感覚鈍麻とは?発達障害との関係・原因・症状・対処法まで詳しく解説

公開: 2016.6.27更新: 2025.8.13

「人よりも視覚や聴覚、嗅覚といった五感の刺激を感じにくい」「暑さや寒さ、痛みなどに対応できなくて日常生活に支障を来たしている」

そんな悩みを持つ方は、もしかしたら感覚鈍麻があるかもしれません。

感覚鈍麻とは、光や音など特定の刺激への反応が鈍い状態を指します。感覚鈍麻は、発達障害*の特性の1つともいわれており、その関係性が指摘されています。

今回は感覚鈍麻の特徴や原因、対処法について解説します。ぜひ参考にしてください。

感覚鈍麻とは?感覚過敏との違い

人が何かを感じるには、①耳などの感覚器官で情報を受信し、②①の情報が神経回路を通って脳に伝わり、③脳がその情報を解析する、という段階を経ます。

感覚鈍麻とは、①・②・③のいずれかで情報が著しく欠損した状態を指します。一方で、①・②・③のいずれかで情報を過剰に感じる状態を感覚過敏といいます。

感覚の感じ方はおそらくすべての人で異なるものですが、これが日常生活や社会生活を送るうえで支障をきたすレベルになると、感覚鈍麻といわれます。たとえば、怪我をしても痛みを感じにくく発見が遅れる、暑さや寒さに対する感覚が鈍く適切な服装ができないなどが挙げられます。また、感覚鈍麻の場合、刺激に対する反応が弱いために、さらに強い刺激を求めて強く足踏みをする、絶えず体を動かし続けるといった「感覚探求」の行動をするケースも少なくありません。

感覚鈍麻は五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のいずれでも生じえます。また、感覚鈍麻があるとたくさんの感覚が個々に存在しているように感じ、重みづけ、概念化、原因などが想像できないことで、心も不安定になりがちです。

感覚鈍麻が起こる原因

感覚鈍麻が起こる原因は、以下の3つの可能性が考えられています。

  • 刺激に対する脳の反応の異常:何らかの要因によって刺激を感じても脳が上手く機能しないために、感覚が鈍くなる
  • 目・耳・鼻などの器官の異常:目・耳・鼻などの感覚を受ける器官に疾患があり、刺激を正しく感じられず感覚がは鈍くなる
  • 強いストレス:ストレスが過剰になることで感覚が鈍くなる

ただし感覚鈍麻が起こる確かな原因は分かっておらず、個々により症状や程度もさまざまです。

感覚鈍麻と発達障害(ASD)との関連性

感覚鈍麻は発達障害の特性の1つとしてあらわれるケースがあります。とはいえ、全ての発達障害の方に当てはまるわけではなく、感覚に異常を訴える方もいれば、あまり気にならない方もいます。発達障害の中でも、診断基準(DSM‐5-TR)に感覚に関する項目が含まれるASD(自閉スペクトラム症)の方は、感覚鈍麻(あるいは過敏)の特性がある割合が高めなようです。

とはいえ、特性や年齢、環境などにより抱えやすい感覚の悩みは異なるため、感覚鈍麻の程度は個人差が大きいのも事実です。

主な感覚鈍麻の症状【チェックリストつき】

ここでは感覚鈍麻について、以下の主な6つの症状を紹介します。

  • 聴覚鈍麻:物音や人の話し声といった音に対する感覚鈍麻
  • 視覚鈍麻:光や複雑な模様、人混みなど視覚に関する感覚鈍麻
  • 嗅覚鈍麻:さまざまなにおいに過剰に反応する感覚鈍麻
  • 味覚鈍麻:味や口の中の触感などに対する感覚鈍麻
  • 触覚鈍麻:肌に触れる刺激への感覚鈍麻
  • その他の感覚鈍麻:五感以外の感覚鈍麻

それぞれ具体的な症状を交えて解説します。

視覚の感覚鈍麻の特徴

  • 光に対する反応が鈍い
  • 暗い場所だと識別しづらい
  • 細かい動きに気づきにくい など

視覚の感覚鈍麻は視覚的な刺激に対する反応が鈍く、周囲の環境の変化や視覚的な変化に気づきにくいという特徴があります。

具体的には、動きや明るさの変化に気づけずに対処が遅れる、暗い場所で物を識別するのに時間がかかるといった例が挙げられます。また、複雑な視覚情報に適切に対処できず、混乱が生じてしまうケースもあるでしょう。

周囲の状況への対応が遅れる以外にも、視覚情報を見落としがちになるのも感覚鈍麻の特徴です。

聴覚の感覚鈍麻の特徴

  • 連絡事項を聞き逃す
  • 話しかけられたのに気づかない など

聴覚の感覚鈍麻は音に対する反応が鈍く、周囲の音を聞き洩らす、音への反応が遅れるといった特徴があります。

聴覚の感覚鈍麻の影響で、友達の呼びかけに気づかず無視した形になってしまい、後々トラブルに発展するケースも見られます。また、雑音が多い環境では特定の声や音を聞き分けるのが難しく、コミュニケーションに支障が出る場合も。大きな音や高い音への反応も鈍いので、アラームなど危険を知らせる音に気づかず危険な状況に陥る可能性もあるため、注意が必要です。

嗅覚の感覚鈍麻の特徴

  • 異臭がわからない
  • においや香りを感じにくい など

嗅覚の感覚鈍麻は、においに対する反応が鈍いため、通常であれば気づくはずのにおいや香りに気づきにくいという特徴があります。

たとえば食べ物の傷んだにおいが分からず食べてしまう、異常な味に気づかない、ガス漏れや煙のにおいがわからず大きな事故につながるなど、身体に危険が及ぶ可能性があります。

嗅覚の感覚鈍麻がある場合は、食品の状態をよく確認してから食べたり、ガス漏れや煙に反応するアラームを設置したりと、嗅覚以外の方法で感覚鈍麻を補うようにしましょう。

味覚の感覚鈍麻の特徴

  • 味が薄く感じる
  • 酸味や苦味などの区別がつきづらい など

味覚の感覚鈍麻は、味に関する感度が低下し、味を感じにくかったり特定の味を判別しにくかったりする点が特徴です。いわゆる「5味」といわれる甘味や酸味、塩味、苦味、うま味の区別もつきにくいといわれています。

味覚の感覚鈍麻があると、薄味や微妙な味づけがわからないだけでなく、味覚の強い刺激を求めて辛味や塩味、甘味の濃い味づけを好む傾向があります。また、嗅覚の感覚鈍麻と同様に腐っていたり異変があったりする食べ物の味にも気づきにくいため、健康を損なうリスクもあるでしょう。

触覚の感覚鈍麻の特徴

  • 痛みの感覚が鈍い
  • 暑さや寒さを感じづらい など

触覚の感覚鈍麻は、触れられていることに気づかなかったり、痛みに鈍感だったりと、皮膚感覚の反応が鈍い点が特徴です。また、暑い・寒いといった感覚が分かりにくいために気温に合った服装ができず、夏なのに厚着をして熱中症になってしまうといったケースも見られます。

触覚の感覚鈍麻があると、怪我の痛みや病気の違和感に気づかず、医療ケアが遅れてしまうリスクがあります。また子どもの場合、自分の触覚鈍麻を基本に考え、他者に触れた際の力加減が必要以上に強くなってしまい、トラブルに発展する可能性もあるでしょう。手先の感覚を感じにくく、細かな作業を苦手とする方も少なくありません。

その他の感覚鈍麻の特徴

  • 体をよくぶつける
  • 過剰な刺激を好む
  • 時間の感覚が乏しい など

その他の感覚鈍麻として、「固有感覚の鈍麻」や「常同行動」、「時間感覚の乏しさ」などが挙げられます。

固有感覚の鈍麻とは、自分の体の動きや位置を把握する感覚が鈍い状態のことです。自分の体の感覚や大きさを感じづらいため、物によくぶつかったりすることがあります。

常同行動とは、発達障害の中でもASD(自閉スペクトラム症)の方によく見られるもので、刺激を得るためなどの理由で同じ動作を繰り返し行うことです。感覚鈍麻のある方の自己刺激行動の1つとして、手を打ち鳴らす、壁に頭を打ちつける、自分の体を噛むといった常同行動が見られる場合があります。

また、感覚鈍麻のある方は外界からの刺激を感じにくく、時計の音や太陽の位置の変化といった時間の経過の手がかりをつかみにくい傾向にあります。そのため、時間感覚に乏しくなりがちな点も特徴です。

【ケース別】感覚鈍麻の対処法とセルフケア

以下の感覚鈍麻に合った対処法やセルフケアを行うことで、日常生活の困りごとの軽減が期待できます。

  • 聴覚鈍麻の対処法
  • 嗅覚・味覚鈍麻の対処法
  • 暑さ・寒さに対する感覚鈍麻の対処法
  • 痛みに関する感覚鈍麻の対処法
  • 感覚鈍麻により過剰に刺激を求めてしまう場合の対処法

1つずつ、詳しく見ていきましょう。

聴覚鈍麻の対処法

周囲の音に気づきにくく、反応が遅れやすい聴覚鈍麻には、以下の対処法があります。

  • 肩をたたく、目の前に立って目を合わせるなど、注意を引いてから話しかけてもらう
  • ジェスチャーやサイン、カードといった視覚情報を活用する
  • ランプやプッシュライトで音の代わりをする
  • 警報など、重要な知らせは振動するアラームを使う

また周囲ができる対処法として、聴覚鈍麻の方が呼びかけや説明を聞き洩らしてしまった時に何度でも確認できるような、聞き返しやすい雰囲気づくりを心がけましょう。

嗅覚・味覚鈍麻の対処法

においへの反応が鈍く、味への感度が低下した状態の嗅覚・味覚鈍麻には、以下のような対処法があります。

  • 食品を賞味期限順に色分けラベルなどで整理する
  • 食べ残しや開封したものを冷蔵庫内で区別しやすいように分ける
  • スマートフォンのリマインダー機能を使って賞味期限を管理する
  • 塩分や糖分ではなく、ハーブやスパイス、酢などで刺激を補う
  • ガス漏れや煙には視覚・聴覚でわかる警報アラームを導入する

感覚鈍麻の方は強い刺激を求める傾向があるので、安全性に配慮しながら安心できる刺激で補うことが大切です。

暑さ・寒さに対する感覚鈍麻の対処法

触覚の感覚鈍麻から暑さや寒さを感じにくい場合、以下のような対処法が挙げられます。

  • 時間で区切るなど、ルールを設けて定期的に水分補給をする
  • 気温に応じて帽子や上着を用意するタイミングを決める
  • あらかじめ季節ごとの大まかな服装を決めておく
  • 家を出る前に温度計を確認する

また、周囲ができることとして、暑さや寒さへの感覚鈍麻がある人と長時間外出する場合、定期的に体調を確認し、水分補給や休憩を促すといった対処法もあります。

痛みに関する感覚鈍麻の対処法

痛みに関する感覚鈍麻があると、怪我をしたり病気があったりしても気づきにくいというリスクがあるため、早めの対処が重要となります。痛みの感覚鈍麻の主な対処法は以下の通りです。

  • 入浴前に痣や傷がないか確認する習慣をつける
  • 少しでも体に違和感があったら医療機関を受診する
  • こまめに定期健診を受けて異常がないか確認する
  • 高温なもの、尖ったもの、危険な場所などに近づかないようにする
  • 怪我をしていたら教えてもらうようお願いする

外傷であれば周りも気づきやすいですが、病気やむし歯など、隠れた部分は周囲の人ではわかりません。定期的に健診を受けるなどして、異常にすぐ対処できるようにしましょう。

感覚鈍麻により過剰に刺激を求めてしまう場合の対処法

感覚鈍麻のある方は、強く触れる、叩く、大声を出すといった過剰な刺激を求めてしまう傾向があります。自傷行為に発展してしまうケースもあるので、感覚探求に対する適切な対策が必要です。具体的には、以下のような方法があります。

  • トランポリンやハンモックなど、安全な刺激を取り入れる
  • スクイーズボールや重い毛布、ブラシなどを使用する
  • ぶつかったり大声を出しても大丈夫な部屋やコーナーをつくる
  • エネルギーやストレス発散のために運動を日課に取り入れる

過剰な刺激を求めてしまう場合は、安全が確保された代替の刺激を活用すると良いでしょう。また、エネルギーやストレスが溜まると刺激を求めがちになるので、体を疲れさせる運動を日常に取り入れる方法も有効です。

感覚鈍麻の診断方法

感覚鈍麻の症状により日常生活に困りごとが生じている方は、各器官の診療科を受診すると良いでしょう。症状の種類別の診療科は以下の通りです。

  • 聴覚鈍麻:耳鼻咽喉科
  • 視覚鈍麻:眼科
  • 嗅覚鈍麻:耳鼻咽喉科
  • 味覚鈍麻:口腔科、耳鼻咽喉科
  • 触覚鈍麻:皮膚科

なお、発達障害の方で感覚鈍麻がある方は、上記の診療科を受診しても身体には異常が見られない場合もあります。発達障害の方は、精神科や心療内科の担当医に相談してみると良いでしょう。

会社や就活で感覚鈍麻をどう伝える?

感覚鈍麻は、発達障害の支援に慣れた人でもなかなか理解が難しいもので、発達障害のことをあまり知らない上司や面接官にはなおさらわかってもらうのが難しいでしょう。中途半端に伝えると「努力が足りない」「大げさに言っている」などと誤解され、かえって職場の上司・同僚や面接官などとの距離を広げてしまいかねません。対策として、このページを印刷したり、発達障害の解説書を持参したり、感覚鈍麻の困難さを上手に説明してくれる支援者に”通訳”・”解説”してもらうなど、職場の人が理解しやすい手段を考えましょう。

Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらの中で独特の感覚やその対応方法についても専門のスタッフに相談できますので、支援者の伴走を活用することもご検討ください。

感覚鈍麻は環境を整える対策が大切

感覚鈍麻は、刺激に対し脳が上手く機能していないことや感覚器官の疾患、ストレスなどが起因すると考えられ、発達障害の特性の1つにも当てはまります。個々によって感覚鈍麻の症状や程度は異なり、一般的な感覚の人からは理解を得にくい場合もありますが、本人にとっては日常生活に支障がでるほど悩まされていることも少なくありません。

感覚鈍麻の場合は、自身の困りごとを理解し、無理なく生活しやすい環境を整える対策が大切です。症状に応じた診療科への受診や、発達障害の方は精神科や心療内科など、通院先の主治医に相談することも検討しましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

感覚過敏と鈍麻は客観的指標をもとに説明することが難しい状態です。特に過敏のある方は、環境に苦手な感覚が強く刺激されることがあると、非常に苦しいものです。その人固有な感覚であるだけに、身近な人さえその辛さを理解に苦しむ点で、当事者の方は理解されない苦しさを持つのは記事の通りです。医療的にも選択肢が少ないのが事実。ただし、ノイズキャンセリングイヤホンを代表に、過剰な感覚に対処するツールは進化してきているので、何か自分に合ったものがないかは是非探してみてください。個人的には、サングラスやノイズキャンセリングイヤホンなど、職場で気軽に使えるといいのに、とは思います。上司やグループの人に理解してもらえると過ごしやすくなることも多いので、検討してみてください。

近年、感覚過敏に関してはHSPという用語も出てきたりしました。HSPそのものは医学的診断では無いのですが、これまで医療があまり関心を払えてこなかったからこそ、苦しんでいる人が共感を覚えているという側面があったのだろうと思います。今後はこの領域の医学的理解が進み、今はない解決策が実現されることを願っています。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。



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