インチュニブってどんな薬ですか?

第3のADHD治療薬を図表を交えて解説します
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 インチュニブは、コンサータ、ストラテラに続く日本では3つ目のADHD(注意欠如多動症)のお薬です。2017年3月に認可され、6歳以上18歳未満への処方が認められました。先行する薬の例からも今後成人への処方が認められる可能性もあります。※2019年6月追記 18歳以上への処方も認められました。

 ここではコンサータ、ストラテラとの比較も含めて、インチュニブの特徴をご紹介します。

オン/オフ はっきりコンサータ マイルドな効き目のストラテラ

 まず先行する二つのお薬の解説です。

 コンサータはかつてADHDにも処方されていたリタリンと同じメチルフェニデート塩酸塩の徐放(薬物を徐々に放出するように工夫を施した薬剤)錠で、中枢刺激薬です。ADHDの不注意、多動、衝動性の全ての特性に効果が期待され、3つの中では服用後すぐに効き、効果も最も強いと言われています。一方で精神的依存のリスクや耐性、睡眠障害や食欲不振といった副作用もあります。

 ストラテラは中枢刺激薬ではありません。コンサータが脳神経のシナプス間のドーパミン濃度を主に高めるのに対し、こちらはアトモキセチン再取込阻害剤(選択的ノルアドレナリン再取込阻害薬)で主にノルアドレナリンの濃度を高めます。依存性や耐性はないと言われています。不注意、多動、衝動性の全ての特性を改善しますが、効果が得られるまで数週間を要し、その後もコンサータほどくっきりとした効果は感じられない方が多いようです。

インチュニブは衝動性・多動性に効果

 そして第3の薬であるインチュニブは、ADHDのなかでも特に多動と衝動性と感情不安定に対する効果が期待できるお薬です。グアンファシン塩酸塩徐放錠(α2Aアドレナリン受容体作動薬:非中枢刺激薬)で、前のふたつとは作用の仕方が大きく異なっています。

 コンサータとストラテラはともにシナプス前(情報伝達物質を放出する側:送信側)のトランスポーター(再取込口)の穴を塞ぐカタチで、情報伝達物質が後シナプスの受容体に結合する前や、すぐに回収されてしまうのを防ぐことで、シナプス間の情報伝達物質の濃度を高めて作用します。

 これに対して、インチュニブは後シナプス(情報伝達物質を受け取る側:受信側)のα2Aアドレナリン受容体に結合することで、情報伝達物質の情報伝達効率を高め、機能不全を起こしている脳の状態をよい方向に調整します。

 もともとインチュニブの成分であるグアンファシンは高血圧の薬として開発されました。交感神経の働きを抑えて神経の緊張を取り去る働きもあります。こうした特性から、ADHDとチックや反抗挑戦障害を併発していたり、衝動性の問題が目立つ人には特に効果が期待されています。

 実際、3つのADHD薬をいずれも処方する医師にお話を聞いた所「インチュニブは鎮静効果がある。でも不注意には効かないようだ。」とおっしゃっていました。

図表で比較 コンサータ・ストラテラ・インチュニブ

 コンサータはヤンセンファーマ、ストラテラはイーライリリー、そしてインチュニブは現在、武田製薬が販売しています。それぞれの特徴を図表で確認します。

服用に際する注意

 次にインチュニブの注意点です。まず成分に過敏症があったり、妊婦または妊娠の可能性のある人や、房室ブロック(第2、第3度)のある人は服用できません。

 併用を禁止された薬はありませんが、CYP3A4/5阻害剤と呼ばれる薬剤と併用すると、薬の代謝が進まずインチュニブの血中濃度が上がり副作用が増強され、逆にCYP3A4/5誘導剤と併用すると、インチュニブの血中濃度が下がり作用を弱めます。身近なところではグレープフルーツジュースはCYP3A4/5を阻害しインチュニブの副作用を増強し、一方セントジョーンズワートには作用を弱めるCYP3A4/5誘導効果があることも知っておきましょう。他にもアルコールには増強作用、バルプロ酸はそれ自体の血中濃度上昇、中枢神経抑制剤(催眠剤、抗精神薬他)には作用増強がインチュニブとの併用で認められ、特に降圧作用のある薬剤や心拍作用を減少させる薬剤には、相互の作用増強や失神の恐れがあるため、こうした薬剤との併用の可能性がある場合の服用に関しては、よく医師と相談して下さい。

 副作用に関しては、当社の放課後等デイサービス・TEENSでインチュニブを服用しているお子さんの例でも、やはり眠くなることが一番多いようで、他に血圧降下もよく起こります。2019年6月から18才以上に対する処方が始まっていますが、大人への副作用も同様と考えて良いでしょう。

【参考】ADHDのお薬 薬の種類の解説や服用方法
【参考】発達障害と薬の付き合い方
【参考】コンサータとストラテラ 効き具合・副作用他

まとめ

 いずれにしてもADHDの特性や困難を緩和するために最初に行われるべきなのは、集中できる環境を作ることと、特性による困りごとに対処する方法を学ぶことです。お薬はそうした試みを補い二次障害のリスクを下げ、生活の質を高めるためのあくまで「助け」であり、選択肢のひとつとして考えるといいでしょう。服用を始めた後も効果と副作用のバランスを意識し、日常生活や学校、職場での特性による困難が緩和したと感じたら、医師に減薬や断薬の相談をすることも重要です。


監修者コメント

実はADHD特性による困りごとに対する治療効果という点では、抗ADHD薬はどの薬も効果が非常に高いという特徴があります。ただし、それぞれに特徴的な副作用がありますからそこに注意して服薬する必要があるのは本文のとおりです。さて、インチュニブですが、臨床医の実感としては非常に効果が高く感じられます。とりわけ、衝動の高さに悩む方や、感情的に不安定さを持っている方の場合、落ち着き感が見られることが多いです。これはインチュニブが、ネガティブな感情を起こさせる扁桃体という脳組織の興奮を抑える方向に働くからでもあります。眠気の副作用も、ずっと続くというよりは服薬開始数日が最も強くて、しばらくすると感じなくなる方も多いので、効果に期待したいときにはすぐに諦めず、主治医と相談してみてください。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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