訓練で分かった“向き・不向き”。Hさんが初めての就活でも「自分に合う仕事」を見つけられた理由

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▪年齢:20代半ば
▪診断名:自閉症スペクトラム
▪仕事における苦手なこと:自分から発信すること、見通しを立てること、忙しい中で業務を進めること
▪就職:オフィスの美化(障害者雇用枠)


診断を受けたのを機に、特性への理解が進んだ

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

小さい頃は、どちらかといえばおとなしい性格だったと思います。興味のあった宇宙に関する絵本や図鑑をよく読んでいました。ただ、外で遊ぶのも好きで、友達と一緒に公園で遊ぶなど、体を動かすことも多かったです。

高校生になるまでは、特に周りの子と自分が違うなと感じることもなく過ごしていました。

―――診断を受けた経緯を教えてください。

診断を受けたのは、高校2年生のときです。学校生活が忙しくなるにつれて生活リズムが乱れたり、授業にうまくついていけなくなったりしたのがきっかけで、親や学校の先生にすすめられて検査を受けました。

自閉症スペクトラムだと診断を受けたときは、正直少し驚きました。しかし、医師からいろいろと説明を聞くうちに、自分の特性について理解が深まり、少しずつ受け入れていくことができました。

―――あなたの苦手なことは何ですか?

自分から発信したり、質問や相談をしたりすることが不得手です。特に高校生になってから、より強く苦手意識を持つようになりました。

例えば、授業で行ったグループワークや、文化祭や体育祭などのイベントの準備の際に困ることが多かったです。役割分担をするときに、「これがやりたい」といった自分の意見を言うことができず、周りの流れで決まった役割を仕方なく引き受ける、という状態でした。やってみたいことがあっても、なかなかその機会を掴むことができませんでした。

―――高校を卒業後は、大学、大学院へと進学されていますね。困りごとを感じたことはありましたか?

大学に入学したばかりの頃は、1コマあたりの講義の長さに慣れなかったり、空き時間の使い方に戸惑ったりしましたが、先輩たちが行っていた相談会に参加して、授業の組み立て方や時間の使い方を教えてもらい、次第に慣れていきました。

大学では地球科学を専攻しており、大学院も同じ分野に進みました。しかし、大学院では研究内容がより専門的になり、実験なども自分でテーマを決めて進める必要がありました。その際、計画的に取り組んだり、内容をまとめたりするのが難しく、思うように進めることができなかったのです。特に修士論文の作成は、とても大変でした。2年間通いましたが、修士論文は完成できず、卒業はできませんでした。

(写真を撮るのが好きなHさん。あさがお祭りで撮った一枚を見せてくれました)


実践的な訓練で気付いた、向き・不向き

―――Kaienで訓練をはじめようと思った理由を教えてください。

実は、大学生の頃に親からすすめられて、Kaienの学生向けサービス「ガクプロ」を利用していました。当時は、生活や体調の整え方、学校生活の過ごし方といった内容のオンライン講座を受けていました。

大学院を辞めた後、就活をするにあたって就労支援事業所を探す中で、Kaienでも就労支援を行っていることを知りました。「親しみがあり、支援の流れを分かっているKaienなら安心」と思い、利用を決めました。

―――職業訓練ではどんなことをしていましたか?

午前と午後で分かれており、午前中は自己分析などに取り組みました。初めての自己分析でしたが、自分のことを少し深く知れた気がします。今までは、文章をまとめるのが苦手だと思っていたのですが、自己分析を通じて「実は文章をまとめるのは得意なのかもしれない」と思うようになりました。今まで気付かなかった一面を発見できたのは、大きな収穫でした。

午後は、古書のクリーニングや検品、出品、発送作業といった実践的な訓練を中心に行いました。扱うものが実際に販売する本ということもあり、クリーニングや検品には丁寧さが求められます。そんな作業をする中で、「丁寧さが必要な仕事は得意かも」「スピーディーさが必要な仕事はつらいな」と、自分の向き・不向きを知ることができました。

また、これまであまり経験がなかったPCスキルを伸ばしたいと思い、自己学習でExcelのレベルアップ講座にも挑戦しました。教材の動画やPDFの資料がとても分かりやすかったので、それを参考にしながら自分のペースで学ぶことができました。

―――訓練の中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

グループワークで、自分の意見に共感してもらえたことが印象に残っています。「無人島に何を持っていくか」というテーマで、持ち物の優先順位を決めるゲームを4人ほどのグループで行ったときのことです。

もともと自分から発信することが不得手だったので、最初は知らない方々と話すことにとても緊張しました。ただ、スタッフの方が私に話を振って発言をする機会を作ってくれたので、意見が言いやすくて助かりました。苦手なことだからこそ、うまくできたときの喜びは大きく、良い思い出として心に残っています。

―――訓練を通して学んだことや、今後働く上でも役に立つと思う知識やスキルがあれば教えてください。

報連相(報告・連絡・相談)を意識するようになったことです。古書の作業は複数人で行うため、作業が終わった後の報告や、それぞれの進捗を共有することが求められました。この経験を通して、仕事における報連相の大切さを実感できたのはとても良かったです。

また、Kaienでは月ごとに目標を立てる習慣があったのですが、この習慣が就職前に身についていたからこそ、今の仕事でも目標を決めて業務に取り組むことができているなと感じています。

―――訓練を通してご自身が変わったと思うことはありますか?

訓練前と比べると、少しだけ自分から人に話しかけられるようになったと思います。以前は話しかけられるのを待っていることが多かったのですが、グループワークなどで初対面の人と話す機会を重ねるうちに、少しずつ自分からコミュニケーションが取れるようになりました。

(リラックスしたいときは、カフェや喫茶店によく行くそうです)


就活にくじけなかったのは、周囲の支えのおかげ

―――訓練開始後、どのくらいで就活を始められましたか?

訓練を始めて1ヶ月半ほどで、就活の準備をスタートしました。今まで就活の経験がなく、書類作成や面接など初めてのことばかりだったので、「できるだけ多くの経験を積んでおきたい」という思いから、早めに動き出したのです。

―――就活の軸はありましたか?

「1時間以内で通勤できること」「繁閑の差があまりなく、忙しすぎないこと」を軸にしていました。古書の作業を通して、スピードを求められるよりも、一つひとつの作業を丁寧に進められる環境の方が自分には合っていると感じたので、落ち着いて仕事ができる職場を探していました。

―――就活で苦労したことがあれば教えてください。

面接はとても緊張したので、想定問答集を何度も読み返し、落ち着いて話ができるよう対策しました。

また、5~6社の選考を同時並行で進めていたので、履歴書の提出期限や面接の日程などを管理するのが大変でした。付箋に書いて貼ったり、カレンダーのリマインド機能を使ったりして、忘れないように工夫していました。

なかなか内定がもらえない時期もありましたが、Kaienのスタッフの方が「気にしなくていいよ」「次、頑張ろう」と声をかけてくれたことが、心の支えになりました。気心の知れた人からの前向きな言葉が原動力になり、落ち込むことなく就活を続けられました。

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

オフィスの美化業務を担当しています。皆さんが使うテーブルやホワイトボードをきれいに清掃する仕事です。作業を終えて机などがピカピカになったときや、すれ違った方から「ご苦労様」「ありがとう」と声をかけてもらったときに、とてもやりがいを感じます。

作業は一人で行うことが多いのですが、フロア内には同じ業務をしている仲間がいるので、何かあればすぐに相談できる環境です。自分のペースで仕事を進められますし、急かされることもないので、希望通りの環境で働けています。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

今の目標は、上司や同僚への質問や業務完了の共有などを、もっとスムーズにできるようになることです。これからも一つひとつ、着実にできることを増やしていきたいです。

付録  ~Hさんのこと~

(「松本城の天守にも登りました」と語ってくれました)

最近楽しかったことは、家族旅行で長野県に行ったことです。お城を見たり、名物のお蕎麦を食べたりしました。初めて訪れる場所だったので、とても新鮮で楽しかったです。

また、地元のサッカーチームの応援も長年の趣味です。今でも観戦に行ったり、ボランティアで試合会場のイベント運営を手伝ったりしています。

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