アスペルガー症候群とは、知的・言語的発達に遅れのない自閉的特徴がある発達障害*に対する過去の診断名の1つで、現在は発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症)に統合されています。
※成人の方の中には過去にアスペルガー症候群と診断された方も多いため、本記事ではアスペルガー症候群と表記します。
本記事ではアスペルガー症候群の特徴や症状、ASDとの違いや相談できる専門機関などについて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
アスペルガー症候群とは?
アスペルガー症候群は生まれつきの脳機能のアンバランスに起因する発達障害の一種です。アスペルガー症候群は現在、診断名がASD(自閉スペクトラム症)に統合されていますが、成人のASDの方の中には過去にアスペルガー症候群の名で診断された方も多いため、本記事では区別して表記します。
それでは、アスペルガー症候群とASDの違いについて、以下で詳しく見ていきましょう。
アスペルガー症候群とASD(自閉スペクトラム症)の違い
ASD(自閉スペクトラム症)の方の多数には、コミュニケーションや人間関係に困難があったり、自分の決めた手順やルールへの強いこだわりを示して変化を嫌ったりするなどの特性が見られます。そういった方のうち、知的・言語的発達に遅れがない方が、過去にアスペルガー症候群と診断されていました。
アスペルガー症候群がASDに統合された経緯は、アメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」において、自閉的な特性のある疾患が統合されたことです。そして、2022年(日本語版は2023年)発刊の「DSM-5-TR」において「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名になりました。
ASDの特徴や診断基準、仕事上の困りごとなどについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)
アスペルガー症候群の症状や特徴
イギリスの児童精神科医ローナ・ウィングは、アスペルガー症候群を含む自閉症の方の特性として1979年に次の「ウィングの3つ組」を提唱しました。
- 社会性の特性
- コミュニケーションの特性
- 想像力・こだわりの特性
加えて、アスペルガー症候群の方には聴覚や視覚など特定の感覚過敏(あるいは鈍麻)が見られることもあります。
アスペルガー症候群の症状や特徴について、以下で詳しく見ていきましょう。
社会的な振る舞いが困難
「ウィングの3つ組」の社会性の特性は、「空気が読めない」と表現されることもよくあります。その場で要求される暗黙の了解などのルールがわからないため、人とかかわる場面で適切にふるまうことが苦手です。それが原因で周りの人と食い違ってしまい、相手を混乱させたり、孤立したりする場合があります。特に、学校や職場などの集団生活においてチームワークを求められる活動や、周りの人と適度な距離感を保ちながら円滑に付き合うことが不得意です。
コミュニケーションや対人関係を築くのが難しい
「ウィングの3つ組」のコミュニケーションの特性とは、相手の発言の意図や言外の感情を理解したり、自分の考えや感情を相手にわかりやすく伝えたりするのが苦手ということです。
アスペルガー症候群の方は言葉の発達に遅れはないものの、言葉の使い方や解釈が独特な場合もあり、それゆえに周りの人とのコミュニケーションにギャップが生じるケースがあります。例えば、相手の言葉の意味を誤解したり、相手に伝わりにくい表現をしたりしてしまうため、円滑なコミュニケーションや対人関係の構築・維持が難しくなることもあるでしょう。
こだわりが強い
こだわりの強さは「ウィングの3つ組」における想像力・こだわりの特性に該当します。アスペルガー症候群の方の多くは自己流で物事を進めたがる傾向があり、自分の経験・予想を超えることや「こうするとどんな結果になるか」を想像することが苦手です。また、自分が関心を持っている事や快適な行動パターンに対するこだわりが強く、想定外の行動をすることに不安や抵抗を感じます。
アスペルガー症候群の原因
アスペルガー症候群の原因には未解明の部分が多いものの、ワクチンや親の子育て・躾(しつけ)が原因であるという説は否定されています。
2024年9月時点では、遺伝子要因や環境(主に妊娠中)要因、およびそれらの組み合わせがアスペルガー症候群の原因とする説が主流です。ただし、親からの遺伝による発症の割合や遺伝子の突然変異による発症の割合、環境要因の具体的な要素などについては、まだよくわかっていません。
アスペルガー症候群の併存症
アスペルガー症候群は発達障害の一種であるADHD(注意欠如多動症)と併存するケースが多いとされています。厚生労働省が公表した調査報告によると、ASDとADHDが併存している方は調査対象全体の26.8%でした。SLD(限局性学習症)との併存も多いと言われています。
また、発達障害の方は社会への適応が難しくストレスが多いことから、うつ病や双極性障害、不安症などの精神疾患や睡眠障害などを併発する場合も少なくありません。
出典:成人の発達障害に合併する精神及び身体症状・疾患に関する研究
大人になってからアスペルガー症候群になることはある?
アスペルガー症候群の特性は先天性の脳機能のかたよりによるもののため、大人になってから発症することはありません。ただし、子どもの頃は大人にサポートしてもらえたり授業などルーティンとしてこなせる作業が多かったりするため、アスペルガー症候群の特性が目立ちづらく、気付かれない場合もあります。
そういった方は、大人になって就職などを機に環境が変化してから自分の特性に気付くことがあります。大人の社会生活においては要求されるコミュニケーションが複雑になり、臨機応変な対応や空気を読まなければならない場面が多くなって、困りごとも増えるためです。
アスペルガー症候群に見られる行動やサイン
ここでは、大人のアスペルガー症候群の方に見られがちな行動やサインをまとめています。ただし以下はすべてのアスペルガー症候群の方に見られるわけではないため、あくまで一例として参考にしてください。
- 「空気が読めない」と指摘される
周りの反応を想像できずマイペースに行動してしまう
- グループワークが苦手
複数人でのコミュニケーションが難しく、自分の役割や適切な行動がわからず場を乱してしまう
- やりとりがかみ合わない
言葉の解釈や使い方が周囲の人と異なり、暗黙の了解などを省いたスピーディーなコミュニケーションをしてしまいがち
- 自己流で物事を進めたがる
こだわりが強く変化が苦手なため、ルーティンワークを好み人に合わせられない
- 「態度が大きい」と注意される
セルフモニタリングができない、姿勢の保持が難しくふんぞり返っているように見えるなどの理由から、態度が大きいと誤解されやすい
- ふとしたきっかけにより、つらい記憶がフラッシュバックする
特性により、嫌な出来事を鮮明に記憶してしまい、ふとしたときにフラッシュバックが起こりパニックに陥ることがある
アスペルガー症候群かも?と思ったらどうする?
自分や家族にアスペルガー症候群の特性があるかもしれないと思った場合にできる主な対策として、次の2つがあります。
- 医療機関を受診
- 専門機関へ相談
それぞれの対策に関する具体的な内容を以下で詳しく解説します。
医療機関を受診
アスペルガー症候群やその他の発達障害は、精神科や心療内科を受診して診断してもらうことができます。診断基準に用いられるのはアメリカ精神医学会によるDSMと世界保健機関(WHO)によるICD(国際疾病分類/最新版はICD-11)があり、医療機関で主に参照されるのは最新版のDSM-5-TRです。
アスペルガー症候群は現在はASDと診断されます。ASDの詳しい診断基準については、次の記事をご参照ください。
専門機関へ相談
発達障害の方が相談できる専門機関には発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなどがあります。
発達障害者支援センターは、発達障害の方の生活や仕事をしやすくする環境づくりなどを行う支援機関です。専門家が特性に応じた支援プログラムを実施したり、発達障害の方やそのご家族の相談に対応したりしています。
精神保健福祉センターは、地域の医療機関と連携して健康づくりやメンタルヘルスなどの支援を行う公的機関です。専門家によるカウンセリングやリハビリテーションプログラム、心理検査などを実施しています。
また、仕事に関する悩みや困りごとがある方には就労移行支援がおすすめです。Kaienでは、一般企業への就職・転職を目指す発達障害の方に特化し、100種類以上の職業体験や、ソーシャルスキル講座、ビジネススキル講座などを提供しています。発達障害に理解のある企業200社以上と連携した独自求人や手厚い就活サポート、定着支援もKaienの就労移行支援の特徴です。
アスペルガー症候群の治療方法
アスペルガー症候群は生まれながらの特性のため、治療で完治することはありません。ただし、カウンセリングで自己理解を深めたり、ソーシャルスキルトレーニング(SST)でコミュニケーションスキルなどを習得したりすることにより、コミュニケーションの改善や困難の減少を図ることは可能です。
また、アスペルガー症候群に対する直接的な治療薬はないものの、二次障害の精神疾患に対しては薬が処方される場合があり、二次障害の症状が強く出ている場合は服薬で症状が緩和する可能性もあります。
二次障害について詳細を知りたい方は、こちらの記事をチェックしてください。
アスペルガー症候群かと思ったら早めの相談と対応を
アスペルガー症候群は発達障害の一種で、現在はASD(自閉スペクトラム症)に統合されています。特性の影響でコミュニケーションや対人関係の困難、こだわりの強さなどが生じ、日常生活や仕事をするうえでの困りごとも多くなるため、アスペルガー症候群かもしれないと思う方は、早めに医療機関や専門機関に相談しましょう。
適切な対応をすることで、困りごとの改善や解消につながる可能性があります。生活や仕事に関するお悩みがある方は、ぜひお気軽にKaienにご相談ください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
「アスペルガー症候群」は本文にあるように今では古い診断名となりました。今は自閉症スペクトラム(ASD)の中にまとめられています。前はある人が「アスペ的である」といえばどんな印象の人か想像がついたのですが、今はASDと言われてしまうと、どんな人かそれだけの情報ではわからなくなりましたね。
アスペだから何が得意、というのは決めつけられるわけではないですが、科学研究者にも多い印象です。変人とみなされることもありますが、長所を活かすと他の人に無い強みを発揮される方も多いです。私の友人にもいますが、清廉/公平な人格と力に媚びた妥協などをしない強さを心から尊敬しています。
尚、アスペルガー症候群の名前についているハンス・アスペルガーはオーストリアの医師でした。アスペルガーの活躍した時代はちょうどナチスドイツの台頭時期と重なっていましたが、彼はナチス党員にはならず、今で言うASD児の特性を研究していました。障害児を数多く収容所へと追いやったナチスの政策に彼が協力したのか、それとも抵抗していたのか。現在その評価がどちらとも揺れています。アスペルガー症候群の名前がDSMやICDの新しい版で使われなくなったのはそのことも理由の1つです。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。