療法は個人で実践できる?

認知行動療法は、基本的には医師や臨床心理士など専門家の指導のもとで実施するのが一般的です。一方で、書籍やワークブック、スマートフォンのアプリなどを活用することで、セルフで実践することもできます。

自分の思考パターンや行動傾向に気づき、記録・振り返りながら少しずつ変化を促していく認知行動療法は、自宅でも取り組みやすい手法として注目されています。

しかし、心身の調子が著しく悪い時は、自己判断で実践しても十分な効果が得られない場合があります。自己流での実践はかえって逆効果になる場合もあるため、体調が悪いときはまず休養を優先し、専門機関へ相談しましょう。

医療機関以外で認知行動療法を実践できる場所

認知行動療法は医療機関での実施が基本ですが、ほかにも専門的な支援を受けながら実践できる場所があります。

例えば、国立精神・神経医療研究センターが運営する「CBTセンター」や、専門資格を持つ心理専門職が運営するカウンセリングルーム、自立訓練(生活訓練)事業所などが存在します。

自分の状態や目的に応じて、適切な場所を選ぶことが重要です。一部の機関では主治医の許可が必要となりますので、利用する前に相談しましょう。

CBTセンター

CBTセンターは、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が運営する、認知行動療法の専門機関です。うつ病や不安障害、強迫性障害などに対し、科学的根拠に基づいた認知行動療法を提供しており、個別カウンセリング形式で治療が行われます。

注意点として、CBTセンターを利用するには主治医の許可が必要です。認知行動療法は治療の一環として行われるため、必ず医療機関での診察を経たうえで申し込みを行いましょう。

治療は全12回(週1回程度)で構成されており、ホームワークも含めた体系的なアプローチが採用されています。毎回のセッションで得た気づきを日常に活かすための課題に取り組むことで、より効果的な変化が期待できます。認知行動療法の専門家による質の高い支援を受けたい方にとって、信頼できる選択肢といえるでしょう。

参考:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター CBTセンターでの認知行動療法

カウンセリングルーム

認知行動療法は、臨床心理士や公認心理師といった国家資格を持つ専門職が運営する、民間のカウンセリングルームでも実践されています。カウンセリングルームのなかには、認知行動療法をベースとした支援を提供しているところが多数存在します。

カウンセリングルームでは、個人の悩みに合わせた柔軟な対応が可能です。例えば、うつ症状、不安、対人関係の悩みなどに対して、思考や行動のパターンを見直すサポートが受けられます。

カウンセリングルームは医療機関のように診断や処方は行いませんが、話すことを通じて自己理解を深めながら、認知行動療法の考え方を取り入れた実践的な課題に取り組めるでしょう。費用や継続回数、提供されるプログラムの内容などは施設ごとに異なるため、事前に確認しておくと、より安心して利用できます。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

精神障害や発達障害、グレーゾーンの方を支援するKaienの自立訓練(生活訓練)では、認知行動療法の考え方を取り入れた支援を行っています。

Kaienのプログラムでは、ストレスや不安、抑うつ的な感情への対処方法を学び、日常生活での困りごとを軽減するスキルを身につけることができます。「自己理解」「感情整理」「課題の細分化」など、認知行動療法で重視される思考と行動の見直しをサポートする内容が組み込まれており、実生活に即した形で実践的に学べる点が特徴です。

また、Kaienの自立訓練(生活訓練)では、グループワークや個別支援など、参加者の状態やニーズに応じた支援プログラムが用意されています。自立訓練(生活訓練)を含めた障害福祉サービスの種類、対象者、利用の流れについては、以下の記事をご覧ください。

障害福祉サービスとは?種類や対象者、利用の流れを解説

認知行動療法を実践したい方はKaienへご相談ください

認知行動療法(CBT)は、物事の捉え方・思考パターンの「認知」や行動に働きかけることで、ストレスや不安、抑うつなどの改善を目指す科学的に裏付けられた心理療法です。思考の偏りに気づき、より柔軟な考え方を身につけることで、前向きな行動や自己理解、問題解決力を高める効果が期待できます。

認知行動療法は医療機関だけでなく、CBTセンターやカウンセリングルーム、自立訓練(生活訓練)など、さまざまな場所で実践可能です。Kaienの自立訓練(生活訓練)では、認知行動療法をベースにした100以上のプログラムを実践しています。

認知行動療法を通して自分らしい生き方を見つけたい方は、ぜひKaienの自立訓練(生活訓練)にご相談ください。

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