発達障害*¹のある方が仕事をする上で、「目の前の作業に集中できない」「同僚や上司との意思疎通が取りにくい」など、困りごとが見られる傾向にあります。
本人がまずは得意・不得意を把握し、向いている仕事に就くこととともに、周囲が適切なフォローを行うことで、働きやすい状況で能力を発揮できる可能性が高まります。
本記事では、発達障害の分類とそれぞれのタイプに向いている仕事、就労に関する相談先ついて解説します。
また、発達障害の方が「職場で上手に働くためのノウハウ」を、当サイトの記事から厳選して紹介していますので、就職活動や職場での対策を知りたい方はぜひ参考にしてください。
発達障害の分類
まずはじめに、発達障害の分類である「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如・多動症)」「LD(学習障害*²)」の3つについて、概要や特徴をおおまかに解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)とは、独特のこだわりや社会でのコミュニケーションの難しさといった特性が目立ちやすい障害です。
話している相手の表情や言葉のニュアンスから気持ちを汲み取ることや、自分の考えをうまく伝えることを苦手に感じやすく、学校や職場などさまざまな場面で人とのコミュニケーションに困難を生じることが多くあります。
また、興味や関心が狭い範囲に限られ、こだわりの強い行動が見られやすい点も特徴です。
加えて、五感などの感覚が人より敏感か、反対にほとんど感じない分野があるなど、感覚過敏の傾向がある方もいます。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)は、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性により、日常生活に困難を来たしやすい傾向があります。1つのことに注意を持続させることが難しい、落ち着きがない、話している人を遮ってしゃべり出してしまう、などの特徴が多く見られます。
ADHDは、ケアレスミスや忘れ物の頻度が高い「不注意優勢型」と、落ち着きがなく衝動的な言動が多い「多動・衝動優勢型」、その両方の特徴を持つ「混合型」の3タイプに分けられます。
LD(学習障害)
LD(学習障害)とは、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する発達障害の1つです。知的障害と異なり、全体的な理解力などに遅れはないものの、「読み・書き・算数(計算)」といった特定の学習に困難が見られます。
LDは、単純に「国語の成績が悪い」「数学が苦手」といったものではなく、聴覚的・視覚的な短期記憶や処理能力など、認知能力における凸凹があり、結果的に「読み・書き・算数(計算)」の苦手さや不得意として現われているとされています。
発達障害の方の仕事の悩み
発達障害の種類により、仕事で出くわす困りごとや戸惑いごとは異なります。ここでは、先に挙げた3種類の発達障害について、それぞれでよくある悩みごとを紹介します。
ASDの方のよくある悩み
ASDの方が、職場の人間関係や仕事内容で感じやすい悩みとして、以下が挙げられます。
- 相手の気持ちを汲み取ることや空気感を読み取ることが苦手で、コミュニケーションや意思疎通がうまくいかない
- 計画外のスケジュールに対する突発的な対応や、臨機応変な立ち回りが難しい
- ルール変更があると混乱してしまい、対処しにくい
- 職場の人との雑談が苦手で、人との距離が縮まりにくく、疎外感を感じやすい
- 自分の決めた手順や興味のあることにこだわり続け、変更への対応が難しい
- 曖昧な指示を理解することが苦手
- 感覚過敏により、周囲の人の話し声や蛍光灯の光などに不快感を感じて仕事が手につかない
ADHDの方のよくある悩み
ADHDの方が抱えやすい仕事上の悩みには、不注意に関するものと、多動性や衝動性に関するものがあります。
【不注意に関するもの】
- タスク管理や整理整頓が苦手で、優先順位を沿って作業をすることが難しい
- 一度に複数の業務を並行して行うマルチタスクがうまくできない
- 集中力が途切れやすいため、1つのことをコツコツ続けるような作業は苦手
- 注意力が持続しにくく、ケアレスミスがよく見られる
- 約束や期限を忘れやすく、遅刻や欠勤、忘れ物が多い
【多動性・衝動性に関するもの】
- 会議中にじっと座っていることが苦痛で、そわそわして落ち着かない
- 待つことや、よく考えてから行動することが苦手
- 思ったことをそのまま口に出してしまい、上司や目上の人に失礼になってしまう
- 話題がしばしば飛んでしまう
LDの方のよくある悩み
LDの方によくある困りごととして、以下のようなものがあります。
- マニュアルや会議の書類を読むのに時間がかかる、文章を読み飛ばしてしまう
- 話すときに語尾や文末を間違えやすい
- 会議などでメモを取ることができない
- 誤字脱字や鏡文字になるなど、書き間違いが多い
- 買い物での勘定など、暗算や数を数えることが苦手
- 時計が読めず、時間管理が不得意である
- 聞くことや話すことが苦手
LDの場合、「読む」「書く」「計算」のどの特性が出やすいかによって、困りごとの種類も変わります。
発達障害の方が職場で上手に働くための10のノウハウ
ここからは、発達障害の方が職場で上手に働くためのノウハウを、当サイトの記事からピックアップし、10個に分けて解説します。発達障害のある方本人と周囲の人双方にとって役立つ内容ですので、自分に合った仕事や職場を見つけて快適に働き続けながら、能力を発揮するために参考にしてください。
1. 「自分は発達障害かも?」と思った時に取るべきアクション
仕事がうまくいかない 発達障害かも?と思った時の3つのアクション
慌てる必要はありません。
まずは冷静になって、仕事がうまくいかない原因がどこにあるかをはっきりさせましょう。
そして、その結果に応じた適切な対処を取ればよいのです。
2. 発達障害の方に「向いている仕事」は特性を踏まえると見つけやすい
仕事を探す際は特性を踏まえることで、向いている仕事に出会える可能性が高まります。ここでは、ASD、ADHD、LDのタイプ別に、向いている仕事や得意とする業務内容について解説します。
■ASDの方が向いている仕事
発達障害に向く仕事・働き方 ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害)
ASDの方に向いている仕事の特徴は、以下が挙げられます。
- 他人とのコミュニケーションが少ない
- 規則やマニュアルに沿って進められる
- こだわりや専門性を活かせる
- 臨機応変な対応が少ない
- 1人作業など、マイペースに進めやすい
- 視覚的処理能力を活かしやすい
以上の特徴を踏まえ、ASDの方が持つ特性を強みとして活かせる職業として、以下があります。
- プログラマー・エンジニア
- 研究職
- ライター
- 校閲・校正
- 経理などの専門事務
- 工場などのライン業務
ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)傾向の人は特徴が割合に見えやすく、対策や適職も見つけやすいと言われています。ただし、論理的だからプログラマー、コツコツするのが得意だから職人や公務員、というのはやや強引です。
■ADHDの方が向いている仕事
ADHDのある方に向いている作業や仕事の特徴は、以下の通りです。
- 不注意の特性が強い場合:発想力や独創性を活かせる、慎重さを求められない
- 多動性・衝動性の特性が強い場合:行動力を活かせる、就労時間や業務内容の自由度が高い
上記を踏まえて、ADHDの方は次のような職業に適性がある可能性があります。
- 旅行ジャーナリスト
- 動画制作などものづくりに関わる仕事
- クリエイティブ系
- 調理師・料理人
- Webデザイナー
- インテリアデザイナー
- ゲームプログラマー
- 消防士
ADHD(注意欠如多動症)傾向の場合、適職にはさまざまな可能性があります。発想力や知識への貪欲さなどはほとんどの仕事にでも求められる力だからです。一方でミスや抜け漏れなど苦手な部分については対策が必要です。
■LDの方が向いている仕事
LDのある人に向いている仕事の特徴は、以下のようなものがあります。
- 表計算ソフトや文章校正ツールなど苦手分野をサポートするツールを使用できる
- 苦手や不得意な分野について理解を得られる職場である
- ノルマに追われない
LDの場合、本人が苦手とする部分を補えれば、ほとんど支障なく業務を行えるケースも多いため、仕事内容よりは職場環境や就労条件によって向き不向きが分かれる傾向があります。
例えば、文字を読むことを苦手とする場合は、読み上げツールを使って聞いて理解するといったように、不得意な分野をカバーするためのツールの使用や、周囲の人からの協力を得られる職場が望ましいでしょう。
3. 「一般雇用」と「障害者雇用」の区別を知っておきましょう
障害者雇用が一般雇用と大きく異なる点は様々な配慮が受けられる点。
就業時間の短縮やスライド、通院中抜け、就業時間中の休憩や仮眠、ノイズキャンセリングイヤホンの着用、電話は取らなくていい…といった様々な配慮が明確に得られます。
一方で一般雇用は職種の幅や昇給がメリットです。
4. 「発達障害は障害者手帳が取れない!」は今や昔の話
発達障害の診断だけだと障害者手帳が出ないというのは今や昔の話です。
診断後速やかに障害者手帳を申請する人が増えています。
障害者手帳を取得すると障害者枠で働くという道が選べるようになります。
5. 「やっぱり一般雇用が良い!」そういう人には「定着支援」が鍵
普通級や大学/専門学校など通常の進学をされてきたり、その後もマイナビやリクナビなどの転職サイトを用いるなどして『一般雇用』で就職・転職活動をしてきた方が多く、障害者手帳や『障害者雇用』への抵抗や戸惑いがある方もいるでしょう。
職場でのコミュニケーション(受信・発信)や段取り・計画立てには魔法はありませんが、基本をしっかりと習得し直す効果はその後の定着に無視できない効果を与えるでしょう。
6. 安心してください!「正社員」には多くの人がなれている
一般雇用は中小企業が多いことから正社員が多めですが、定着率は低くなっています。
一方で障害者雇用は正社員の求人は残念ながら少なめです。
とはいえ、入社後数年以内に正社員に登用する会社が増えています。
7. 給与レベルは「IT・デザイン職」が高め!専門的な知識や経験を活かしましょう
発達障害の方の中で最も平均給与が高かった職種は「専門職(IT)」の21.7万円で一般事務を4万円近く上回りました。
次いで機械設計や文書翻訳などが含まれる「専門職(その他)」、財務・総務などの管理系の事務専門職の「専門職(経理等)」と続いています。
8. 仕事を円滑に進めるために上手な「配慮の求め方」を習得しましょう
配慮にはいくつか種類があります。
具体的には「対人面」「体調面」「指示の受け取り面」「責任範囲・業務面」「期待度のコントロール」「作業環境面」などです。
いずれにせよ過去の自分を振り返って、苦手の原因分析が必要です。
配慮の内容・求め方については求職者向けの就労移行支援でアセスメントとアドバイスが受けられます。
9. ADHDの人に多い「ミス」「抜け漏れ」 自己対策していきましょう
不注意や抜け漏れはADHDなど発達障害の傾向がある人にとって生き辛さの根源かもしれません。
なぜミスをしてしまうのか?
抜け漏れはどうしたら防げるのか?
あなたが当てはまるミス・抜け漏れのタイプを5つに分解し、特性も踏まえてアドバイスします。
10. 職業訓練でレベルアップしたい!人材紹介を受けたい!行政のサービスを活用できる
発達障害のある方が仕事に関する支援を受けるために、さまざまな機関が設置されています。スキルアップのための職業訓練や、障害に理解や配慮のある職場の求人紹介など、各施設ごとにサポートが受けられます。
ここでは、発達障害のある方が利用できる支援機関の種類や特徴について紹介します。
■就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障害のある方の就労支援を目的とした障害福祉サービス機関で、民間企業やNPO法人などが運営しています。発達障害を含む障害のある方が企業や公的機関で一般就労ができるよう、職業訓練やインターン実習のあっせんなどを行っています。
求人応募における書類作成や面接対応など、就活中のサポートだに加えて、入社後の相談や職場環境の調整依頼も可能です。また、個人の支援計画に基づいた日常生活における支援も受けられます。
なお、さまざまな分野の専門知識と経験が豊富なスタッフによるKaienの「就労移行支援」サービスもご利用いただけます。
※Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらのサービスの中で、数千人におよぶ支援情報の蓄積を生かし、専門スタッフが皆様の就活をサポートしています。
■ハローワーク
ハローワークは、厚生労働省が運営する職業紹介所です。全国に設置されており、無料で職業紹介や就労支援サービスを受けられます。
ハローワークには、一般の相談窓口とは別に、障害への専門知識を持つ担当者に相談できる「障害者相談窓口」が設置されています。
障害者相談窓口は、発達障害がある方に対する就業サポートを目的としており、障害者手帳がなくても求人情報の提供や就職活動のアドバイス、就職後の継続的な支援などを受けることが可能です。
■発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方やその家族への総合的な支援を目的として開設されています。発達障害の診断を受けている人だけでなく、発達障害の可能性がある場合でも相談が可能です。
発達障害者支援センターは、都道府県知事等が指定する社会福祉法人や特定非営利活動法人などによって運営されており、各都道府県や政令指定都市に施設があります。
いずれも無料で相談を受け付けていますが、サービス内容は施設ごとに異なる場合があるので、利用前に問い合わせておくと良いでしょう。
■障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、発達障害などの障害のある方が就業を希望する場合に、就業や生活の支援を行う機関です。
就労機関や福祉機関と連携した幅広いサービスを提供しており、求人応募や就業前後のサポート、生活習慣や日常生活のアドバイスなどが受けられます。
発達障害の診断を受けている方だけでなく、障害者手帳を持っていない方でも利用できる場合があります。センターの利用料は無料ですが、利用時に登録が必要です。
■地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害のある方に対する専門的な職業リハビリテーションサービスを提供する施設です。各都道府県に1か所以上設置されており、無料で利用できます。
本人の就職の希望などをヒアリングし、職業能力の評価を元にした就職支援内容や、個別の職業リハビリテーション計画の考案などを行っています。また、職場にスムーズに適応できるよう、ジョブコーチの派遣など本人や事業主に対する特性を踏まえた支援も実施しています。
■地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)は、就労に関する悩みを抱える15~49歳までの方を対象に、就労支援を行う機関です。
障害のあるなしに関わらず、一般的に働くことに悩みを抱える若年無業者に対して、サポートを提供し、職業的自立を促すことを目的としています。キャリアコンサルタントや臨床心理士、産業カウンセラーといった専門家への面談を通して、必要な支援内容を決定し、きめ細やかなサポートが受けられます。
具体的には、ビジネスマナー講座や就活セミナー、ジョブトレ(就業体験)、コミュニケーション講座などに参加できます。
特性の理解とともに行政サービスの利用も検討してみよう
発達障害のある方が、自分に合った仕事に就くには、自分の特性や症状をよく理解することが重要です。発達障害の3タイプは、それぞれ得意なことや苦手なことが大きく異なり、特性を活かせる仕事や職場を見つけることで持っている能力を発揮できる可能性が高まるでしょう。
とはいえ、障害の特性や症状は併存するケースもあるため、個別に必要なサポートを受けることを検討する必要があります。また、職場や周囲の人の配慮や協力も、障害のある方が働き続ける上で不可欠といえます。
発達障害でお悩みの方に向けたさまざまな就労支援サービスを提供する機関や施設も全国に開設されているので、利用を検討してみましょう。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
発達障害特性を持った方の職業選び、まさにKaienさんのような就労移行支援事業所がその支援に活躍してくださっている分野ですね。外来で当事者の方と会っていると、特性と能力がその方のやりたい仕事にマッチして能力を発揮されている方に出会います。この記事を読んでいる方が、適切な支援や助力を得て自分にとって心地よい職場を選べることを心から願っています。
ところで、一般に各特性に基づいて向いていると考えられる仕事が本文に挙げられていますが、絶対そうというわけではないですね。1つの職場で長く続けられるためにはモチベーションを維持できることも大事です。そういう意味では、自分がやりたい仕事がある、というときには、向いているとされている仕事とは違っても是非相談してみてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます