学習障害*¹(LD)とは、読み書きや計算といった特定の学習領域で困難が見られる症状のことを指します。「学習」という言葉がつくため、学習障害は学校などの学びの場で困難が生じると想像されがちです。しかし学習障害は、日常生活や仕事など、さまざまな場面で支障をきたします。
今回は、学習障害の特徴や、仕事で起こりがちな困りごと、学習障害の特性に対する対処法などを解説します。学習障害の方が利用できる支援機関も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
学習障害(LD)とは?
「学習障害(LD)」とは発達障害*²の1つで、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に関する基礎的な技能に困難が見られる症状を指します。学習障害は、学習における困難が知的障害や聴覚・視覚障害、情緒障害といった環境的な要因によるものでない点が特徴です。文部科学省は、学習障害のある生徒に対して、障害の程度に応じた教育的対応を行うよう学校現場に指導しています。
一般的に学習障害は、学校教育が始まる就学期に判明する場合が多いです。しかし、学習という特定の分野以外は特に発達に遅れが見られないため、学習における困難を「勉強不足」や「努力不足」などと勘違いされてしまうケースも少なくありません。
限局性学習症(SLD)との違い
学習障害(LD)と混同されやすいものに、「限局性学習症(SLD)」があります。
学習障害は文部科学省が定義する症状の名称で、限局性学習症(SLD)は、アメリカ精神医学会のDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)に基づく医学的な診断名です。学習に関する技能で困難が見られるという基本的な面は共通していますが、対象範囲が少々異なります。
たとえば、学習障害は「話す」「聞く」といった能力も学習困難の対象に入ります。対して、限局性学習症にはこの2つは含まれず、「読むこと」「書くこと」「算数・数学に関すること」の3つの分野に対象がフォーカスされ、より細分化されています。
学習障害(LD)の方が読み書きや計算が苦手な理由
文字を読んだり書いたり、数字を計算したりする時、人間の脳はさまざまな働きをします。
たとえば文章を読む場合、まず文字を認識し、その文字列を単語として認識することで意味を把握します。そして単語の連続を文と理解し、文の連続を文章として認識し理解することで、書かれている全体の内容がわかる、といった一連のプロセスが無意識下で進行します。
学習障害の方は先天的な脳機能の偏りにより、こうしたプロセスが正常に踏まれず、困難が生じてしまうのです。文字や文字列の認識が難しい場合は読字、文章や書かれている内容の認識が難しい場合は読解というように、プロセスのどの段階で困難が生じるかによって、学習障害はいくつかのパターンに分類されます。
学習障害(LD)の特徴
学習障害には、困難が生じる領域によって、以下の3つの種類に分けられます。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 書字障害(ディスグラフィア)
- 算数障害(ディスカリキュリア)
たとえば、先ほど触れた「読むこと」に関する困難は、上記の読字障害(ディスレクシア)に関連します。それぞれの障害について詳しく見ていきましょう。
読字障害(ディスレクシア)
「読字障害(ディスレクシア)」とは学習障害の一種で、文字を正確に読んだりスムーズに読んだりすることに困難がある症状を指します。具体的には、以下のような症状が挙げられます。
- 文字と音が紐づかない
- 文字を1つ1つ拾って読んでしまう
- 個々の文字は理解できても単語として認識できない
- 文字が反転して鏡文字のように見える
- 行を飛ばしたり、順番を入れ替えたりして読んでしまう
- 黙読が苦手(またはできない)
読字障害の方は、後述する「書字障害(ディスグラフィア)」を併発しているパターンが多く、読み書き両方に困難を抱えるケースも少なくありません。
読字障害と混同されやすい症状に「失読症」があります。読字障害が先天的な症状なのに対し、失読症は後天的な脳の損傷によって起きる高次脳機能障害の1つです。読字障害と失読症は治療法や対処法が似ていますが、根本の原因が異なる点に留意しましょう。
書字障害(ディスグラフィア)
「書字障害(ディスグラフィア)」は、文字や文章を書く際に時間がかかったり、正確に書けなかったりする学習障害です。先述のとおり、書字障害は読字障害を併発しているケースが多く見られます。
書字障害には、主に以下のような症状があります。
- 言葉とその意味を理解していても、文字を正確に書けない
- 形の似ている文字を書き分けられない
- バラバラでバランスの悪い文字を書く
- 鏡文字を書いてしまう
- 文字の書き順を覚えるのが難しい
- 文法を覚えたり長い文章を書いたりするのが困難
書字障害の主なパターンとして、文字の位置や形が認識しづらい、文字と音の対応を理解しづらい、手先をコントロールして文字を書くことが難しいといったものが挙げられます。ただし、こうしたパターンの現れやすさには個人差があります。
算数障害(ディスカリキュリア)
「算数障害(ディスカリキュア)」とは、数の概念を理解しづらい、計算が難しい、数や量の推論が困難といった症状がある学習障害です。お金の計算ができない、時計の読み方がわからないなど、日常生活にも支障が生じる点が特徴です。
算数障害の具体例として、以下が挙げられます。
- 数や記号を理解しづらい
- 繰り上げや繰り下げなど、簡単な計算ができない
- 図形やグラフを認識しづらい
- 数の大小の区別がつきにくい
- 九九が覚えられない
算数障害も症状には個人差があります。小学校では問題がなくても中学校にあがり、内容が難しくなってから困難を抱え、障害が判明するケースも少なくありません。
学習障害(LD)の方に多い仕事での困りごと
読み書きや計算に困難が生じる学習障害は、学校などの学習の場だけでなく、仕事においてもさまざま困りごとが起こりやすいです。
学習障害の方に多く見られる仕事での困りごとの具体例を以下にまとめました。
- 資料や長文のメールの読解や作成が難しい
- 文章での指示を理解しづらく、ミスを繰り返す
- マニュアルを読むのに時間がかかる
- 会議や研修でメモを取ることが難しい
- 数字や計算が苦手で発注書や見積書の作成ができない
- 表やグラフの内容をうまく理解できない
- 数字を扱う作業に強いプレッシャーを感じる
職場環境や業務内容によって、上記のような困りごとの程度は異なります。就職や転職活動をする際は、苦手な分野を避け、自分の特性に合った職種を探すようにすると、困りごとを軽減できるでしょう。
学習障害(LD)の方の仕事に関する対処法
学習障害の方が職場で実践できる対処法を、以下の順に解説します。
- 読み書きが苦手な場合の対処法
- 計算が苦手な場合の対処法
具体的な対処方法について、1つずつ見ていきましょう。
読み書きが苦手な場合の対処法
読字障害(ディスレクシア)の方の場合、以下のような対処法が挙げられます。
- 読んだ部分に蛍光ペンなどで色を引いていく(リーディングルーラー等の活用)
- ブックスキャナーや読み上げソフトを活用する
- 文章でなく口頭で指示してもらう
- ユニバーサルデザイン書体など、読みやすいフォントに変更する
- 文書やメモに図解や表を使用して視覚的に理解する
発達障害の1つのADHD(注意欠如多動症)を併発していて長文読解の集中力が続かない場合は、雑音を発生させるデバイスであるホワイトノイズマシンの活用もおすすめです。
一方、書字障害(ディスグラフィア)の方が職場で実践できる対処法として以下があります。
- 音声入力ソフトを利用する
- 会議などで板書された内容をカメラで撮影する
- メモの代わりにボイスレコーダーやアプリで録音する
- マインドマップやコンセプトマップを活用し、視覚的に文章のアイデアを把握する
ただし録音や録画をする場合は、あらかじめ許可をとり、一言断わりを入れてから行うようにしましょう。
計算が苦手な場合の対処法
数・量の認識や計算が苦手な算数障害(ディスカリキュア)の方の場合、以下のような対処法の実践がおすすめです。
- 計算ソフトを活用し、関数の入力で計算ができる環境を整える
- 機械的に計算できるよう自分用のマニュアルを作成する
- タスク管理アプリやリマインダー機能を使用する
- AIなどテクノロジーの力を活用する
- やり方を上司や同僚などに聞く
上記以外にも、見積書や発注書の作成など、数字や計算が多く関わる業務から外してもらう、計算が合っているか上司にこまめに確認するなど、周囲のサポートを得ることも大切です。
学習障害(LD)で職場の配慮を受けたい場合
学習障害による仕事の困難を軽減したい場合は、職場で合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、職場での業務などに困難のある方が困難のない方と同じように社会に参加するために行う、さまざまな配慮や調整を指します。合理的配慮を希望した場合、事業者は症状に応じた調整や配慮を行うことが法律で義務づけられています。
合理的配慮を受ける際に、会社によっては医師による診断や配慮を受ける根拠の説明を求められる場合があります。学習障害の診断は精神科や心療内科といった医療機関で受けられますが、この時注意したいのが、成年期の学習障害の検査の難しさです。
現在、成年向けの学習障害の検査は限られており、また適切な診断が可能な医療機関の数も限られているのが現状です。そのため、大人になってから学習障害の診断を受けるのが難しいケースも少なくありません。もし診断を受ける場合は、学習障害に知見のある専門家が在籍している精神科や心療内科を選ぶようにしましょう。
なお、学習障害の診断について以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
大人の限局性学習症(SLD)とは?特徴や診断方法、対処法を解説
学習障害(LD)の方が利用できる支援機関
学習障害の方が日常生活や仕事での困難を相談する際は、以下のような支援機関の利用がおすすめです。
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 発達障害者支援センター
- 地域障害者職業センター
- 就労移行支援事業所
- 自立訓練(生活訓練)施設
Kaienでは、就労移行支援と自立訓練(生活訓練)などの福祉サービスを行っています。
就労移行支援では、学習障害の方が自分に合った職業を見つけられるよう、独自の適職アセスメントや職業訓練を実施。また、学習障害に理解のある企業の求人を紹介し、配慮を受けやすい環境への就職をサポートします。
自立訓練(生活訓練)では、社会スキルの取得や特性を理解するための講座の受講、そして学習障害の方の進路選択の支援などを通して、より自立した生活の実現を目指します。
Kaienでは、就労移行支援と自立訓練(生活訓練)の無料見学会・体験利用を随時実施しています。気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。
学習障害(LD)の特徴に合わせた対策で働きやすい環境に
発達障害の1つである学習障害(LD)は、読字障害(ディスレクシア)、書字障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュア)など、困難の特徴によってさらに種類がわかれます。職場での困りごとを軽減するには、合理的配慮を求めたり、仕事における対処法を身に付けることが大切です。
Kaienでは、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)を通して、学習障害の方の働きやすい環境づくりをサポートします。興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
*1学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます。
*2発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。