「灰色のサイ」で就活・雇用情勢に変化はあるのか?

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Kaien社長の鈴木です。

コロナウイルス騒動がなかなか静まらない中、就労移行支援やガクプロなど当社の通所系のサービスの対応を決め、4月から市ヶ谷でオープンとなる「自立訓練(生活訓練)」の準備を淡々と進めています。

コロナウイルス関連:就労支援サービスの対応

自立訓練(生活訓練)サービスについて

 

それにしも科学的に考えるとコロナウイルスの特徴や対策は分かってきた一方で、マスコミ報道や政府行政の施策は全世界的にパニック。ウイルスのそのものの怖さよりも、人の不安感の方が今は個人的に心配で、経済がリスクの高い状態に移ってきているなと思っています。

ブラックスワン(黒い白鳥)か灰色のサイか

経済に及ぼす影響を知ろうと記事を読む中で「灰色のサイ」という言葉を知りました。

マーケットにおいて高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられるにも関わらず、軽視されてしまいがちな材料を指します。 草原に生息するサイは体が大きくて反応も遅く、普段はおとなしいのですが、一旦暴走し始めると誰も手を付けられなくなり、爆発的な破壊力を持つことから、比喩として用いられています。」(SMBC日興証券サイトより抜粋)とのことです。

コロナウイルスは「めったに起こらないが、壊滅的被害をもたらす事象のこと」を指す「ブラックスワン(黒い白鳥)」とも言われますが、実はコロナウイルス自体が怖いわけではなく、それによって目覚めてしまう、あるいはこれまでリスクとしては確実にあったが人が無視していた灰色のサイ(そもそもサイが灰色っていうのは当たり前で、黒い白鳥のように珍しいものでも何でもない)のほうが経済的には怖いともいえるかもしれません。

灰色のサイという言葉は、もともと成長の鈍化や不安定リスクが指摘されていた中国経済を表す言葉として2017年ごろから使われていて、今はコロナウイルスというブラックスワンと相まって改めて注目されているのだと思います。

日本経済も灰色のサイだとすると…

もちろん日本経済も、増税の影響、インバウンド需要の(コロナウイルス前からの)鈍化、オリンピック後の余波、などもありますが、もともと2018年ごろから景気動向指数はさまよい始め、米中貿易摩擦の影響もあって、(政府や日銀はいろいろと言っていますが…)景気後退ともとれる段階にはあったはずです。いわば日本も「灰色のサイ」状態であったわけです。

ただし、当社が関心を持つ雇用への影響というと、ゆっくり、遅れてくるというのが一般的です。というのも雇用というのは遅行指数。つまり景気の動向に先んじて影響が出始める精密機械の受注額などと違い、雇用は景気の動向を追う形で影響が出始めるからです。いくらブラックスワン・灰色のサイだとしても、この数か月、急に採用計画に変化が出るということはないでしょう。

実際、今のところ、コロナウイルス騒動で、選考活動が延期になったとか、説明会がオンラインに移行したとか、影響は出ています。が、求人を取り消します、といったような連絡はまだ来ていません

発達障害の人の就活・雇用に影響は?

というわけで、この3・4月は、①オンラインでの採用活動に慣れる(実際当社でも、オンライン就活を教える講座をし始めます)ことと、②企業の選考活動が延期になって応募数がやや少なくなる、という2点は意識しないといけないと思われます。

その後は、一般枠と障害者枠で状況が異なるかもしれません。

まず障害者枠を考えます。障害者枠は下の厚労省のデータに見る通り、景気動向にはほとんど影響を受けないことが過去証明されています。法定雇用率は来年度末までにさらに0.1%あがることは決められていますので、企業の採用意欲は相変わらず高いでしょう。

ただし人材系やサービス系など景気によって総従業員が伸び縮みする業界の障害者雇用は影響を受ける可能性があります。そのあたりは今後注視していきたいと思います。

 

【厚生労働省】令和元年 障害者雇用状況の集計結果[PDF形式:2.9MB]

他方一般枠。こちらも大きな影響を受けないのではないかと思っています。とにかく人手不足で働き手が少ない状況なのは、景気云々というよりも、もともと日本の人口ピラミッドの特殊性によるものが大きいと思います。今後も外国人労働者を入れても足りないような業界がたくさんありますので、にわかに雇用環境が悪化するということは考えづらいと思います。特に大企業は引き続き相当数の求人を出し続けるのではと個人的に予想しています。

一方でKaienの就労移行支援ガクプロから一般雇用で就職する方の多くは地元の中小企業なのです。中小企業は(当社もそうなのですが…いつの時代も)ブラックスワン・灰色のサイの影響を受けがち。もしかしたら来年度(つまり2020年4月から)の就活戦線では下に見るような一般枠/障害枠の比率が変わってくるかもしれません。

ガクプロ(当社の学生向けプログラム)の最近の就職決定状況

2020.03.12 追記 

帝国データバンクの雇用動向調査「正社員の採用予定、6年ぶりに6割を下回る~ 新型コロナウイルス感染症の影響で、採用を控える企業も ~ 」が出ました。コロナウイルス感染拡大後の2月後半のアンケートです。やはり大企業は影響が少なめ、かつ人手不足業界は相変わらず採用が強そうですが、中小企業は影響を受けそうです。既に景気はなだらかに下降していたが、今回のコロナウイルス騒動で大きく採用を引き締める企業が出てきそうで、それは人手不足業界として挙がっている飲食も今後含まれていくかもしれません。障害者雇用は変わらず採用意欲は強そうですが、中小企業をメインターゲットにしている、グレーゾーン含む発達障害のある人には一般枠はやや門戸が狭まる傾向があるかもしれません。

 

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴