障害者の方が雇われにくい業種がある?除外率制度について

外務省の障害者雇用義務引き下げニュースを受けて
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「障害者の方が雇われにくい」といっても様々な理由が考えうるのですが、今回は、法令で他の業種・職種よりも障害者の雇用義務が低く設定されている「除外率制度」について取り上げます

先日、外務省について「海外勤務の職員の一部は障害者雇用になじまず、特例で雇用義務を引き下げたい」という方針が出たことが一部で話題となりました。しかし、実は以前から行政にも民間にも、特例的に雇用義務が引き下げられている業種・職種があるのをご存知でしょうか?

除外率制度・除外職員制度とは

民間企業や公的機関は、従業員のうち2.2%(公的機関2.5%)は障害者の方を雇う義務があると障害者雇用促進法で定められています。

しかし、かつて障害者の方が働くことが難しいと認められていた業種・職種に限り、法的にも本来の障害者雇用義務より少ない人数しか雇わなくてかまわないとする、「除外率制度」「除外職員制度」という特例が存在します。(もう少し具体的にいうと、「従業員数」の一部を除外することで雇用義務数を下げる制度です。)

除外率制度は廃止の方向で決まってはいるのですが、いつ完全に廃止するかは決められていません。2014年4月、2010年7月にそれぞれ10%引き下げられたのみです。

【参考】厚生労働省 障害者雇用率制度(「除外率制度について」を参照)

民間企業に対する除外率

まずは民間企業等です。障害者雇用促進法・施行規則の別表第四で下記の通り決められています。人の命を守ったり、危険な現場に立たざるを得なかったり、一定程度の傾向があることがわかります。

 

除外率設定業種

除外率

船員等による船舶運航等の事業

80%

幼稚園、幼保連携型認定こども園

60%

道路旅客運送業、小学校

55%

石炭・亜炭鉱業

50%

特別支援学校

45%

金属鉱業、児童福祉事業

40%

林業

35%

鉄道業、医療業、高等教育機関

30%

港湾運送業

25%

建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業

20%

非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業

15%

採石業、砂・砂利・玉石採取業、窯業原料用鉱物鉱業、その他の鉱業、水運業

10%

非鉄金属製造業、船舶製造・修理業、舶用機関製造業、航空運輸業、倉庫業、国内電気通信業

5%

小学校、高等教育機関など教育機関の多くが対象になっています。が、幼稚園などについては、そもそもの話として従業員数45.5人以下の民間法人には業種を問わず障害者の雇用義務がありません。

公的機関に対する除外率

今度は公的機関です。障害者雇用促進法・施行令の別表第一と別表第三で定められています。このうち別表第一については、警察官など強制力の行使をともなうことから、(現行法制では)まったく障害者雇用義務が発生しないものとされています。なお、公的機関に対しては、職種ごとの除外率の差はありません。別表第四で定められていますが、少々複雑なので割愛します。

障害者雇用促進法・施行令 別表第一
  • 警察官
  • 次に掲げる職員
    • 皇宮護衛官
    • 自衛官、防衛大学校及び防衛医科大学校の学生並びに陸上自衛隊高等工科学校の生徒
    • 刑務官及び入国警備官
    • 密輸出入の取締りを職務とする者
    • 麻薬取締官及び麻薬取締員
    • 海上保安官、海上保安官補並びに海上保安大学校及び海上保安学校の学生及び生徒
    • 消防吏員及び消防団員
  • 前二号に掲げる者に準ずる者であつて、労働政策審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定するもの
障害者雇用促進法・施行令 別表第三
  • 国家公務員法第二条第三項第二号から第十一号までに掲げる職員(※筆者注:国務大臣など)及び船員である職員
  • 裁判官、検察官、大学及び高等専門学校の教育職員並びに地方公務員法第三条第三項第一号に掲げる職及び第四号に掲げる職に属する職員
  • 次に掲げる職員
    • 国会の衛視
    • 法廷の警備を職務とする者
    • 漁業監督官及び漁業監督吏員並びに森林警察を職務とする者
  • 航空交通管制官
  • 医師及び歯科医師並びに保健師、助産師、看護師及び准看護師
  • 幼稚園、小学校、特別支援学校及び幼保連携型認定こども園の教育職員
  • 児童福祉施設において児童の介護、教護又は養育を職務とする者
  • 動物検疫所の家畜防疫官及び猛獣猛きん又は種雄牛馬の飼養管理を職務とする者
  • 航空機への搭乗を職務とする者
  • 鉄道車両、軌道車両、索道搬器又は自動車(旅客運送事業用バス、大型トラック及びブルドーザー、ロードローラーその他の特殊作業用自動車に限る。)の運転に従事する者
  • 鉄道又は軌道の転てつ、連結、操車、保線又は踏切保安その他の運行保安の作業を職務とする者
  • とび作業、トンネル内の作業、いかだ流し、潜水その他高所、地下、水上又は水中における作業を職務とする者
  • 伐木、岩石の切出しその他不安定な場所において重量物を取り扱う作業を職務とする者
  • 建設用重機械の操作、起重機の運転又は玉掛けの作業を職務とする者
  • 多量の高熱物体を取り扱う作業を職務とする者

公立校でも教員に除外率が設定されていることが分かります。

外務省の障害者雇用義務引き下げについて

11月29日における厚生労働省の審議会において、外務省につき「海外勤務の職員の一部は障害者雇用になじまず、特例で雇用義務数を引き下げたい」という方針が出、NHKにも取り上げられて一部で話題になりました。

【参考】“義務達成難しい” 外務省の障害者雇用 人数減らす方針リンク

外務省側の言い分としては、当該審議会の資料が厚生労働省のウェブサイトで見られるのでそちらから読めます。

【参考】第93回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)リンク

この時期になって後出しで特例措置の要求を出したことは、外務省が障害者雇用を軽視しているととられても仕方ない面もあるか……とも思いますが、外務省側のロードマップを見る限りでは「除外職員制度の利用は5年限り」「できる限り多くの障害者職員を、先進国の在外公館を中心に配置」と前向きととれる文書をあげています。(むしろ除外率制度を適用したうえで、なお障害者雇用率が法定雇用率を大幅に下回っている教育委員会などのほうが問題かもしれません。)

障害者雇用の定義は違うのですが、フランスの法定雇用率は6%、ドイツは5%。先進国の中には我が国の法定雇用率2.2%よりもはるかに高い障害者の雇用義務のある国もあります。日系企業でも現地法人の方は障害者雇用に熱心に取り組んでいらっしゃるはず。外交面から考えても外務省はこの問題に真摯に取り組まざるを得ないでしょう。

【参考】広がる欧州との「障害者雇用率」 障害者雇用水増し問題リンク(産経新聞10/22)

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