「わたしたち」であることを目指して②

vol.11-2 明神下診療所 米田衆介 医師
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シリーズ『医師と語る 現代の発達障害*』

米田 → 明神下診療所 診療所長 米田 衆介
鈴木 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

~~~ 米田先生へのインタビューは3回シリーズ 前回①では「ネットだけだと支援にならない訳」・「陥りやすい思い込み ”本音が存在する” 」・「もう一つの思い込み ”言葉で何でも説明できる” 」をお話しいただきました ~~~

文化的な土壌に根ざした療法にヒントがある

鈴木)言葉より日々の行動の中で治療をしていくということですかね。

米田)成人発達障害の概念が無かった時にも、なんとかこの人たちを治療しようとして苦労してきた歴史が精神医学のなかにあることに気づいたのですね。なので、最近精神療法を勉強しているんです。教えて頂いているものの一つが森田療法です。森田療法はよく見ると発達障害の高機能な人への支援にオーバーラップしていると思いますね。執着性があって変に頑張っちゃう方のタイプの人。どうしても頭でっかちになって空回りしてしまう。それへの対処療法が森田療法にはあるのですね。

もう一つが臨床動作法。身体とこころを一つのものと考えて、動作を通じてこころが変わっていくというものです。発達障害圏の中で、身体のコントロールが出来ない方はいっぱいいらっしゃいますでしょ。そういう方への働きかけとしても役に立つかなと思っています。特に、言葉ではなくて直接的に身体性に働きかけていくところがいいですね。言葉や概念だと現実離れしてしまうひとでも、いまここで自分の身体を動かす努力をしているときには、現実から離れようがない。

鈴木)両方とも日本ですよね。舶来物の療法ではなく。

米田)僕の好みになるかもしれないけれども、アメリカとかのものは、生活上の信念と科学とを分けようとする。でも実際の働きかけの中では、生活の中の資源で働きかけざるをえない。カウンセリングの人たちのなかには、流派によっては相手の考え方に干渉するのを避けたがる人もありますね。でも、それをやっていたら発達障害では治療にならない。押し付けるわけではないけれども、こういう考え方もあるよねとか、多くの人はこう考えているらしいよと言うところまで、こちらからちょっと踏み込んで働きかけていかないと発達障害のひとたちには届きづらいですよね。日本の文化の中で社会に適応できない部分がある人が上手くやってくための援助をするには、日本で生まれた日本文化の思想的背景がある治療法に力があるかなと。精神療法は単なる科学ではなくて、世界観・価値観に踏み込む領域ですから、そういうものを含んでいる森田療法や臨床動作法は、自分の生活を変えていく、人生観を含めて自分が変わっていくことを支援する力があるのかなと。そこを必要としている人もいると思いますね。

鈴木)少し反発も招きそうな手法ですが…

米田)学校や家庭で自分が作ってきた概念を一回壊す作業ですからね。逆操作あるいは脱学習かな。学校や家庭でかくあるべしこうじゃなきゃいかんと頭で考えたことを離れる操作です。過剰適応型の高機能発達障害の人たちの場合には、自由になるために過剰適応を壊していかないといけないから。「かくあるべしといってもあなたが頭の中で考えたことですよ」と気づいてもらうためにはそうした療法に効果があるのかもしれません。世界はあなたが頭で考えているような形をしていませんよと、こっちが世界ですよ。触ってみたらこんな形でしょと。そういう風に気づいてもらうことが必要かなと思います。

高機能と境界域

鈴木)先生今高機能とお使いになりましたけれども。どのあたりを指していますか?

米田)たしかに高機能は多義的なのでね。従来の使い方はIQ70を切っていない人。昔の使い方はね。でも、今は境界域のひとであっても相応に苦労があるということになってきていますよね。そうした境界域の人を別に考えるのだったらIQ85以上。もちろん個別のケースを単に数字だけで考えるわけではないですけれども、統計的にいってそのぐらいを大体さしているということですね。

鈴木)境界域の人。Kaienにも多いです。

米田)境界域知能の場合に、ずっと普通級などで育ってきたひとは、特別支援教育を受けることができたひとたちよりも、かえって苦労してきたひとも多いのです。知的障害があって早期発見されていると、特別支援学校に入ったりとレールが敷かれて、適切に処遇が受けられることで本人が生きやすかったり、周囲にとっても対処の方法が明確だったりということが多いのだけれども。境界域の方は自分もやれるんじゃないかと思って無理をすることもあるし、周囲も結果的に無理なことを要求しがちになる。でも、実際にやると上手くいかなくて苦しむ結果になりがちです。

鈴木)選択肢も福祉で少ないし…。

米田)サービスなんかもそんなにないし、年金も出なさそうだし、色々と大変ですよね。精神科でも児童分野の人は境界域の存在やその課題に気づいているよね。統計的に数が多いゾーン(注:知的障害の人の5倍以上)なので対象が多いですから、どこまで支援が広がっていけるか、社会次第ですけれどもね。

自閉スペクトラムの困難性

鈴木)先生は自閉スペクトラムという言葉をよく使われている印象です。発達障害と自閉スペクトラムをどう使い分けていらっしゃいますか?

米田)精神科外来に来る人は自閉スペクトラムの割合が多くなるんですよね。それには色々な理由はあると思うのですが、自閉スペクトラム以外の人たちは、苦労したり悩んだりはしているのでしょうけれども、病院に行くほどではないなと思っている人が多いのではないかと思うのですよね。例えばADHDの人の話を聞くと、そそっかしいけれども、そういうタチだと思っていたとか、しょっちゅう物を無くすけれども親父もそうだからそんなもんだと思っていたとかね。

社会で生きていくためには自閉スペクトラムという障害が他の発達障害よりも特に大変。例えば計算が得意じゃない人は、計算しなくてよい仕事はそれなりにたくさんある。あるいは単にADHDなだけだったら、むしろ積極性があるとか、フットワークが軽いとか、良いところも活かしてもらえたりする。自閉スペクトラムだけは上手い環境を見つけていくことが、普通の社会の中では非常に困難ですよね。社会性の障害というのがあるわけですから。あるいは想像力の障害というものがあるわけだから。他人がいる限り必ず何かの問題につながってくるから。容易にはカバーしきれないですよね。そういう意味ではASDの治療が一番難しいかもしれないですね。だから一番問題にする。

鈴木)今「ADHDです」という人が凄く増えていますよね。当社に来る人でも最大派閥がADHDです。でも、先生のお話を考えると、ADHDという診断の場合もASDが何らかベースである人がクリニックに来ていると解釈したほうが良いのでしょうか

米田)僕の経験の範囲内ではそういうことが多いですね。純粋のADHDではないというか、児童期で良く出会うような典型像のADHDの人ではなくて、ASDとADHDが合併している人が多いですよね。

 

~~~ 米田先生へのインタビューは3回シリーズ 次回③では「発達障害を診る医師は増えたけど…良質な医療を広げるために」について伺います ~~~

 

明神下診療所 診療所長 米田 衆介

東大病院精神神経科医局、都立松沢病院を経て、2001年より、明神下診療所にて小児および成人の発達障害を主な対象として精神医療に従事。

明神下診療所

診療科目:神経科・精神科(専門外来として小児精神科外来あり)
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3B実用芸術研究所

種類:就労継続支援B型事業所
理念:生きるために必要なものを美しく作る
最寄り駅:JR/東京メトロ銀座線/日比谷線 上野駅、東京メトロ銀座線 稲荷町駅
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シリーズ 医師と語る

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます