こだわりの強さが仕事や日常生活に影響を与えている場合、何とかしたいと感じている方も多いでしょう。過度なこだわりの強さの背景には、発達障害*が隠れているかもしれません。独特のこだわりがある特性について理解を深め、困りごとへの対策を講じてみてはいかがでしょうか。
この記事では、こだわりの強さと発達障害の関係やASD(自閉スペクトラム症)の特徴などを紹介します。特性への対処法についても解説しているので、こだわりの強さで悩んでいる方は参考にしてみてください。
こだわりが強いのは発達障害の特性と関係がある?
「朝はパンを食べる」「同じ枕でないと寝られない」など、どんな人にも少なからずこだわりがあります。そのため、こだわりがあることがすなわち発達障害であるとはいえません。
発達障害の特性が影響している可能性があるのは、社会への適応が難しいほど強いこだわりがある場合です。こだわりが社会生活に支障をきたすようなら、通常であれば諦めてほかの方法を選ぶでしょう。
しかし、発達障害の方はこだわりを諦めることに強い抵抗を覚え、なかなか習慣を変えられない側面があります。このように、社会と共存できないほど強いこだわりがある場合に、発達障害の特性が影響している可能性が示唆されます。
大人のASD(自閉スペクトラム症)とは
こだわりの強さと深いかかわりのある発達障害がASD(自閉スペクトラム症)です。ASDは独特のこだわりやコミュニケーションの難しさを特徴としており、興味・関心の範囲が限定されやすいことでも知られています。
ASDの方は特性により、特定のものに極端な興味を示したり、場の空気を読めなかったりすることで、生きづらさを感じる傾向にあります。
基本的に発達障害は生まれつきの脳機能のかたよりが原因であるため、大人になってから発症することはありません。会社に勤めるなど、成長して状況が変わったことでこれまで目立たなかった特性が顕在化した場合に「大人の発達障害」という表現が使われます。
ASDの方に見られるこだわりの特性とは
ASDの方には、「物事の手順やルールに強くこだわる」といった特性が見られることが少なくありません。この特性は、規則正しい生活や単純作業の継続といった長所となる反面、スケジュール変更を極端に嫌がるなどの短所につながる場合もあります。
ASDならではのこだわりの強さの背景には、想像力を働かせて未来の出来事を予測することの難しさに加え、変化や予測不能な状況に対する不安の強さが関わっていると考えられています。このため、決まった手順や習慣を重視し、柔軟な対応が難しくなる傾向があります。
また、他者と積極的に関わるタイプのASDの方では、自分なりのルールや考え方を相手に強く伝えようとする場面が見られることもあります。さらに、ミスや例外に敏感に反応し、融通が利きにくくなる場合もあります。
ASDのこだわりの強さによる困りごと
ASDのこだわりが強い特性による困りごとには、以下のような例があります。
- 自分で決めたルールに執着し、物事が順調に運ばないとイライラする
- 関心が強い特定の作業にこだわるあまり、ほかの作業をないがしろにする
- 自分が絶対に正しいと思い込み、他人の言動に怒りがわくことがある
- 突然予定が変更になったときなど、臨機応変な対応が難しい
- 何事も白黒をつけないと気が済まず、曖昧なままにしておけない
- 寝る時間や食事の時間などにこだわり、規則正しい生活を送れないと不安になる
こだわりの強さは大人の場合、仕事でのトラブルなどに発展するケースも少なくないため、困りごとへの対処法を身につけておくと安心です。
仕事におけるASDの強みと弱み
ASDの特性は、仕事内容によって強みにも弱みにもなります。
例えば、「こだわりが強い」という特性は「ルールをしっかり守って作業できる」という強みであり、確立されたルールがある仕事には高い水準で取り組めます。一方で、「臨機応変な対応が苦手」という弱みでもあるため、手順やルールが明確に提示されていない仕事では、強いストレスを感じるでしょう。
また、「興味のある分野には高い集中力を発揮できる」という特性も、仕事内容と興味が一致すれば大きな強みになります。しかし、業務内容が多岐にわたる職場では興味のない作業を任される可能性があり、負担を感じるかもしれません。
このように、同じ特性でも環境によって長所にも短所にもなり得るため、自分の特性を理解し、それに合った仕事を選ぶことが大切です。
ASDのこだわりが強い特性への対処法
ASDのこだわりの強さは、社会生活を送るうえで生きづらさの原因となることも多いです。しかし、工夫次第で困りごとは解消できる可能性があるため、諦めずに方法を模索する姿勢が大切です。自身の特性への対処法を知り、こだわりの強さを長所に変えていくとよいでしょう。
強迫症などの二次障害で見られるこだわりは、認知行動療法や暴露療法、薬物療法などが有効です。ただし、ASDのこだわりは先天的で変えづらく、悩んでいる方も多いでしょう。
ここからは、ASDのこだわりが強い特性への対処法を5つ紹介します。
職場に相談する
こだわりの強さで困っている場合、特性について職場の上司や同僚に相談する方法が有効です。ASDの特性で仕事に支障をきたしているなら、生産性の観点から会社としても解決してほしいはずです。職場で自身の特性について相談し、上司や同僚に問題解決のため協力してもらうのが合理的といえるでしょう。
例えば、「適当に」「いい具合に」などのあいまいな表現を避け、具体的でわかりやすい指示を出してもらうなど、配慮を求める方法が考えられます。また、自分でもメモと復唱を徹底し、自分のこだわりに影響されず、指示のとおりに仕事がこなせるよう努めるとよいでしょう。
障害者差別解消法によって、事業者にはこうした「合理的配慮」の提供が義務づけられています。合理的配慮とは、障害のある方一人ひとりに適切な配慮をしようという概念を指します。障害者雇用だけでなく一般雇用においても適用されるため、困りごとがある場合には我慢せずに早めに相談することが大切です。
障害への理解を深める
ASDの特性による困りごとを解消するためには、自身の障害特性を理解し、特性に合わせた対処法を実践することが重要です。
具体例として、ノートに行動と怒りのポイントなどを記録して可視化し、振り返れるようにすることが挙げられます。自分の感情を客観視することで、「怒るようなことではなかった」などと思えるようになり、独特のこだわりから離れやすくなるでしょう。
また、自分と他人を切り分けて考えるよう心がけることも大切です。こだわりの強い方は他人の不正などを許せない傾向にありますが、「自分は自分、他人は他人」と割り切ることができれば余計なトラブルは避けられます。
障害への理解を深めて自身を顧みれば、妥協点を見つけながら社会生活を続けやすくなるはずです。
ソーシャルスキルを習得する
仕事などを円滑に進めるためにも、ソーシャルスキルの習得が必要です。ソーシャルスキルとは、自分の感情をコントロールしたり、他人の感情を理解したりして、社会生活を送るうえでスムーズな対人関係を構築していく能力のことです。
ソーシャルスキルを身につけることで、こだわりが強い特性に悩んでいる方も暮らしやすさや働きやすさを向上させられます。
発達障害者支援センターや就労移行支援事業所などでは、発達障害のある方を対象に、特性に合わせた支援を行っています。現在の悩みを克服するためにも、これらの福祉サービスを積極的に活用するのがおすすめです。
自身の強みが活きる働き方を見つける
先ほど紹介したように、ASDの特性は強みにも弱みにもなります。そのため、自身の特性を活かしやすく、苦手なことが求められにくい働き方を見つけることが大切です。
例えば、ASDの方は「単独で進められる仕事」や「マニュアルが確立されている仕事」などを得意とする人が多いため、こうした職種を探してみるのもひとつの方法です。特に、ルールが明確で決まった手順に従って進める業務では、高い集中力を発揮できるでしょう。
また、精神障害者保健福祉手帳を持っている場合は、障害者雇用での就職も検討してみてください。障害者雇用では特性に合わせたサポートを受けやすく、自分に合った働き方を見つけやすいのがメリットです。
専門機関に相談する
ASDの特性に悩んでいる方は、専門機関や医療機関へ相談することも大切です。専門家の意見を聞くことで自身の特性をより深く理解し、適切な支援を受けるきっかけになります。
以下のような機関では、ASDの方の就労や生活に関する相談を受け付けています。
- 発達障害者支援センター
- ハローワーク
- 障害者職業センター
- 就労移行支援
- 自立訓練(生活訓練)
専門機関を活用することで、自分に合った働き方や生活スタイルを見つけやすくなります。ひとりで悩まず、まずは気軽に相談してみてください。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、一般企業での就業を目指す障害のある方に手厚いサポートを提供しています。職業訓練では100種類以上の職業を体験できるほか、専門的な技術を身につけたい方はプログラミングなどのコースも選択可能です。
また、講座を通して障害特性への理解を深め、苦手への対処法やソーシャルスキルを身につけられます。就活においても、障害に理解のある企業200社以上と提携しており、希望に合った求人を紹介してもらえるのがKaienの魅力です。
困りごとへの対処法を習得して就職を目指すためにも、Kaienの就労移行支援のご利用をぜひご検討ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienの自立訓練(生活訓練)は、自分を見つめ直したい、将来を再設計したいという方におすすめの福祉サービスです。
プログラムでは、障害理解や自立生活、進路選択といったジャンルの知識やソーシャルスキルを習得できます。そのうえで、実践的なプロジェクトを経て習得した知識・スキルをしっかりと身につけられるのが特徴です。
また、担当スタッフとのカウンセリングでは二人三脚で日々の振り返りを行い、将来に向けての強みを探していきます。Kaienの自立訓練(生活訓練)を通して自分の障害特性を見つめ直し、自立に向けて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
こだわりが強い特性を強みに変えて
こだわりの強さで日常生活や社会生活に支障をきたしている方は、ASDの可能性があります。ASDには孤立型や積極奇異型、グレーゾーンの方に多く見られる過剰適応型など、タイプはさまざまです。
ASDが疑われる場合は、医療機関で診断を受けたうえで、障害特性の理解やソーシャルスキルの習得といった対処法を講じるとよいでしょう。
Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)では、無料の見学会や説明会を随時開催しているので、興味がある方はぜひご参加ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
こだわりの強さ、は確かにASD特性として強く顕在化していることがあります。こだわりは、悪いことばかりではなく、ミスなく細かいところも遺漏なく作業することが、緻密な作業、職人芸や芸術性に反映されている場合にはとても優れた特質とも言えます。
一方で、周囲の人が困っているときもあります。例えばある計測系の仕事に就いていた方は、計測機器の見方として、ある程度の誤差は許容範囲として先に進めていくべきところ、どうしても正確な値の読み取りに固執してしまい仕事が滞っていました。
ASD特性によるこだわりは自分自身には違和感がないため、指摘されても変える必然性を意識することが難しいとも言われます。とはいえ、その背景には、現状が変わることへの不安が強いことが関係していて、そういった不安感が和らぐと行動を変えられる方もいますね。
こだわりが生活や仕事上の問題になっていると指摘されたときには、より適応力を上げていくために変える部分を作る必要があるでしょう。落とし所を支援者と共に見つけていけると良いかもしれませんね。

監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。