緘黙(かんもく)とは?意味や治療法から支援制度までご紹介

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緘黙とは、「日常生活で全く話ができない」「特定の場面だけ話せなくなってしまう」など、「話すこと」に関して支障がある症状をいいます。特に多いのは特定の場面だけ会話ができない場面緘黙で、「家では話ができるのに職場や学校では話せない」といった症状にお悩みの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、緘黙の症状や原因、治療法などを詳しく解説します。緘黙は国の支援対象となっているため、利用できる福祉支援制度についても紹介します。

緘黙(かんもく)とは

緘黙とは、話せる能力があるのにも関わらず、言葉を発せなくなってしまう症状のことです。緘黙には「全緘黙」と「場面緘黙」の2種類があります。

全緘黙は、日常生活をとおしてすべての場面で話ができない症状です。一方、場面緘黙は特定のときだけ話せなくなってしまうことをいいます。「家では普通に会話ができるのに、学校や職場では話せない」といった症状で、選択性緘黙とも呼ばれます。

緘黙は人見知りなど性格によるものとは異なる

「家では話せるのに学校や職場では話せない」という場面緘黙の症状は、人見知りなど性格によるものだと勘違いされやすいのですが、そうではありません。緘黙の特徴は、症状が何ヶ月から何年と長期的に続き、緊張や人見知りをしないようなシーンでも話せなくなってしまうことです。

緘黙は5〜6歳前後に発覚することが多いのですが、小学生や中学生になってから症状が表れることもあります。緘黙は社会生活に大きな影響を与えるため、早期に発見して適切な治療と支援を行うことが大切です。

緘黙を性格によるものだと判断してしまうと、適切な治療や支援が行えません。「特定の場所だけ黙り込んでしまう」などの症状が見られる場合は、早めの対応が必要です。

大人の場面緘黙(選択性緘黙)の症状

緘黙は子どもだけでなく大人にも表れる症状です。大人の場面緘黙は特に職場で表れやすいといわれており、具体的な症状には以下のようなものがあります。

  • のどが圧迫されるような感覚で声が出ない
  • 質問したいことがあるのに上司や同僚に話しかけられない
  • 話しかけられたときにすぐに答えられない
  • あいさつや雑談ができない
  • 会議や打ち合わせで発言できない
  • プレゼンのように大勢の前で話すのがつらい
  • 周囲の視線が気になって集中できない など

このように、大人の場面緘黙は業務上必要なコミュニケーションに支障が出ることから、会社に居づらい状況になってしまうことも少なくありません。

場面緘黙(選択性緘黙)の発症率と発症年齢

緘黙の発症率は調査によって数値にばらつきがありますが、おおむね0.03%から1%であると報告されています。これは、数百人に1人の割合で発症する計算になります。この数字を見ると、緘黙は決してめずらしいものではないことがわかるでしょう。

場面緘黙の多くは、2〜6歳ごろに発症します。保育園や幼稚園など家庭以外の場所で過ごす機会が増えることで、「家以外の場所で話せない」という症状が発覚するケースが多いです。

場面緘黙(選択性緘黙)の原因

場面緘黙の原因ははっきりしておらず、特定の要因だけでなくさまざまな要因によるものだといわれています。原因として考えられているのは、本人の気質によるものと環境要因の大きく2種類です。

本人の気質とは、「緊張しやすい」「不安を感じやすい」といったものです。また、言葉の発達の遅れや吃音、知的障害なども影響することがあるといわれています。

環境要因には、入園や入学、引っ越しなどの急激な環境変化などが該当します。また、「あまり会話をしなくても過ごせる」「あまり話さない子だと思われている」のように、話す機会が少ない環境も場面緘黙の原因となります。

場面緘黙(選択性緘黙)と発達障害の関係性

場面緘黙の症状がある方のなかには発達障害*の特性が見られることがあり、緘黙と自閉スペクトラム症(ASD)を併存している方が多いという研究結果もあります。そのため、場面緘黙と発達障害には関係があるといえるでしょう。

ただし、発達障害の方すべてに緘黙の症状が表れるわけではありません。また、緘黙の症状があるからといって発達障害であるとはいえません。

発達障害の特性で話すのが苦手な方もいますが、これは緘黙とは異なります。場面緘黙の診断には専門的な検査が必要で、「家以外の場所で話さない」という症状だけでは判断できません。

場面緘黙(選択性緘黙)の診断基準

場面緘黙の診断には、アメリカ精神医学会が発行する診断基準であるDSM-5を用います。DSM-5では、以下の5項目を満たす場合に場面緘黙であると診断します。

  • 他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において話すことが一貫してできない。
  • その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
  • その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月 (学校の最初の1ヶ月だけに限定されない) である。
  • 話すことができないことは、その社会的状況で要求される話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
  • その障害はコミュニケーション症 (例:小児期発症流暢症) ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

この基準に基づくと、「人見知りなど性格によるもの」「反抗でわざと話さない」といったケースを除外でき、「特定の場所でだけ話すことができない」という場面緘黙を診断できます。

場面緘黙(選択性緘黙)と混同されやすい疾患

場面緘黙と似た症状が出て、場面緘黙と混同されやすい疾患として以下のようなものがあります。

  • 全緘黙:どのような場面でも話すことができない症状
  • トラウマ性緘黙:強くショックを受ける出来事によって、急に生じる全緘黙の症状
  • 社会不安障害:人前で話すことに対して強い緊張や不安を感じる不安障害の一種
  • 吃音:円滑に話すことが難しい発話障害の一種
  • 失声症:突然声が出なくなる症状

これらは「話せない」という共通点はあるものの、細かい症状や原因はそれぞれ異なります。

場面緘黙(選択性緘黙)の治療

場面緘黙は社会生活に支障をきたすため、治療も検討しましょう。場面緘黙の治療方法として、次の3つがあります。

  • 精神療法
  • 言語聴覚士による支援・サポート
  • 薬物療法

それぞれの治療法について、以下で解説します。

精神療法

場面緘黙の治療法のひとつが、話すことに対する不安を軽減する精神療法です。例えば、自分の考えていることや行動のクセなどを把握したうえで、どうすれば症状がよくなるのかを整理してストレスや不安を和らげる認知行動療法があります。

話すことに対する緊張や不安によって場面緘黙が起きていることがあるため、それを取り除くための精神療法によって症状が和らぐ可能性があります。

言語聴覚士による支援・サポート

言語聴覚士は言葉によるコミュニケーションや聴覚に関する問題に対して、身体機能の面からアプローチを行う専門家です。

場面緘黙や失語症、言葉の発達の遅れなどの症状を抱える方への支援やサポートが主な仕事で、一人ひとりが抱える問題について検査や評価を実施し、必要に応じて訓練や指導、助言をしてくれます。

言語聴覚士はプロなので、「記号やジェスチャーなど、言葉以外のコミュニケーションの仕組みを作る」「不安を感じさせないように話すことを強要しない」など、場面緘黙の方への負担を抑えながら、一人ひとりに合わせた対応をしてもらえるでしょう。

薬物療法

極度の不安・緊張の緩和や、うつ症状・不安症状の軽減のために、薬物療法が行われるケースもあります。話すことに対して強いストレスや不安を感じる方は、薬物療法によって症状が和らぐかもしれません。

しかし、薬物療法はあくまでもうつ状態や不安症状に対する治療で、場面緘黙そのものに対する治療効果はありません。

場面緘黙(選択性緘黙)の方が受けられる支援

場面緘黙は、「発達障害者支援法」の支援対象となっています。そのため、以下のような国の支援制度を活用できます。

  • 自立訓練(生活訓練)
  • 就労移行支援
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 自立支援医療

それぞれの支援制度について以下で紹介するので、必要に応じて活用を検討してみましょう。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるように、訓練・支援を行う場です。自立訓練(生活訓練)では、食事や生活リズムなど自立した生活を送るために必要なスキルを学ぶことができます。

自立訓練(生活訓練)は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つであり、65歳未満の方が対象となります。サービスの利用には医師の診断が必要となりますが、障害者手帳を持っていなくても利用可能です。

就労や自立に具体的なイメージがなく、ゆっくりと自己理解を深めたいと考えている方や、生活基礎力を高めたい方などは、自立訓練(生活訓練)の利用も検討してみると良いでしょう。

就労移行支援

就労移行支援は就労を希望する障害のある方を支援する制度で、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」の大きく3つのステップが用意されています。

職業訓練は、就労移行支援事業所に定期的に通い、働くために必要なスキルやマナーを身につけるためのプログラムです。障害の特性やこれまでの経験が一人ひとり異なるため、個別支援計画書を作成してそれぞれに合った取り組みを進めます。

就活支援では、求人の選び方や自己PRの仕方などの指導によって、企業に就職するまでのサポートをしてくれます。就労が開始したあとも、仕事や職場に関する相談や職場との橋渡しなど、その職場で長く働けるよう定着支援も受けられるので安心です。

場面緘黙によって企業への就職に困っている方は、この就労移行支援の活用も検討してみましょう。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、統合失調症やうつ、発達障害などによって長期にわたって日常生活や社会生活に制約がある方を対象とした手帳です。制約の度合いに応じて、1級・2級・3級の3つの等級があります。

手帳を受けるためには、精神障害による初診日から6ヶ月以上経過している必要があるため、該当の障害について医療機関による診断を受けておかなければなりません。

精神障害者保健福祉手帳を持っていると、公共料金の割引や各種税金の控除、生活福祉資金の貸付など、経済的な支援やサービスが受けられます。

手帳の交付を希望する方は、申請書や医療機関の診断書など必要書類を用意して、お住まいの地域の担当窓口に申請しましょう。どの等級になるかは、審査によって決まります。

自立支援医療

自立支援医療は、場面緘黙などの精神疾患を治療するためにかかる医療費の自己負担が、3割から1割に軽減される制度です。自立支援医療の対象は、以下の3つです。

  • 精神通院医療:精神疾患の治療
  • 更生医療:身体障害の治療
  • 育成治療:身体障害がある子どもの治療

場面緘黙だけでなくすべての精神疾患が対象で、継続して通院・治療している方はこの制度を利用することで治療にかかる経済的負担を軽くできます。経済的な負担が減れば、安心して治療に専念できるでしょう。

ただし、「都道府県が定める指定医療機関でしか利用できない」「1年ごとに更新が必要」といった点に注意が必要です。

ひとりで抱え込まず医療機関や支援制度の利用も検討してみよう

緘黙とは話ができる能力があるにもかかわらず、話せなくなってしまう症状のことです。すべての場面で話せない症状を全緘黙、職場や学校など特定の場面だけ話せなくなってしまう症状を場面緘黙もしくは選択性緘黙といいます。

緘黙は人見知りなど性格によるものと判断してしまうケースがありますが、そうではありません。緘黙は早期に症状に気づき、適切な治療やサポートを受けることが大切です。

緘黙は発達障害者支援法の支援対象で、利用できる国の支援も多くあります。緘黙でお困りの方は、医療機関や支援機関に相談してみましょう。今後の治療や福祉制度の利用について、必要な情報を提供してもらえるでしょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

緘黙は、おそらく多くの人が考える以上に頻度が高いです。特に話す能力はちゃんとあるのに場面、状況によって話すことができない、選択性緘黙はアメリカでは140人に1人と言われています。ただ、正直治療という面は難しい。専門家も少ないことを考えると、長く付き合う必要はあります。それでも特定状況が不安になるからこそ緘黙の状態になるという理解があり、そういう意味では本人が(話さないでも)安心できる環境構築が大事になります。You Tubeに投稿されていたある体験者(アメリカ人)の動画によると、「物理的(肉体的)に声が出ないような感覚」があったそうです。明らかに何らかの神経学的な現象が脳内には起きており、決して「気持ち的に頑張る」だけではどこでも話せるようにならないのは明らかです。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。



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