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発達障害の就労をめぐる諸問題

王道確立 二次障害と在職者 発達障害一元論 おっさんずラブと一億総発達障害社長ブログ

ある専門誌に、「発達障害の就労をめぐる諸問題」を寄稿予定です。主な部分をブログで書いてみました。こういう要素が入ったほうが良いというのがあれば当社のFacebookやTwitterで教えてください。取り入れてより良い主張にしたいと思います。

  1. 発達障害就労支援 デファクト・スタンダードが確立した
  2. 発達障害の人には更に追い風の2020年代へ
  3. これからの課題は二次障害と在職者 発達障害一元論がキーワードに
  4. おっさんずラブから感じる 一億総発達障害への期待

発達障害就労支援 デファクト・スタンダードが確立した

発達障害の就労支援。デファクト・スタンダード(王道)が確立したといえます。それは次のような3つから成り立ちます。

まずは自己理解です。

一人で自己理解できるチャンスが増えました。書物やウェブサイト、TV番組などを含めて大量の発達障害の情報が手に入るようになりました。発達障害の特徴は一人ひとり違います。このため読んだり見たりしても自分にピッタリ当てはまるものは無いかもしれません。それでも全く情報がない時代から、ある程度自分の社会とのズレのヒントが見つかりやすい時代になったのは確かです。

これに加えて、専門家・支援者の助けを借りられます。SSTや認知行動療法、カウンセリングなどの従来の手法を経て、客観的に自分の特徴を理解できるようになりました。WISCやWAIS、MSPAなどの検査を読み解くことも一般的になりつつあります。

次に職業訓練です。

発達障害の人の場合は、自己理解だけではなく、仕事に近い環境の中で自分の働く姿をイメージすることが重要です。職業訓練や職場実習の場で、苦手なイメージ力を補正する事ができます。

職業訓練の中で身につくのは、2つあります。一つは動的なコミュニケーション・段取り力。もう一つは動的な環境での適職の理解力です。職場でのコミュニケーションや段取りは頭で理解しても実践するのは難しいものです。実際に職場に近い環境で行うことで初めて力を高められます。また適職の理解も、様々な仕事を体験すると体感的に理解する力が高まります。イマジネーションを補うのは、失敗が許される実践の場です。

最後に就活支援です。

就職活動支援では、いわゆる通訳者の存在が必要になります。自己理解と職業訓練からいわゆる取扱説明書は自分で作れるようになっている人が多くいます。しかしすべての人が自分のプラスやマイナスの特徴を企業に伝える表現力や面接力が十分にあるわけではありません。この時に必要なのが通訳の役割を担う支援者になります。通訳者がいることで企業も発達障害の人をより戦力にできる可能性が高まります。

通訳の役割は就職後も必要になります。就活支援ですり合わせた部分が月単位、年単位でズレてしまう例は数多くあります。その際にすり合わせるのもご本人を長く見ていた通訳者としての支援者がいることで円滑な関係に戻しやすくなります。

発達障害の支援は上に見た3つの手段を徹底することだと概ね合意されたのではないでしょうか。今後はあらゆる支援機関・教育機関でコツコツと支援レベルを上げていく地道な活動が続きます。

発達障害の人には更に追い風の2020年代へ

また就労環境は2010年代後半に大きく変化しました。それは5つの大きな要因があるでしょう。

まずは圧倒的な人手不足です。

どの業界でも人が不足しました。24時間営業の店舗は終夜営業を辞めつつあります。アルバイトだった多くの仕事が正社員化されつつあります。契約社員の時給も上がり、それにより正社員への波及効果もあります。まだまだ実感がない人もいますが、生産年齢人口が減っていく中で、これまで働きづらかったマイノリティの戦力化は時代の流れでしょう。

次は障害者雇用率の向上です。

これまでは身体障害の人を指定して求人を出す企業が多かった障害者雇用の業界。しかし身体障害の人は60歳以上の場合が多く、生産年齢人口は障害者手帳を持っている人の四分の一ほどです。この中で、これまでは受け入れ企業が少なかった精神・発達障害への関心が高まるのは必然と言えるでしょう。かつ障害者雇用率が高まっています。すでに2.2%になり、近い将来2.3%へとなります。不足分は精神・発達へ、という流れも不可逆的です。

3つ目は合理的配慮の広がりです。

日本でも2016年に法制化された合理的配慮。障害者雇用に関わらず、一般雇用でも合理的配慮は必要です。まだまだ障害を自分から伝えるということが常識と言われる社会ではないかもしれません。しかし、働き方改革の中で、これまで職場で不利だった要素が解消されつつあります。自分の得手不得手を伝えることで、効果的に戦力になる手法として合理的配慮の制度化は欠かせないものになるでしょう。

4つ目は公務員の障害者雇用水増し問題です。

2018年に一気に火を吹いた、中央官庁、地方自治体、そして教育委員会での水増し問題。これによって今まで日陰の話題だった障害者雇用という言葉が一気に人口に膾炙することとなりました。ニュースの中で発達障害の方の働く姿も取り上げられるようになり、身体・知的だけと思われがちな障害者雇用で、実はすでに精神・発達が多数派になっている様子も国民の多くが知るようになっています。

5つ目は、一般的な発達障害の認知の広がりです。

発達障害ブームとも言えるほど、発達障害という単語が庶民的なものとなりました。芸能人も毎月のように発達障害のカミングアウト者がでています。実はすでにネット上の検索ボリュームは頭打ちをしているのですが、検索をせずともニュースや雑誌、日常の会話で発達障害の言葉があふれるようになったとも言えます。ADHD薬が開発され、製薬会社が多額のマーケティング費を投入したことも大きいでしょう。

これらによって、発達障害を自認する人が増えたり、発達障害の診断を受けた人が家族や親戚、友人、職場など身近にいることが普通になったりしています。発達障害がコモディティ化したとも言えます。これまでは診断されたことを隠すように暮らしていたり、オープンにしても知的障害と混同されていたり、という2000年代までとは大きく変化しています。発達障害の人の就労環境としてはこれは好ましい状況と言えるでしょう。この流れは2020年代にも更に加速するものばかりです。

たとえば、名目の賃金の向上することが期待されるでしょう。もちろん税金や社会保障などの負担増で実質的な賃金が減る可能性もありますが、マクロレベルでは発達障害の人の力が発揮しやすい流れになっています。またすでに見た通り正社員化の進展もあるでしょう。同時に業務が多様化し、特に定型業務にとどまりやすかった障害者雇用でも職種が広がる可能性が高まっています。

これからの課題は二次障害と在職者 発達障害一元論がキーワードに

課題もあります。最も大きい課題が、二次障害への対応です。

上述の通り、就職する気持ちのある発達障害の人が働ける社会的、支援技術としての素地は、今の日本に十二分に整っています。しかし、なんらかの原因で二次障害を悪化させてしまう人が多くいます。つまり失業して困っている人はすぐ働けるようになりながら、そもそも働こうという気持ちが湧かない人への対策はまだまだです。実際、障害者手帳を持っている生産年齢人口のうち8割の人が依然就職していません。

最近、多くの児童精神科医や精神科医と話す中で気づいたことがあります。10年ほどまでしたら「不登校やひきこもりの原因の一部に発達障害がある」という表現でした。それが今は「基本的にはなんらかの発達障害の関連がある」という理解になっているということです。発達障害一元論とでもいいましょうか。

親が発達障害の傾向があり子育てが上手くいっていないこともあります。学校の先生の理解が得られず、子どものうちに人間不信になっていることもあります。思春期の時に自我の形成が上手くいかず、自尊感情を育てられないままおとなになっている人もいます。職場でミスの多さや情報管理の苦手さからうつや不安障害を発症する人もいます。いずれの場合も、構造化し安全な環境を整えられたら上手く行ったはずです。しかし残念ながら多くの場合は不可逆的。二次障害があることを前提に支援策を考える必要があるでしょう。

その際に、既存の雇用モデル、支援モデルでは不十分だと思われます。ではどんな対策がありえるでしょうか。

超短時間労働は解決策の一つです。現在は週20時間以上働く必要があるのが障害者雇用制度です。それを修正し、5時間、10時間から障害者雇用率に換算できるようにしてはどうでしょうか。

また、サテライトオフィスも解決策となるでしょう。サテライトオフィスは、特例子会社の先にあるものです。多くの場合通勤の負担が少ない郊外に設けられます。また雇用主とは異なる専門機関のジョブコーチが常駐します。このため管理が難しいタイプの人も雇用ができる可能性が高まります。支援費用は雇用主が負担するので、税金の追加負担もありません。

多くの人が理想とする通常の仕事場へのインクルージョンは諦めるのですが、雇用を広げ、障害のある人を戦力化する武器になりえます。2018年度は厚労省が、障害者雇用の新モデルとしてサテライトオフィスをモデル事業として予算化しましたので、行政も積極的に動いているモデルです。

サテライトオフィスは二次障害のある人だけではなく、大都市に比べて進みが遅い地方の障害者雇用の解決策になるだけではありません。本社で行う業務を、郊外のオフィスに切り分けて行える障害者雇用モデルを更に一歩進めれば、自宅で働くテレワークに繋がる可能性すらあります。そうすると更に多くの人が雇用されることとなるでしょう。

二次障害以外では、働きながら苦しんでいる人の増加が課題でしょう。

発達障害の人は、他の3障害(身体・知的・精神)の中でもっとも定着率が高いことがデータで証明されています。しかしそれは1年の調査です。当社の調査では1年の定着ができた人も、2年、3年経ってもなかなか職場に馴染めないことがわかっています。1年単位での変化には対応できても、上司が変わったり、業務が変わると、急に不適応になるケースがあるからです。

もちろん先に述べた二次障害で不適応になるケースもあります。しかし人間関係や職場のスキル変化についていけなかった人的・スキル的なミスマッチが多くなる可能性があります。

残念ながら中長期的な定着支援やキャリア支援は制度化されていません。特に障害者雇用を選ばず、一般雇用で働くことを選ぶ場合は、変化が激しくなります。人手不足の中で、戦力になりづらい人を切り捨てる余裕は今の日本にはないでしょう。ズレをどのように修正していけばよいのか。一般枠での合理的配慮が広がるとよいのでしょうか。二次障害の問題とは違って、まだまだ医療や福祉の表面上には見えてこない課題だけに解決策も仮説すら立てられない段階かもしれません。

課題は工夫によって希望にもなるでしょう。今後このような課題を希望に変えられる活動に私は関わっていきたいと思っています。

なお、AI時代、シンギュラリティ時代にどう対応するかも、10年・20年ぐらいのスパンでは考える必要がありそうです。ただしそもそも発達障害の人の問題というよりも、大多数の人が雇用されづらくなる可能性がある問題ですので、個別具体的な対策というわけではないのではないでしょうか。ちなみにAI時代によって発達障害の能力が注目される可能性すらあります。発想力や細部へのこだわり、独自の視点などは人間ならではのものでしょう。AIやロボティックスが発展しても、人間の聖域として残るのは、発達障害的な分野かもしれないからです。

おっさんずラブから感じる 一億総発達障害への期待

最後に健常者と障害者のボーダーレス化(一億発達障害化、発達障害の連続性)についてです。

先の項で見た通り、精神障害などの根底に発達障害がある理解する「発達障害一元論」が医師の間で広まりつつあります。似て非なる発達障害の捉え方として「一億総発達障害」というのも出てきているでしょう。それは次のようなものです。

発達障害は連続性があるものである。真っ黒な発達障害者がいないのと同じように、真っ白な健常者がいるわけでもない。発達障害はボーダーレスに考えるべきで、むしろそうした自覚を持つことで、自分も他人も社会も捉えやすくなるという考え方です。社会が企業や団体が提供するサービス・商品に要請する、正確性・管理力・柔軟性が高まるに連れて、より多くの人が発達障害の領域(ミスが多い、情報がとっちらかる、細かな修正に応じられない)に入ってくるような印象です。

発達障害を自分事として捉えることで社会はどう変わるでしょうか。その際に私がヒントにしているのが2018年にブレークした「おっさんずラブ」というテレビドラマです。

おっさんずラブでは、もともと巨乳好きのコテコテの男性(はるたん)が、いつの間に同性である職場の上司や後輩に恋心を抱いていくというストーリー展開になっています。自分のアイデンティティに苦しみ、また周囲もはるたんの変化に戸惑います。しかし、今まで境界線を設けることで単純に理解していた世界が、曖昧である事実を受け止めることで、みんなが変わり始めます。人間をより多面的に連続性を持って見られるようになると、皆が幸せになれることを目指したドラマだと❞深読み❞ができなくもありません。

同じことがDNA検査にも言えます。いま特に欧米で自分のルーツを知るために行われているDNA検査。そこで多くの人が知らされて驚くのが、米国の黒人の多くに白人やアメリカ原住民のルーツが入っているということです。曖昧なルーツの人が多いという事実はこれまでも一部の専門家が理解していたことであるでしょう。でもそれを本人たちが直接することで、人種対立の固定観念を崩すムーブメントになるのではないかと期待する人がいます。

発達障害にも似たことが起こり得るのではないでしょうか。発達障害は連続性が高いものであることは、専門家の中では周知の事実になりつつあります。支援者以外にも、発達障害の連続性を伝え、問題を外在化させるのではなく、内在化してもらうこと。すなわち発達障害とは関係ないと思っている政治家や経営者や管理職や同僚などにも発達障害の特性が入っていることを理解してもらうこと。これらによって先に書いた多くの課題が解決に向かうのではないかと私は期待を持っています。

「自覚するってかっこいいこと」。これは前厚生労働省発達障害対策専門官である日詰正文氏の言葉です。性格に、ポジティブに、自身の発達障害性を理解する人を増やす取り組みも、ぜひ私個人として行っていきたいと思っています。

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA) 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴社長ブログ一覧