【セミナー解説】LDをとりまく社会の変化

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発達障害者支援法が制定されてから、2024年で20年となります。これを受けてKaienでは、「ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024」の第一弾として2024年1月1日にオンラインイベントを開催しました。

本記事は、「LDをとりまく社会の変化」をテーマとし、認定NPO法人エッジ会長の藤堂栄子さんに伺った内容を紹介します。

星槎大学特任教授も務める藤堂さんは、ディスレクシア*¹の当事者として発達障害者支援法をはじめ多くの法律立案に関わっておられます。現在はディスレクシアの支援方法の開発や人材育成に注力する傍ら、当事者の会を通じて積極的に情報発信を行っています。

本セミナーでは、ディスレクシアを含むLD(学習障害)の特徴や発達障害者支援法の制定前後に見られる変化、20年後の理想とする社会像とLDの関わりなどについて、詳しくお話いただきました。

2024年1月1日開催のオンラインセミナー「LDをとりまく社会の変化(講師:藤堂栄子 星槎大学特任教授・認定NPO法人エッジ会長) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら

LDとは

そもそもLDとは英語の「Learning Disabilities」の頭文字を取っており、日本語では「学習障害(限局性学習症)」と呼ばれます。厚生労働省では「読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、特異的な発達障害*²の1つ」と定義されています。

藤堂さんによると、LDのDは従来の医療用語で障害(現在は学習症)を指す「Disorder」や「Difficulties(困難)」だったのが、「Differences(違い)」「Diversity(多様性)」へと変わってきていると言います。LDは障害ではなく困難さであり、これからは学習方法の違いで多様化していくという見解をお持ちです。

LDはおおむねIQ85以上で、学習上の困難さが中核であるされています。また、LDと言われる子どもの約8割は読み書きの困難があるディスレクシアで、日本人口の約8%というデータもありますが、医療的にディスレクシアの診断基準を満たす子どもは2%前後で、残り6%は日本では診断が出ない可能性があります。

大人のLDについては、こちらの記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。

関連記事:大人のLD(学習障害)

LDの診断における海外と日本の違いとは?

ご子息のディスレクシア診断をイギリスで受けた藤堂さんは、イギリスなど海外と日本とでLD診断に関して「教育的診断」という違いがあると言います。

イギリスでは、ディスレクシアの診断は医者ではなく教育心理士が行い、診断により福祉的な支援を受けられる仕組みです。さらに、ディスレクシアのアセスメントができる先生が学校に1人は在籍しており、先生が子どもの状態や状況を見てスピーディに教育的な対処を始められます。

25年前には、ディスレクシアの生徒に気付き教育的支援をする学校には、1人あたり30万円が支給されるシステムがありました。学校の裁量でパソコンの導入や人員増加などの対策を実施すれば、学校の評価が上がり、助成金も出るため、進んで取り入れる学校も見られました。また、ディスレクシアの児童生徒を見逃している学校には罰則規定がありました。現在はアクセスアレンジメントという形で時間延長やPCによる受験は本人の申し出で対応されるようになっています。

一方、日本には法律があっても罰則規定がないため、先生や学校が負担に感じ、やらなくていいと判断されている可能性も考えられます。(障害者差別解消法

ディスレクシアを理解する上で知っておきたい人間の読み書きのメカニズム

私たち人間には、耳から音を聞き、それを真似して発したときに起きることを見て、意味を理解する、という回路が備わっています。赤ちゃんのときから、このプロセスを使って学習していきます。

4〜5歳になると、記号として「文字」を学ぶ際に、音がつき、意味がついて文字として成り立つことを絵本などで習得します。これには、音と記号を結びつけ、操作する能力が必要です。

このプロセスのどこかで支障があると脳の回路がうまく形成されません。頭で考えた文章を書くときは、必要な文字や記号を瞬時に、正確に思い出す必要がありますが、ディスレクシアの場合スムーズに思い出せないことも多く、書くのに時間がかかったり不正確になったりします。

アルファベット26文字だけを学ぶ言語と違い、日本で日本語で学習するときにはひらがなだけでなくカタカナ、小学校だけで1000の漢字、ローマ字、そして英語でアルファベットを学ばなくてはならず、波状攻撃的に困難さが増します。

LDの1つであるディスクレシアとは?

藤堂さんは、ディスレクシアの特徴として読み書きの「スピード・流暢性・正確さ」の3つが基準になると話しています。その上、視覚認知の問題や、作業記憶の低さ、不器用さがあるとより困難さが増します。

読み書きでは、音と文字を結びつけて操作する力(デコーディング)と、理解・読解する力(コンプリヘンション)の関係性も重要です。多くの人は文字を読みながら理解すること(読解)をスムーズに行っていますが、ディスレクシアの場合、理解力はあってもデコーディングは弱い傾向があるため、情報を音声化するなど他の方法も活用して理解を促す必要があります。

また、私たちの脳は「音韻ルート」と「意味理解ルート」の2つを使って読みます。特に日本語ではでは意味理解ルートをうまく使うことが、読解につながると考えられます。

低次の読み書きと高次の読み書きとは?

読み書きのレベルは、大きく「低次の読み書き」と「高次の読み書き」という2つに分けて考えられています。低次(低い次元)の読みとは、印刷された文字をすらすらと正確に音に変えて読めることです。

手書きでスラスラと書き写して文章を書く作業は、低次の書きに該当します。より重要なのは高次の読み書きです。高い次元の読み書きとは、内容にアクセスし、意味理解をして考え、アウトプットする一連の作業のことを指します。

内容へのアクセスやアウトプットの方法は印刷された文字を読み手書きする以外に多数ある上、昨今はパソコンやタブレットを使った音声入力など実用的な方法が増えているため、読み書きのハードルや課題は軽くなってきています。

発達障害者支援法制定以前のLD(学習障害)への認識

2004年に発達障害者支援法が制定される以前は、1990年に全国LD親の会、1992年にLD学会が組織化された後、1995年には文部科学省がLDを位置づけました。「社会性のLD」という言葉で表され、広半性発達障害や自閉症の中でも高機能といわれる児童も含まれることがありました。

また、当時はIQ100以上のLDの子どもや、読み書きに困難があるだけという子どもはほぼいないともいわれていました。知的に高くない、いわゆるグレーゾーンの子どもをLDと呼んでいた時代です。

発達障害支援法制定の概要と経緯

2004年に発達障害支援法が制定され、2005年に施行されました。その後、5つの団体(日本自閉症協会、全国LD親の会、アスペ・エルデの会、エジソンクラブ、NPO法人エッジ)が発起団体となって、同年にJDDNET(日本発達障害者ネットワーク)を発足、「発達障害」としてまとめて声をあげていく動きが生まれました。

法律には、以下のような当事者の訴えを反映した内容が多く含まれています。

  • 発達障害者に対する障害の定義
  • 発達障害への理解の促進
  • 発達生活全般に関する支援の促進
  • 支援を担当する部局の緊密な連携
  • 関係機関との協力体制の整備

また、従来のような縦割の体制ではなく、横につながって連携することで当事者の意向をより明確に反映するように訴えました。

発達障害支援法制定による変化と影響

発達障害支援法の制定により、当事者の声を反映した法律が施行され、LDの認知の促進につながりました。政策やサービスは以前より充実してきているものの、生涯を通じた切れ目のない支援が重要です。

18歳など年齢や立場などで制限を設けるのではなく、以前からの対策が次へ伝わるような支援が重要であるとJDDnetとして当事者の声を届けました。

その結果として、福祉・教育・家庭の3点が連携する「トライアングルプロジェクト」が立ち上がりました。また、親子への支援や親へのケア、ペアレントメンター、ペアレントトレーニングも進められています。

ディスレクシアも対象となった障害者差別解消法とは?

2013年に制定、2016年に施行された障害者差別解消法も、ディスレクシアも対象として含む法律です。法律では、「社会は差別をしてはならない」という基本事項とともに、障害のある人への合理的な配慮の提供や基礎的な環境整備、建設的な対話、保護者本人の意思確認、といった内容が謳われています。

障害者差別解消法ができたことによって、ディスレクシアに限らず障害者全般に対しての支援が行き渡ってきたと藤堂さんは話します。

LDの現在地

ここからは、現在の社会におけるLD/ディスレクシアの立ち位置について見ていきます。

メディア等で取り上げられる機会が増えた

ここ数年、LDやディスレクシアという言葉がマンガ、テレビ番組、ドラマなど、メディアなどに取り上げられる機会が増えました。また、読み書きに困難があっても、他に突出した才能を持っている「2E(Twice Exceptional)」という考え方も注目されています。

日本の教育現場では、ディスレクシアに該当するか判断できる人が現場にいないことが少なくありません。また、通級で元の学級における学習の補習が認められない、もしくは間違った対応をされているというケースも見られます。

加えて、本来は必要ではないが通級を利用するために医師の診断書を条件とする教育委員会があるにもかかわらず、診断ができる医師が少ないために予約待ちが続き、なかなかサービスを受けられないことも課題です。

不登校経験があるLDの児童生徒は50%以上

不登校経験があるLDの児童生徒は50%以上という調査結果があります。約29万人いるとされる不登校の児童のうち、LDにまだ気づかれていないケースも多いと考えられています。

自閉症やADHDと異なり、ディスレクシアやLDは言動から周囲が気づくことや周囲が困ることが少なく、保護者や支援者が間違った指導をしてしまう可能性もあるでしょう。

1人1台タブレットを配布する「GIGAスクールプロジェクト」もありますが、1人ひとりにあった使い方をすることが重要です。LDだからデジタル端末を使えばいいという考えで、渡して終わりではなく、その子にはどのような使い方が適切かを判断する必要があります。

合理的な配慮により本来の力を発揮できるケースが増えてきた

合理的な配慮により、本来の能力を発揮するに至るケースも増えてきています。LD/ディスレクシアと診断を受けた子どもが増えている状況や、読書バリアフリー法の後押しもあり、ICTの活用や教科書の音声化による支援の流れも大きくなっています。

また、音で聞いて理解する文化を作ろうという動きも見られます。ただ、大学の共通テストは申請できるものの、診断書が必要な決まりであるため、共通テスト受験を諦めてしまう子もいます。

しかし、読み書きテストを含まない推薦やAO入試など入試方法が選べるようになってきており、アウトプット方法を自分なりに持っている子は大学に進みやすい状況も生まれつつあります。

就労におけるLDの20年間の変化と必要な取り組み

教育現場ではLDの支援が注目されている状況にありますが、就労現場におけるLDへの理解や支援体制は、この20年ほとんど進捗がない状態です。

そこで、認定NPO法人エッジやKaienのような活動場所を知り、本人がまず自分を知ることが大切だと藤堂さんは話します。働く大人として、就職・仕事をするために自分のことをよく理解した上で、どうすれば本来の力を発揮できるか、方向性を考えます。

できないこととできること両方を知り、職場へうまく伝えることで、人事担当者や上司など周囲の人たちが支援をどうするか、ICTなどのリソースを含めて決めていくことができるでしょう。

20年後のLDとは?労働力不足の救世主となりうる

20年後には、LDやディスレクシアの人は、日本の労働力不足の救世主になり得ると藤堂さんは考えています。価値観の多様化を受け、リモートワークやワークシェアリングなどさまざまな働き方や、趣味を生かした働き方が浸透してきています。

また、インクルーシブな教育や多様な学び方もさらに受け入れられ、少子高齢化や労働力不足への対策としても、外国人の受け入れや社会的な融合も重要度が高まっていきます。

LDが労働力不足解消に役立つ可能性のある職種や業界は、以下の通りです。

  • 介護サービス
  • 商品販売
  • 建築・土木
  • 生産
  • 接客
  • 調理

読み書きが大変だと事務職には向かない可能性が高いでしょう。また、ドライバーのように資格が必要な場合、資格試験に通らなければ働けないため、試験への合理的な配慮も望まれます。

しかし、人への優しさや思いやりがあり人の心の痛みがわかる、力持ちなど多くの能力やスキルを持ち合わせている人も多く、ICTやAI技術と組み合わせた働き方や仕事を選ぶことで活躍できる可能性はあります。

20年後の理想の社会像とは?

藤堂さんが考える「20年後の理想の社会像」とは、誰でもが本来持っている能力を十分に発揮し、豊かな社会の一員として活躍していることです。AI技術が進歩し、手書きの正確さや計算能力よりも人間らしい能力、クリエイティビティの重要性が浮き彫りになると予測されます。

ジェネラリストができることはAIができることであり、より専門性を生かすような社会が必要となるでしょう。日本社会が豊かであり続けるためには、チームのプレイヤーとしてLDやディスレクシアなどを包容し、多様性を生かし、そこから生まれるシナジーを糧にする必要があります。

Learning Diversity になるために必要なこと

LDが「Learning Disabilities」よりも「Learning Diversity」になるために、目的を達成する方法を1人ひとりが選べる環境や状況を作ることが理想的であると藤堂さんは考えられています。日本では、ある方法ややり方を教わると、それ以外の方法では間違いとされることがあります。

実際に目的に至るまでにはさまざまな方法があり、本人がやりやすい方法を選べるように調整できると望ましいでしょう。自分で理解をし、読む方法や書く方法を選んで実践することが、ダイバーシティに応える方法です。そして、セルフアドボカシーとしてしっかりと自分のこと伝えていくことが大切です。

LDやディスレクシアの人は、まず自分を好きになることから始めることを藤堂さんは提案しています。読み書きが多少不得意でも、パソコンやスマホが浸透している現代では問題は軽くなってきています。

自分の好きなことや興味があること、楽しいことを深掘りし、背景の知識を身につけていくことで、楽しみの多い人生を過ごせるでしょうと藤堂さんは優しく語ってくれました。

今回の記事では紹介しきれなかった、貴重なお話や具体的な質問にも答えていただいているのでぜひ動画も併せてご確認ください。

2024年1月1日開催のオンラインセミナー「LDをとりまく社会の変化(講師:藤堂栄子 星槎大学特任教授・認定NPO法人エッジ会長) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら

*1ディスレクシアは現在、DSM-5では発達性ディスレクシアと言われます
*2発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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