社交不安障害(SAD)の症状や原因とは?利用できる相談先も紹介

公開: 2025.5.19

人前で話すときや大勢の人に見られる場面で、緊張や不安を感じることは珍しくありません。しかし、これらの不安が強すぎて日常生活に支障をきたしている場合、「社交不安障害(SAD)」という病気かもしれません。

社交不安障害は、単なる内気な性格とは異なります。適切な診断を受け、症状や病名に合わせた治療・ケアを受けるのが重要です。

本記事では、社交不安障害とはどのようなものか、その原因やよく見られる症状、治療法やセルフケアの方法、さらに利用できる支援サービスまで解説します。

社交不安障害(SAD)とは

社交不安障害は、あがり症やあがり、SAD(SAD=social anxiety disorder)とも呼ばれる場合があります。まずは、社交不安障害の定義と特徴を解説します。

社交不安障害(SAD)の定義と特徴

社交不安障害は、人との会話や人から注目される状況で強い不安や緊張を感じる精神疾患です。一般に「あがり症」「赤面症」と呼ばれることもあります。

人前で話す、自己紹介をする、会議で発言するといった人の注目を集める状況で過度に緊張し、赤面や発汗、手の震え、動悸などの身体症状が現れます。さらに人前で恥をかいたりネガティブな評価を受けたりするのを極度に恐れ、社会活動を避けるようになるのも特徴です。

社交不安障害は、単なる恥ずかしがりや内向的な性格とは異なります。人前で発言するときや初対面の人との会話で緊張するのは珍しくありませんが、社交不安障害の人は緊張や恐怖心が強いあまりに人間関係や仕事、学業などの場面で支障が出ます。

ただし、家族や仲のよい友人など、親しい相手とは緊張せずに話せる場合もあります。多くの場合は8歳〜15歳程度で発症するものの、学生時代には病気と認識されず、社会に出てから顕在化するケースもあります。

社交不安障害を発症するのは、本人の性格や能力の問題ではありません。精神的な病気であり、適切な治療を受けると症状の改善を目指せる病気です。

社交不安障害(SAD)のよくある5つの症状

社交不安障害の症状には個人差がありますが、ここでは一般的によく見られる症状として、以下5つを紹介します。

  • 人前で話すときに強い緊張や恐怖を感じる
  • 見られていると感じると赤面や震え、発汗などの症状が出る
  • 他人と接することに強い不安を感じる
  • 人前で食事や仕事をするのが苦痛になる
  • 不安や緊張を避けるために社会的活動を避ける

人前で話すときに強い緊張や恐怖を感じる

社交不安障害を抱える方の多くが、人前で話すのに強い緊張や恐怖を感じます。

たとえば、人前での発表や自己紹介、会議での発言の際に「失敗したらどうしよう」「他人にどう思われるだろうか」といった不安が頭をよぎります。過度な緊張状態に陥った結果、声が震えたり、言葉が詰まったり、頭が真っ白になったりすることも少なくありません。

学業や仕事、プライベートのイベントなど、社会活動をする限り、人から注目されたり人前で話したりする機会は避けられません。社交不安障害にかかるとこうした場面を回避する行動を取るようになり、仕事の幅が狭まる、家にこもりがちになるなど、生活に支障が生じる場合もあります。

見られていると感じると赤面や震え、発汗などの症状が出る

他人から注目されていると感じるだけで、顔が赤くなる、手足が震える、汗が大量に出るといった症状が現れる場合があります。声が詰まったり震えたりして、うまく話せなくなることも珍しくありません。また、お腹が痛くなる、下痢になるなどの胃腸の症状が現れる場合もあります。

このような症状を自覚すると、周囲からどう思われるかさらに気になってしまい、余計に不安が強くなる悪循環に陥るケースもあります。

他人と接することに強い不安を感じる

初対面の人との軽い会話や知人との何気ない雑談など、一般的には気軽なコミュニケーションと捉えられる状況でも強い不安を感じます。電話が極端に苦手なケースもあります。

「変なことを言ってしまうのでは」「ネガティブな反応をされたらどうしよう」といった考えが頭を離れず、コミュニケーション自体を避けるのも珍しくありません。対人関係を避け続けていると交友関係が狭まり、孤立する可能性も高まります。

他社とのコミュニケーションへの不安が強くなると、不登校や離職にもつながってしまいます。

人前で食事や仕事をするのが苦痛になる

他人に注目されている状況で強い緊張があり、人前での食事や作業に苦痛を感じます。自宅での食事は問題なく取れるのに会食では食欲がわかなかったり、仕事中に人に見られていると動作がぎこちなくなったりする方もいます。

職場では、ランチや同僚との会食、作業のレクチャーを受けるときなど、人に見られる状況での食事や作業を完全に避けるのは困難です。学校でも、給食を食べる際やクラスメイトの前で黒板に字を書く際など、人に見られながら食事や作業をする機会は多くあります。

人からの評価を気にするあまり、試験で過度に緊張してしまうケースもあります。視線が気になって集中できず、仕事や授業の内容が頭に入ってこない場合もあるでしょう。

不安や緊張を避けるために社会的活動を避ける

不安や緊張を避けようとするあまり、外出や人付き合い、会議、電話などの社会的活動を控えるようになります。悪化すると職場や学校に向かうことも難しくなったり、友人や家族との関わりが減少したりといった影響が出る場合もあります。

こうした状況が長引くと、自宅に引きこもってしまうケースもあります。引きこもる期間が長くなると、生活リズムが乱れる、社会活動を行う体力がなくなる、自己肯定感が下がるなど、心身への悪影響が生じます。

社交不安障害(SAD)の原因

社交不安障害のはっきりとした原因はわかっていませんが、脳内で分泌される神経伝達物質のバランスの異常が関係し、脳が不安に対して過敏に反応していると考えられています。

発症しやすくなる要因には、生まれつきの性格や発達特性、過去の体験や育ってきた環境などが挙げられます。また、うつ病をはじめとした心の病気が関連しているケースもあります。

ここでは、社交不安障害になりやすくなる要因として考えられるものの例を紹介します。

生まれつきの性格や発達特性

もともと不安を感じやすい性格の方や慎重で内向的な気質の方は、社交的な場面でストレスを感じやすい傾向があります。また、発達障害の特性が関与している場合もあり、コミュニケーションの困難さや感覚の過敏さが社交不安障害の症状を悪化させることもあります。

たとえば、発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)では、曖昧な表現を理解するのが苦手、相手の気持を察するのが苦手、光や音などの刺激に過敏といった特性が現れます。こうした特性によってコミュニケーションに不安を感じやすく、社交不安障害になりやすくなるのです。

過去の体験や環境

社交不安障害の背景に、過去の体験や周囲の環境が影響する場合もあります。

たとえば、幼少期から思春期にかけてのいじめ、仲間外れ、強い叱責といった経験があると、人と関わるのに対する恐怖心が強くなります。また、過剰な期待を受けて育った場合も、失敗を恐れる傾向が強まる場合があります。こうした体験が積み重なると「人前での行動を避けたい」という気持ちが生まれ、社交不安障害の発症につながる可能性があるのです。

ただし、社交不安障害の発症ははっきりと明らかになっているわけではなく、育て方に関係なく発症する場合もあります。

うつ病などの心の病気

ほかの精神疾患が社交不安障害に関連している場合もあります。

たとえば、うつ病では気分が落ち込み、自己評価が低下して人と関わること自体が大きなストレスになります。強迫性障害では戸締まりや火の元が極端に気になって、日常生活に影響が出るほど何度も確認せずにはいられなくなり、結果として外出への恐怖が強まり社交不安障害につながってしまう人も少なくありません。

また、パニック症では前触れなく恐怖感や動悸といった発作が生じ、発作を起こす恐怖から人前に出るのを避けるようになります。こうした疾患では他者との交流に恐怖を感じやすくなり、社交不安障害につながる場合があります。

また、社交不安障害がほかの精神疾患を引き起こすケースも珍しくありません。社交不安障害の症状が悪化してうつ病やアルコール依存症などの精神疾患を併発すると、さらに日常生活への支障が大きくなるため、早期からの適切なケアとサポートが重要です。

社交不安障害(SAD)の治療法

社交不安障害は精神の病気であり、適切な治療とサポートによって改善が期待できます。自己判断で放置せず、医療機関を受診しましょう。

社交不安障害の治療法の中心は、主に薬物療法と精神療法です。ここでは、それぞれの治療法について解説します。

薬物療法

社交不安障害の薬物療法では、主に抗うつ薬や抗不安薬が処方されます。一人ひとりの症状や併発している疾患にもよりますが、これらの薬で症状の緩和が期待できます。

抗うつ薬には、脳内の神経伝達物質であるセロトニンを増やして社交不安障害の症状を和らげる効果があり、継続的に服用する必要があります。効果が現れるまで、一般的には数週間から1ヶ月ほどかかります。

抗不安薬は、日常生活に支障が出るほど強く不安を感じる場合に処方される薬です。症状が強いときに都度服用する「頓服薬」として使用される場合もあります。

ただし、抗うつ薬や抗不安薬の内服によって症状が改善してきても、まだ症状が安定していないという方も多いです。医師の指示に従い、自己判断で服薬を中断したり量を増やしたりしないようにしましょう。

精神療法

認知行動療法(CBT)をはじめとした精神療法を薬物療法と組み合わせると、より高い効果が得られるケースもあります。薬物療法で症状をコントロールしながら、精神療法で根本的な改善を目指すのが重要です。

社交不安障害を抱える方には、「以前失敗したから次も失敗する」「同僚が不機嫌なのは自分のせいだ」といったネガティブな思考の癖がある場合があります。認知行動療法ではこのような考え方や行動パターンを認識し、より柔軟で前向きな思考に変えるのを目指します。

また、心を落ち着かせて気分の安定化を図るマインドフルネスや自律訓練法、個別のカウンセリングなど他の方法が効果的な人もいるため、他の手法と組み合わせて実践してみるのもおすすめです。

社交不安障害(SAD)の対処法やセルフケア

人前での緊張といった症状に悩んでいるなら、適切な診断を受けるためにも医療機関の受診が重要です。治療についても薬物療法や精神療法が中心となるものの、日常生活の中でセルフケアや対処法を取り入れることで、症状の悪化防止に役立つ場合があります。

ここでは、医療機関での治療と併せて実践できる対処法やセルフケア方法について解説します。

休息を取り正しい生活リズムで過ごす

十分に休息が取れずに不安や緊張が続くと自律神経のバランスが乱れ、身体だけでなく心の不調も生じやすくなります。症状の悪化につながるケースもあるため、生活リズムを整えてしっかり休養を取りましょう。

睡眠の質と量は、疲労の解消と気分の安定に直結するといわれています。寝不足が続くと日中の集中力が低下し、些細な出来事でもイライラや不安を感じやすくなります。

起床・就寝時間を一定に保ち、栄養バランスのよい食事を心がけましょう。生活リズムが乱れている場合は、起床したときに光を浴びて体内時計をリセットするのが重要です。適度な運動にはネガティブな気持ちを発散させる効果や生活リズムを整える効果があるため、ウォーキングやヨガなど、無理のない範囲での運動も取り入れてみましょう。

小さな成功体験を積み重ねる

社交不安障害の方は、過去の体験から自分に自信を持てない場合もあります。急に大きな目標に取り組もうとすると「失敗したらどうしよう」といった不安が先に立ち、行動を起こすこと自体が大きな負担になりがちです。

はじめから難しい目標に挑戦する必要はありません。無理のない目標を少しずつ達成して「できた」という成功体験を重ね、徐々に自信をつけていくことが不安の軽減に繋がります。

たとえば「コンビニで店員にお礼を言う」「昼間に近所を5分散歩する」「家族や友人に短いメッセージを送る」といった行動から始めてみましょう。少しの挨拶や外出、短い会話でも、大きな一歩になります。

支援機関やサービスを活用する

社交不安障害に悩む方を支援するサービスの活用も検討してみましょう。生活面や就労面でのサポートを受け、前向きに社会と関わるきっかけを作れます。

たとえば、障害のある方の日常生活と就労を支える障害者就業・生活支援センターや、自立した生活を目指す自立訓練(生活訓練)、就労を目指す方向けの就労移行支援など、幅広い選択肢があります。支援機関では、心の病気や発達障害についての知識を持ったスタッフのサポートを受けながら、自分のペースで自立した生活や社会復帰を目指せます。

医療機関から復職や就職に向けたトレーニングを行う施設の紹介を受けられる場合もあるため、症状に応じて主治医に相談してみるとよいでしょう。

社交不安障害(SAD)で悩む方が利用できる支援機関やサービス

社交不安障害の症状が改善してきても、急に病気のない人と同じ生活を送るには高いハードルがあります。支援機関やサービスを活用して少しずつ心と身体を慣らし、無理なく自立した生活や就労・復職を目指しましょう。

ここでは、社交不安障害の方が利用できる支援機関やサービスを紹介します。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方を対象に日常生活と仕事の両面を支援する機関です。利用にあたって障害者手帳の有無は問われないため、発達障害の方はもちろん、社交不安障害で就労や復職に不安を感じている方も利用できる可能性があります。

障害者就業・生活支援センターでは、本人の状況に応じて職場のあっせんや就職活動サポート、職場定着支援、生活全般の支援を受けられます。

医療機関やハローワークとも連携して支援してもらえるため、復職や新たな職場での就労を考える際には、最寄りのセンターに相談してみるとよいでしょう。

障害者就業・生活支援センターについてより詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。

障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とは?対象者や支援内容、利用の流れを解説

ハローワーク

ハローワーク(公共職業安定所)は、求職者に向けたさまざまな就労支援を行う公的機関です。一般雇用のほか、障害者雇用の紹介にも対応しています。仕事探しに不安がある方や、復職を目指したいけれど方法がわからない方にとって、身近な窓口です。

障害者雇用を希望する場合、専門の担当者が個別に対応します。希望や適性、症状に配慮した就職先を紹介してもらえるだけでなく、就職活動の支援も受けられます。

ハロートレーニング(職業訓練)の活用により、スキルアップや新しい職種へのチャレンジも可能です。障害のある方向けのコースも用意されており、病気や特性があっても無理なく取り組める環境が整備されています。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、心の病気や障害のある方が自立した日常生活を送れるよう支援するサービスです。

社交不安障害で悩んでいる方にとっては、失敗しても構わない環境でコミュニケーションの訓練を積み、成功体験を重ねて自信を付けられる場になります。生活リズムが乱れている方や日中に活動するための体力をつけたい方、いきなり就労・復職を目指すのはハードルが高いと感じている方にもおすすめのサービスです。

Kaienの自立訓練(生活訓練)では、キャリアカウンセラーをはじめとしたスタッフが社交不安障害の方の悩みに寄り添い、一人ひとりに合わせたトレーニング計画を提案します。最初のうちは通所頻度の調整も可能で、無理のない範囲から始められる点も特徴です。

Kaienの自立訓練(生活訓練)について詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。

自立訓練(生活訓練)サービスについて – 株式会社Kaien

就労移行支援

就労移行支援は、障害や心の病気のある方の就労・復職を支援するサービスです。自立訓練(生活訓練)とは異なり、ビジネスコミュニケーションやパソコンスキルなど、実践的なプログラムが豊富に用意されています。

離職・休職している社交不安障害の方や、就労経験がない方にとっては、いきなり就労するハードルが高く感じられることもあるでしょう。就労移行支援では実際の職場を想定したコミュニケーションの訓練も受けられるため、就労・復職に向けて少しずつ心身を慣らしていけます。また、職場のあっせん、書類添削、面接対策など、就職活動のサポートも受けられる点もポイントです。

Kaienの就労移行支援では、発達障害の方だけでなく心の病気のある方のサポートも行っており、医療機関とも連携して症状や特性に応じた支援を行い、必要に応じて服薬管理もサポートいたします。プログラミングやデザインといった専門スキルを学べるプログラムがあることも特徴です。

Kaienの就労移行支援について詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。

Kaienの就労移行支援プログラム

社交不安障害(SAD)で悩む方はKaienのサービスの利用も検討してみて

社交不安障害は、単なる性格や能力の問題ではありません。医療機関で診断を受けて精神疾患であることを認識し、適切な治療と支援を受けることが重要です。

就労や復職を目指すなら、症状の回復度合いに応じて障害者就業・生活支援センター、ハローワーク、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援などのサービスを利用するとよいでしょう。少しずつ環境に慣れて不安を軽減しながら、無理なく社会とのつながりを取り戻していけます。

Kaienでは、心の病気や発達障害のある方向けの自立訓練(生活訓練)、就労移行支援を提供しています。医療機関とも連携し、一人ひとりの症状や特性に寄り添って支援プログラムを作成するため、無理なく自立した生活や就労を目指せます。キャリアカウンセラーとの定期的な面談があり、精神面の不安や体調について相談しながら訓練を進められることも特徴です。

見学や個別相談を随時受け付けておりますので、ぜひ気軽にお問い合わせください。

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