障害者の雇用促進を目的につくられた「特例子会社」制度は、障害者が就職する際に多くのメリットがあります。現在、一般企業で働くのがむずかしいため、特例子会社への就職を検討している方や、そのご家族の方もいるのではないでしょうか。
本記事は、障害者の視点から、特例子会社とは何かを紹介した上で、企業数や働いている障害者の人数、メリット・デメリット、実際の転職事例などを解説します。新たな一歩を踏み出すためのヒントにしてください。
特例子会社とは?
特例子会社とは、厚生労働省から認定を受けて、障害者の雇用数を親会社の雇用数と通算できる子会社です。企業側のメリットとしては、以下が挙げられます
- 企業に義務付けられている障害者雇用率(2024年4月〜2026年6月まで度より2.5%、2026年7月以降度より2.7%2023年度は2.3%)を達成しやすくなる
- 障害者向けの施設や支援体制が充実した会社を設立・運営して、人材を定着させやすい
「特例子会社」制度は、軽度身体障害者の雇用しか進まない現状を変えるためにつくられました。配慮が手厚くない仕事環境では、どうしても重度の身体障害や知的障害の人の雇用がむずかしい面がありますが、特例子会社ならば受け入れやすくなるからです。
つまり、障害者にとっては次のメリットがあります。
- 雇用機会が増える
- 働きやすい環境が提供される
「特例子会社」制度は、当初、知的障害の雇用に活用されるケースが多かったですが、現在は発達障害*を含めた精神障害者の雇用をメインにしている企業も増えています。
制度に対しては、「親会社で雇用されにくくなる」「障害者を隔離しようとしている」などの批判もあります。しかし、自分に合った仕事を探している障害者が、障害の種類や程度に関係なく、広く利用できる制度であることも確かです。
特例子会社の認定要件
特例子会社になるためには、指定の要件を満たして厚生労働大臣から認定を受ける必要があります。具体的な要件は、以下の表の通りです。
親会社側 | 子会社側 | |
要件 | ・当該子会社の意思決定期間(株主総会など)を支配していること | ・親会社との人的関係が緊密であること・雇用される障害者が5人以上、全従業員に占める割合が20%以上・雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者および精神障害者の割合が30%以上・障害者の雇用管理を適正に行う能力を有している・その他、障害者の雇用の促進および安定が確実に達成されると認められる |
親会社、子会社ともに上記の要件を満たした場合、特例子会社となることができます。
特例子会社と一般企業の障害者雇用の違い
特例子会社での雇用は、一般企業の特例子会社と比べて、障害者向けの施設や支援体制が充実しているのが特徴です。一概には言えませんが、身体障害者向けのバリアフリー環境が整っていたり、精神障害者に配慮した業務内容やサポート体制などが整っていたりするケースが多くみられます。
この背景には、特例子会社の認定条件に、次の要件があるからです。
- 雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上
- 雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上
- 障害者の雇用管理を適正に行える(障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置など)
つまり特例子会社では、「自分と似たような障害を持った人たちが多くおり、サポートや配慮の行き届いた職場で働ける」可能性が、一般企業の障害者雇用より高いといえるのです。その反面、「特別扱いしてほしくない」といった人には向かない可能性があります。
なお、特例子会社での就業は障害者雇用の一つですので、事業主と従業員の契約上の違いはありません。
特例子会社はどれくらいある?
2024年6月1日時点で、全国の特例子会社は614社に達しています。これは前年の598社から16社増加しており、年々増加傾向にあります。また、特例子会社で雇用されている障害者数は50,290.5人で、前年の46,848.0人から約3,400人増加しました。
このように、特例子会社の数と雇用されている障害者数はともに増加しており、障害者の雇用拡大において特例子会社が重要な役割を果たしていることがうかがえます。
特例子会社で働いている人はどんな人?
特例子会社で働いている人は、どのような人なのでしょうか。厚生労働省が公表した「令和64年 障害者雇用状況の集計結果」のデータをみてみましょう。
全国614579社の特例子会社の雇用状況は以下のようになっています。
重度身体障害者及び重度知的障害者 | 11,673人 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者である短時間労働者 | 825人 |
重度以外の身体障害者、知的障害者および精神障害者 | 25,940人 |
重度以外の身体障害者および知的障害者である短時間労働者 | 257人 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者である特定短時間労働者 | 102人 |
重度身体障害者、および重度知的障害者および精神障害者 | フルタイム | 1万891人 |
短時間労働 | 185人 | |
重度以外の身体障害者、重度知的障害者、精神障害者 | フルタイム | 2万1,699人 |
短時間労働 | 382人 |
この結果をみると、短時間労働者は少なく、フルタイムで働く人が多いことがわかります。また、重度以外の身体障害者、重度知的障害者、精神障害者のフルタイム労働者の割合が最も多くなっています。例えば、発達障害が原因で一般企業での仕事が長続きしないような方は、こちらの区分に入る働き方になる場合が多いでしょう。
特例子会社の業務内容と給料の傾向
特例子会社で働くとなると、「特殊な仕事になるのではないか」「給与が安くなるのではないか」など、いろいろな不安があるかもしれません。
そこで、野村総合研究所が2018年におこなった「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」の内容をもとに、特例子会社の業務内容と給料の傾向を解説します。
業務内容
特例子会社に対して、障害者の業務内容を聞いた結果をまとめたのが以下の表です。なお、アンケートは複数回答可能ですので、同じ会社で複数の業務が用意されている場合があります。
種類 | 回答率 |
事務補助 | 79.1% |
清掃、管理 | 50% |
その他(検品、梱包、商品陳列、倉庫管理、電話受付など) | 30.1% |
製造(機械、食品など) | 23.5% |
物流 | 20.4% |
サービス | 16.8% |
情報システム | 15.8% |
クリーニング | 14.3% |
福祉、医療 | 12.2% |
農業 | 1.0% |
出典:野村総合研究所「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」
このように特例子会社であっても、幅広い業務があることがわかります。自分の障害の特性に合った仕事を選択できるでしょう。なお、「その他」の種類では、さまざまな業務がありますが、全体的な傾向としては作業手順や流れが決まっている軽作業、定型業務が多いといえます。
給料
続いて給与面をみていきましょう。給与ごとの労働者の割合を以下に示します。
給与 | 全体に占める割合 |
101万~150万円 | 19.7% |
151万~200万円 | 33.8% |
201万~250万円 | 26.3% |
251万~300万円 | 10.6% |
301万~350万円 | 6.1% |
351万~400万円 | 2.0% |
401万~450万円 | 0.5% |
450万~500万円 | 0.0% |
500万円~ | 0.5% |
出典:野村総合研究所「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」
障害者の場合、担当できる仕事が限られることもあり、一般の平均給与と比べると少ない傾向にあります。しかし、例えば、高い知性を持った発達障害の方が、自身の能力を生かせる職種に就き、満足できる給与をもらっているケースもめずらしくありません。こうした成功事例については、後ほど紹介します。
特例子会社で働くメリット
障害者からみると、特例子会社は柔軟な働き方ができ、職場環境や支援制度が整っているのがメリットです。現在、「障害者へのサポートがある会社に転職したい」「働いた経験がなく、一般企業に就職するのに不安がある」などと考えている人にとって、特例子会社は選択肢の一つとなるでしょう。それでは、各メリットについて解説します。
柔軟な働き方ができる
特例子会社の多くは、障害者の特性に合わせて、柔軟な働き方を認めています。事業主には従業員に対する就労の「安全義務」がありますので、障害者の身体的、精神的負担が大きくなり、健康を害するようなことがあってはなりません。
そのため、例えば精神的に不安定な人のために、小まめな休憩が認められている事業所があります。また、コミュニケーションに問題がある人のために一人でできる業務を割り振ってくれたりするなど、柔軟な対応をしている企業もあります。
近年増えているのは、テレワークによる就業です。障害者のなかには通勤、出社が困難な人も多いため、テレワークによる在宅勤務が向いています。また、障害者が短時間労働やフレックス制度(労働時間を自分で決められる制度)など、自分に合った働き方を選べる企業も多くあります。
職場環境や支援制度が整っている
障害者が快適に働ける職場環境と、手厚い支援制度が整っているケースが多いのも、特例子会社のメリットです。先に紹介した柔軟な働き方や、テレワークによる在宅勤務などはその一つです。
また、障害者に対する施策を強化している企業も少なくありません。例えば、メンタルヘルスに強い産業医が常駐している企業があります。また、マネジメント層に対して、障害の知識やコミュニケーションの仕方などを研修して、障害者がストレスなく働けるように配慮しているところも少なくありません。
こうしたサポートは、一般企業ではやりたくてもできない面があります。もし周りの人の助けなしでは快適に働くのがむずかしいようでしたら、サポートが充実している特例子会社を探してみるのもよい方法です。前もって症状や自身の希望などを伝えておくと、働きやすい環境を整えてくれる場合もあります。
業務内容や環境に変化が少ない
特例子会社では、担当業務や所属するチーム、上司などの変化があまりありません。そのため、日々の仕事の内容や職場の環境に大きな変化が生じにくく、安定した環境で働きたい人にとっては大きなメリットとなります。
特に、変化への対応が苦手な傾向のある発達障害の方にとっては、職場環境が安定していて働きやすいでしょう。また、業務がルーティン化しやすい点も、落ち着いて仕事に取り組めるポイントのひとつです。
特例子会社で働くデメリット際の注意点
特例子会社で働こうと考えたときに問題になりやすいのは、就職先の少なさです。先に紹介したように、特例子会社は数が限られる全国に579社しかないため、通勤エリア内にあるとは限りません。また、みつかったとしても、希望の仕事でない場合もあるでしょう。
したがって、ハローワークや一般的な就活サイト、転職エージェントなどで探そうとすると、希望の仕事がみつけにくい面があります。このため、国の障害者支援機関や、障害者に特化した就活サービスなどの利用も検討するとよいでしょう。
就業後の注意点としては、定型的な業務が多くスキルアップがむずかしくなる可能性が挙げられます。また、定型的な業務では給与が安いのが一般的ですので、転職によって収入が減る可能性もあります。
また、「特例子会社で働いていると、障害者であることが周囲に知られてしまうのではないか」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし実際には、社名を聞いただけでそれが特例子会社だと気づく人は多くありませんし、特例子会社には障害者だけでなく、支援員や管理職などさまざまな立場の人が働いています。
そのため、特例子会社で働いているというだけで、周囲から障害者であると決めつけられることは少ないでしょう。
特例子会社で働かれている方の事例
ここまで特例子会社で働くメリット、デメリットについて紹介してきました。しかし、どうしたら自分に合った特例子会社を探せるのか、具体的なイメージがつかめない方もいることでしょう。そこで、発達障害の方が自分に合った仕事をみつけた事例を2つ紹介します。
ADHDの診断を受けたKさんがフルリモート・フルフレックスで日揮グループのシステム開発を担当するまで
ADHDとASDの診断を受けているKさんは、関心のある事柄に徹底的にのめり込む特性を持っていました。大学時代はネット依存で生活が荒れ、大学院に進学後は文学の研究者の道を志すも挫折したといいます。「本当にやりたいことは何か」と考えたとき、思い浮かんだのは10年弱の経験を持つプログラミングでした。
Kさんがチャレンジしたのは、日揮グループの特例子会社で実施していた、システム開発部門のインターン(企業内で就業体験ができるプログラム)でした。しかし、そこでも「完璧主義の暴走状態」となってしまい、インターンにもかかわらずスケジュールを無視して業務にのめり込んでしまいます。まさにADHDとASDの凸凹がはっきり出た形でした。
それにもかかわらず、日揮はKさんを高く評価して採用しました。なぜなら日揮には、重要度が高いけれども緊急度の低い開発案件が多くあり、これらがKさんの完璧主義と並外れた集中力にマッチしたからです。現在Kさんは、高度な専門知識と技術、そしてADHD、ASDならではの長所を生かして、事業に貢献し続けています。
関連記事:博士課程を中退し29歳でたどり着いた「好きを仕事に」。ADHDの診断を受けたKさんがフルリモート・フルフレックスで日揮グループのシステム開発を担当するまで
グレーゾーン診断を受け止めて。デザイナー職で極めるプロの道
雑誌編集者だった西村さんは、それ以前にも数社の職歴があり、周囲からは「何でもそつなくこなす人」とみられていたそうです。しかし、一度アイデアが浮かぶと収集が付かなくなり、注意力が散漫になったり、眠れなくなったりしていました。結局、疲労と苦しさがたまり、数年で退社することを繰り返していたといいます。
医師の診察を受けた結果、不注意優勢型ADHDのグレーゾーンであるとわかりました。これからは「細く長く働きたい」と考えた西村さんは、迷った末に障害者枠での転職を決意。転職先はDTPデザインを手掛ける特例子会社のオペレータ職でした。
入社4年目からは、同じ発達障害のメンバー6人をまとめるDTPチームのリーダー職として活躍しています。今までの職場環境と違い、障害をオープンにして無理なく、やりがいを持って働けているということです。
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自分にあった働き方を検討してみよう
特例子会社の制度は、障害者の立場からみると、就業チャンスが増え、手厚いサポートがある環境で働けることがメリットです。現在、一般企業での仕事に不安を持っている方や、現在の仕事に大きなストレスを抱えている方などは、特例子会社への就職を検討してみるとよいかもしれません。
ただ、特例子会社の数は少ないため、希望の仕事をみつけるのが大変な面があります。国や民間企業による障害者向け就活支援サービスを活用するなどして、自分に合った仕事を探していくとよいでしょう。
就労に関する不安や悩みがある場合は、就労支援を行っている障害福祉サービスの利用がおすすめです。例えば、一般企業への就職を目指す「就労移行支援」や、生活リズムの安定を図りながら将来の就職を見据える「自立訓練(生活訓練)」といったサービスがあります。
発達障害のある方に特化した支援を行っているKaienでは、就労移行支援や自立訓練を通じて、一人ひとりの特性や希望に応じたサポートを提供しています。見学・個別相談会も実施しているので、「自分に合った職場を見つけたい」「就職のために何から始めればいいかわからない」と感じている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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