ふとした瞬間に怒りが抑えきれず、声を荒げたり物に当たってしまうことを癇癪(かんしゃく)と呼びます。
子どもの癇癪と比較して、大人の癇癪は深刻な悩みにつながりがちです。特に発達障害や心の病気が関係しているケースでは、本人も原因がわからず悩みを抱える場合もあります。
本記事では、大人の癇癪と子どもの癇癪の違いや発達障害との関連、具体的な症状や対処法、さらに利用できる支援サービスまで解説します。
大人の癇癪(かんしゃく)とは?子どもとの違いや発達障害との関係性
癇癪とは、強い怒りや不満、苛立ちが突然爆発し、感情が制御できない状態を指します。
一般的には、幼い子どもが自分の思い通りにならない時に泣き叫ぶ姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、大人でも同様に感情をうまくコントロールできず、怒りや苛立ちが爆発することがあります。これが「大人の癇癪」です。
この章では、大人の癇癪と子どもの癇癪の違いや、発達障害との関連性を解説します。
大人の癇癪(かんしゃく)と子どもの癇癪(かんしゃく)
子どもの癇癪は、認知能力や精神が成長していく自然な過程の一部と考えられています。
思い通りにいかないときに泣き叫んだり床に寝転んで暴れたりするのは、不快な状況を取り除こうとして起こしている行動です。成長とともに感情を言葉で表現したり行動をコントロールできるようになり、癇癪は次第に減少していきます。
一方で、大人の癇癪はストレスの蓄積、体調の悪さ、精神面の特性・病気など、さまざまな原因で起こります。
一般的に、大人には怒りや不満の適切な処理が求められます。子どもであれば公共の場で大声を出しても自然な行動と見られますが、大人がそのような行動を取ると周囲の人々が驚いたり、萎縮したりします。職場や家庭でのトラブルを引き起こす原因になるケースもあるでしょう。
大人の癇癪(かんしゃく)と発達障害との関係性
大人の癇癪は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症といった発達障害と関係しているケースもあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方は感覚過敏やこだわりの強さからストレスを感じやすく、癇癪として感情が爆発してしまうことがあります。また、注意欠陥多動症の特性がある方は衝動性の高さから、怒りを感じたときにブレーキをかける前に「声を上げる」「物を投げる」といった行動をしてしまう場合があります。
発達障害だけでなく、うつ病や双極性障害、パニック症などの心の病気も癇癪の起こしやすさに影響します。これらの病気の症状として感情の起伏が激しくなったり攻撃的になる場合があり、癇癪を起こしやすくなるのです。
単なる性格や気分の問題と片付けるのではなく、周りの人が特性や病気について理解し、適切な支援を受けることが重要です。
発達障害の基本や感情のコントロールの関係について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
気持ちの切り替えが苦手なことと発達障害の関係性とは?切り替えやすくなるための工夫も紹介
大人の癇癪(かんしゃく)の具体的な症状例と抱えやすい悩み
大人の癇癪は単なる怒りとは異なり、症状もさまざまです。多くの場合は怒りや行動を自分でコントロールできない状態であり、後から自分の行動を振り返って「どうしてあんなに怒ってしまったのか」と自己嫌悪を抱える方もいるでしょう。
大人の癇癪の症状には個人差がありますが、この章では一般的な具体例と日常生活や仕事の上で生じやすい困難や悩みを解説します。
大声を出したり怒鳴ったりする
大人の癇癪の典型的な症状のひとつが、怒りを感じた際に大声を出したり怒鳴ったりする行動です。怒鳴ることで相手を威圧し、状況を自分の望む方向へ変えようとする意図がある場合もあります。
大人が突然大声を出すと、周囲の人々は驚きや恐怖を感じます。「できるだけ関わらないようにしよう」「刺激を与えないようにしよう」と、関係性に溝が生まれる原因にもなるでしょう。仕事仲間との信頼関係が崩れたり家族が萎縮したりと、人間関係のトラブルにつながることも少なくありません。孤立によってストレスが増し、癇癪が悪化する恐れもあります。
瞬発的に怒鳴った後に「なぜあそこまで怒ってしまったのか」と後悔する場合もあります。自己嫌悪が繰り返されると、精神的な負担はさらに増していくでしょう。
物を壊す
怒りを物にぶつける場合もあります。たとえば、机を叩く、ドアを強く閉める、手近にある物を投げつける・壊すといった行動が挙げられるでしょう。
物を壊す行動はその場の緊張感を高め、周囲の人々に不安を与えてしまいます。物の修理や買い替えの必要が出たり、投げた物が人に当たってケガをさせてしまったりといったリスクや危険も伴います。
突然キレるように怒る
「急に怒り出す」などの突発的な行動も大人の癇癪の特徴です。何の前触れもなく一気に感情が爆発するため、本人も周囲の人々も戸惑ってしまいます。家族など、関係性の近い相手に対してだけ激しく怒る場合もあります。
反対に、今まで激しく怒っていたのに突然落ち着く人もいます。本人はケロッとしているのに周囲は恐怖や不信感を抱えたまま取り残されるなど、関係性に溝が生まれてしまうケースもあるでしょう。
些細なことで不機嫌になりイライラする
日常の些細な出来事で不機嫌になり、イライラが長引くケースも見られます。他人のちょっとした言動や急な予定変更に過敏に反応し、機嫌を損ねてしまうのが特徴です。
発達障害の特性や精神的な病気がある場合、環境の変化や予期しない事態に大きなストレスを感じやすくなります。過去の経験から自己肯定感が低い人も、他人の言葉や態度を過剰にネガティブに捉え、落ち込んだり怒りを感じたりする場合があります。
不機嫌な態度やイライラは周囲に伝わってしまい、コミュニティ内での関係性に悪影響を及ぼす場面もあるでしょう。
大人の癇癪(かんしゃく)の原因
大人の癇癪は、ストレスの蓄積や体調面の問題、幼少期の経験、発達障害や心の病気の影響など、さまざまな原因が重なり合って起こります。
この章では、大人の癇癪の原因の例を紹介します。
ストレスの蓄積による感情の爆発
日々の生活の中でストレスが蓄積すると、怒りや苛立ちを感じやすくなります。本来なら冷静に対応できる程度の小さな不快感でも、ストレスが溜まっていると感情を抑えられなくなるのです。
本人も怒りたくて怒っているわけではないため、なぜこんなことで怒ってしまうのか悩んで自己嫌悪に陥りやすくなります。周囲との関係が悪化し、さらにストレスが大きくなるケースも少なくありません。今まで積み上げた人間関係に亀裂が入ってしまう人もいるでしょう。
睡眠不足や体調不良
睡眠は心身のバランスを整えるために欠かせません。睡眠不足が続くと、感情コントロール、意欲、集中力、判断力などを司る脳の前頭葉がダメージを受け、イライラしやすくなります。
風邪や胃腸の不調、過労などによって体調が万全でない状態でも精神的にも余裕がなくなります。その結果、普段は気にならない程度の出来事にも過敏に反応しやすくなるのです。
他にも月経前や更年期など、ホルモンバランスの変化によって本人の意志とは関係なくイライラしてしまう場合もあります。更年期は男性にもあるため、「何となくイライラしやすい」「理由もなく不安になる」といった症状が続く場合、性別にかかわらず適切なケアが必要です。
子どもの時の経験やトラウマ
大人の癇癪の背景には、子どもの頃の経験やトラウマが関係しているケースも少なくありません。
幼少期に感情を適切に表現する方法を学べなかったり、家庭環境が厳しく感情を抑え込んでいたりした場合、大人になってからも不快な感情への適切な対処法がわからず、癇癪を起こしてしまうケースがあります。
いじめや虐待といったトラウマ体験が自己肯定感に影響を与え、他人の言動を過剰にネガティブに捉えてしまう人もいるでしょう。
心の病気や発達特性による影響
心の病気や発達特性が大人の癇癪の起こしやすさに影響している人もいます。
うつ病や双極性障害、パニック症などの精神疾患では、気分が落ち込む、イライラしやすい、感情の起伏が大きいといった症状が現れます。また、注意欠如多動症や自閉スペクトラム症(ASD)など発達特性のある方は、もともと感情のコントロールが難しい傾向があります。
特性によるストレスの感じやすさに加え、感情の起伏をうまく制御できずに癇癪を起こしてしまう場合もあります。
心の病気や発達特性が影響して、過去に失敗や他者との摩擦を経験している人も少なくありません。自分への自信を失い「また失敗するのでは」「理解されないのでは」といった不安を抱えて生活している場合もあります。その結果、他人の言動やささいな出来事から傷つきやすくなり、怒りとなって噴き出す場合があるのです。
発達障害の方の感情コントロールについては以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
大人の癇癪(かんしゃく)の対処法やコントロール法
癇癪の対処法は、一つではありません。自分に合った適切な対処法を学び、実践することで、徐々に感情を制御するコツをつかめるようになってきます。
本人の意思だけでは感情のコントロールが難しい場合でも、適切なサポートを受けると少しずつ改善が見込めるでしょう。
また、本人だけではなく周囲が環境を調整することで、感情をコントロールしやすくなる場合もあります。癇癪を起こした人の怒りを抑えつけたり責めたりせずに周囲の人が見守ったり、落ち着いてから話を聞いたりなど、周囲の人による歩み寄りも大切です。
ここでは主な対処法やコントロール法を紹介します。
精神科や心療内科を受診する
大人の癇癪に発達障害や精神的な病気が関係しているケースでは、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
発達障害や心の病気の種類はさまざまで、症状も一様ではありません。精神科や心療内科では、症状の特徴や持続期間、生活への支障の程度などの情報から診断をつけていきます。問診では緊張で医師に症状がうまく伝わらない場合もあるため、事前にメモを作るなど、落ち着いて話せるよう準備するとよいでしょう。
検査が完了したら、症状や診断名に応じて適切な治療法が提案されます。主な治療法としては、気分を安定させる薬の処方やカウンセリング、認知行動療法などが一般的です。症状の回復具合に応じて、就労や日常生活への復帰に向けた支援機関を紹介してもらえる場合もあります。
精神科や心療内科への受診は、決して特別なことではありません。「自分で感情を制御するのが難しい」と感じているなら、一人で抱え込まず早めに相談しましょう。
心身の休息をとる
疲労やストレスによって癇癪を起こしやすくなっている場合、十分な休息を取りましょう。
日々の生活や仕事では、知らず知らずのうちにストレスや疲労が積み重なります。心身が疲弊した状態では感情を抑えるのが難しくなるため、意識的に休息を取るのが重要です。
必要な睡眠時間は年齢によって異なり、個人差もありますが、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」によると、成人には6〜8時間の睡眠が推奨されています。睡眠の量だけでなく質も重要なので、目覚めたときにしっかり休めた感覚があるかどうかに注目してみましょう。
十分に休息が取れていないと精神が不安定になるだけでなく、仕事の効率悪化にもつながります。ストレスや疲労が溜まっていると感じたら、焦らずにしっかり休んで疲れを取るのが重要です。
アンガーマネジメントを実践する
怒りを沈めて感情をコントロールするテクニックとして、「アンガーマネジメント」があります。アンガーマネジメントは、怒りを否定するのではなく適切に扱い、衝動的に爆発させないための方法です。
アンガーマネジメントの具体的な手法には、以下のようなものがあります。
・「6秒ルール」を実践する
怒りのピークは6秒ほどといわれています。怒りを感じたら6秒間数え、深呼吸したり別のことに意識を向けたりして気持ちを落ち着かせ、衝動的な言動を避けます。
・怒りを分析・数値化する
何に怒りを感じたのか記録を付けることで、怒りを客観的に見つめ直せます。怒りの程度に点数を付けておけば怒りの状況とレベルを冷静になってから振り返ることができ、同じような状況が怒っても怒りを抑えやすくなるでしょう。
・感情を言葉で伝えるトレーニングをする
不快な感情を言葉で表現する方法を学ぶことも重要です。単に衝動を抑え込むだけではやがて限界を迎え、爆発してしまうこともあるでしょう。相手を強く責めずに自分の感情を伝えれば癇癪を起こさずに感情を処理でき、人間関係の悪化も防げます。
専門機関や支援サービスを利用する
大人の癇癪は、本人の努力だけでの解決が難しい場合も少なくありません。特に、発達障害や心の病気が背景にあるケースでは、誤った対処で症状が悪化してしまう場合もあります。
大人の癇癪で悩んでいる方向けの支援を提供する専門機関や支援サービスを利用し、適切なケアを受けましょう。臨床心理士やキャリアカウンセラーといった専門家のサポートを受けながら自分自身の特性を理解し、自分に合った感情のコントロール方法を学べます。離職中の方や休職中の方向けに、職場復帰・就労に向けたサポートを提供する施設もあります。
次の章では、具体的にどのような施設があるのか紹介します。
大人の癇癪(かんしゃく)で悩む方が利用できる支援サービス
大人の癇癪で悩んでいる方に向けた支援サービスには、以下のような種類があります。
- 障害者就業・生活支援センター
- リワーク
- 自立訓練(生活訓練)
- 就労移行支援
自身の悩みや症状に合った施設での支援を受け、より安定した生活を送るスキルを身に付けましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の安定した生活や就労を支援する機関です。身体障害、知的障害、発達障害、難病など、何らかの障害がある方が対象ですが、利用にあたって障害者手帳は必須ではありません。診断がついていない方も、まずは施設に相談してみるとよいでしょう。
感情の扱い方やストレス管理についてのアドバイスだけでなく、ハローワークと連携した就職支援や職場でのトラブル回避に関する助言など、安定した就労に向けた支援も受けられます。
障害者就業・生活支援センターについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とは?対象者や支援内容、利用の流れを解説
リワーク
心身の不調が原因で休職している方には、リワーク施設の支援が効果的です。リワーク施設は、うつ病や適応障害などの精神の不調で休職した方の職場復帰と安定就労をサポートする施設です。
心身の不調から癇癪を起こしてしまうなど、感情コントロールに悩む方にも適しています。癇癪の原因となるストレスにうまく対処するため、アンガーマネジメントや認知行動療法を取り入れたプログラムで怒りと適切に向き合う方法を学べます。
リワーク施設の中にも、支援の提供主体によってさまざまな種類があります。医療機関が提供するリワーク(リワークデイケア)、就労移行支援・自立訓練(生活訓練)でのリワーク、障害者職業センターでのリワーク、各企業が社員向けに提供するリワークなど、それぞれ特徴が異なりますので、主治医とも相談して適切な施設を選びましょう。
リワークについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
リワークとは?種類や対象者、利用するメリットとデメリットも解説
リワークは適応障害の方も利用できる?リワークのメリットも解説
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、発達障害のある方が自立した生活を営むうえで必要なスキルを身につけるためのプログラムです。主な対象者は発達障害のある方ですが、精神的な病気のある方や診断名のついていない方も利用できる場合もあります。
癇癪に悩む方の中には、感情のコントロールや対人関係の不安から日常生活そのものが負担になっているケースも少なくありません。自立訓練(生活訓練)では、感情をコントロールするトレーニングや気持ちを落ち着かせる方法、ストレスの発散方法などを学べます。グループワークを通して自分の気持ちを伝える方法や相手の話の受け止め方も訓練できるため、人間関係の構築に苦手意識のある方にも適しています。
Kaienの自立訓練(生活訓練)では、癇癪を起こしてしまうなど感情コントロールの課題に寄り添ったサポートを提供しています。キャリアカウンセラーとの定期的な面談により、不安を解消しながら自分のペースで訓練を進められる点が特徴です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)についてより詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
障害福祉サービスとは?種類や利用の流れ、受給者証について解説
就労移行支援
就労移行支援は、障害のある方が安定して就労するための支援を行うサービスです。自立訓練(生活訓練)と同様に、発達障害のある方だけでなく、精神的な病気のある方や診断名のついていない方も利用できる場合があります。
就労移行支援では、自立訓練(生活訓練)よりも就労に焦点を当てた実践的なトレーニングを重点的に行います。実際の職場を想定した環境でスキルや知識を身に付け、上司や同僚との良好なコミュニケーション方法も学べます。誤解や摩擦を生まない話し方や聞き方をトレーニングできるため、実際の職場で癇癪によるトラブルを抱えた経験のある方にも適しています。
Kaienが提供する就労移行支援では、発達障害や精神的な病気により感情コントロールに課題のある方に向けたサポートを提供しています。Kaienの就労移行支援についてより詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
就労移行支援とは?対象者や受けられる支援、利用方法をわかりやすく解説
大人の癇癪(かんしゃく)で悩む方は支援サービスの利用を検討してみて
大人の癇癪は単なるわがままや気分の問題ではなく、ストレスや発達特性、心の病気など、さまざまな要因が重なって起こるものです。自分に合ったケアを受けるためにも、医療機関や支援サービスを適切に活用しましょう。
Kaienでは、発達障害や精神的な病気のある方、診断は受けていないものの感情のコントロールに悩む方に向けて、自立訓練(生活訓練)や就労移行支援を提供しています。
丁寧なカウンセリングを行った上で一人ひとりに適したプログラムを作成するため、無理なく自分のペースで自立した生活や就労を目指せます。キャリアカウンセラーによる定期的な面談で、日々の悩みを相談できるのも特徴です。
随時、無料の個別相談や見学を受け付けておりますので、ぜひ気軽にお問い合わせください。