介護業界で発達障害の人が働くには?

福祉職員向けの発達障害研修で感じたこと
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Kaien就労事業部の大野です。本日は、茨城県社会福祉協議会さまにご依頼をいただき表題の研修講師を務めさせていただきました。午前は発達障害*の基礎知識とコミュニケーション手法についての座学。午後はグループで発達障害のある方とのコミュニケーションをロープレするなどのワークショップを実施。たっぷり6時間の持ち時間を頂戴し、盛りだくさんなプログラムをファシリテーションさせていただきました。

研修のお題は「大人の発達障害って?仕事仲間としてできること」。福祉や保育の現場で働く職員の皆様が、発達障害あるいはグレーゾーンの方々と一緒に働くうえで必要な知識やスキルの習得が目的です。福祉職に従事する皆様にはとてもご関心の高いテーマだったようで、定員100名が満席となる大規模な研修となりました。

発達障害がある方が福祉業界で働く理由

日々の支援や相談を通じて介護職や保育士などの職場で勤務したがなかなかうまく働けず、離職してしまった、ということを私も頻繁に当事者の方から伺います。他の業界に比べて多いか少ないかはわかりませんが、発達障害のある方が福祉業界で働く理由については、いくつか想像が出来ます。

ひとつは、発達障害のある方は比較的仕事に対して真面目な気持ちを持っている人が多く、「人や社会の役に立ちたい」という純粋な気持ちで介護職や保育の仕事に就いている方が多い印象があります。もう一つは、やはり就職活動に苦手意識がある方が多く、どうしても人気の高い仕事に就くことが叶わない。そのため人手不足の業界(つまり就職しやすい)で活路を見出す、ということも背景もあるのではないかなと思います。

今後労働人口は減少していき、高齢者の方は増えていきます。介護職の担い手をどう増やしていけるかは、福祉の大きな課題のひとつだと考えます。凸凹がある方々を福祉の領域でどう活かしていくか、というテーマは業界全体の課題につながる意義のある研修だと感じました。

優しい人が多い福祉業界で起こるパラドックス

質疑応答やワークショップを通じて、参加者皆様の職場での状況を具体的にたくさん伺いました。全体的に感じた傾向は福祉領域で働く職員の皆様がとても優しいな、ということ。そして、その周囲の優しさがご本人や周囲が結果的に苦しんでしまう原因の一つになっているのではないだろうか、ということです。

例えば、ミスをたくさんしてしまう人がいる。その都度ミスを指摘しては本人を傷つけてしまう。だから本人が気付かないようにこっそりカバーする。仕事が遅いからその人の分まで残業などで肩代わりする。本人も上手に働けなくて苦しいのでしょうが、それ以上に周囲の職員の方が苦しんでいる様子がお話から伺えました。出来ていないことをその場でまっすぐ伝えないと、本人は気付かないまま周囲の困り度合いが高まるばかりです。これではいずれ何らかの形で破たんしてしまうのは明らかです。

共に働く先輩や上司は、ご本人への気持ちの寄り添いや共感は気持ちの奥に一度しまっておく。そして課題や改善点をその場その場でまっすぐ、ご本人に伝えることが出来ているかどうかが大きなポイントになっているように感じました。前述した通り、純粋に福祉の業界で人のために働きたいという志を持っている相手です。まっすぐな指摘を前向きに受け止めてくれるだろうと相手を信じて、厳しいことも伝えきれるかどうか、ということかもしれません。

【参考】共感・傾聴型ではない”カーナビ型”のカウンセリング

活躍のカギとなる 1on1 面談

福祉の職場でコミュニケーションが不全となってしまうもうひとつ理由に、職場があまりにも忙しいということが挙げられます。保育や介護の現場では限られた職員数で、多くのマルチタスクをこなしています。不測の事態や施設の利用者の方による割り込み作業も多々発生するでしょう。何かミスが起こっても、その場その場の指摘はなかなか難しく「自分でやったほうが早い」となるものやむを得ないことです。だからこそ、マネージャーが1回あたり10分でも20分でもよいので月に1回程度ご本人と一対一の面談(1on1面談)の機会を作ることがマネジメントするうえではとても重要になると考えています。

午後のワークショップでは業務に不調が出ている職員を想定し、1on1面談のロールプレイを行いました。民間企業では定期的な1on1面談を取り入れているところが増えていますが、福祉業界ではまだ取り組んでいるところは少ないようです。そもそもどのように面談を進めていいか分からないという方がたいへん多かったので、急遽1on1面談の筋書きを板書でお伝えしてから、ロープレ開始となりました。

最後にチェックアウトとして、本日の研修を通じての学びや気付き、感想などをそれぞれ紙に書き出し互いに見せ合って回るシェアリングをして研修終了。書き出した紙には前向きな振り返りがたくさん見られ、お伝えしたかったことがしっかり伝わっていたことが実感できて、とてもうれしかったです。

なお、Kaienでは講演活動を積極的に行っています。福祉従事者向けに限らず企業様や当事者会など、発達障害がある方の仕事や自立などをテーマにした勉強会などがあればぜひお声がけください。

講演申し込み(含・依頼フォーム) → http://corp.kaien-lab.com/media-lecture/lecture-request

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます