2019年版 発達障害 就業実態調査から③ 正社員を考察する

Kaien社長ブログ
HOMEスタッフブログ2019年版 発達障害 就業実態調査から③ 正社員を考察する

Kaien社長の鈴木です。毎年行っている発達障害* 就業実態調査。第1回は「告知・診断」、第2回は「給与」を軸に検討しました。今日は「正社員」を考察します

2019年版 発達障害 就業実態調査から① 診断・告知・気づきのタイミングは世代と性別で異なる

2019年版 発達障害 就業実態調査から② 給与水準を性別・年齢別・職種別で考察する

※なお今回ご紹介する内容を共有したいということがありましたら、発達障害啓発目的・非商用利用の場合に限って引用・転載が可能です。その際は「©株式会社Kaien 発達総合研究所」と「2019 発達障害 就業実態調査」を引用元として明示くださいますと幸いです。

正社員化のタイミング 障害者雇用は登用時期が早まる傾向

まずは正社員化のタイミングを見てみましょう。

予想通り、一般雇用の場合は、新卒一括採用の影響を大きく受けますので、入社時が最大。4人に3人という割合に迫る勢いです。ただし年齢ごとに分類して数字を確認しましたが、それでもやはり一般雇用の場合は入社タイミングで正社員化されているようです。ただしこれは裏返してみると、入社時に契約社員だとなかなか正社員への登用がないのが、今の日本の雇用だということも透けて見えます。

一方で障害者雇用は契約社員と正社員の垣根が低いことがわかります。残念ながら入社時の正社員は少なめです。全体の3割弱に留まっています。一方で3年以内に正社員になる人が最大。またその後も正社員化されている様子がわかります。

少し分かりづらいですが、上は障害者雇用に限ったチャート。正社員に登用されたタイミングを色で分けています。サンプルが十分でないこともあってか明確な傾向に見えませんが、①ここ1・2年は青色(つまり入社時から正社員)が多いこと、そして②3~5年で正社員に転化しているケースが増えていること、の二つがわかります。一方で2014年に入社した人は5年目を迎えるものの、4割程度の人はいまだ正社員になっていません。これは雇い止めが発生するということなのか、一気にここが転換されていくのか、あるいは正社員ではないけれども無期雇用(※)になっていくのか注目してみていきたいポイントです。

(※)無期雇用の契約社員とは、契約社員でありながらも、雇用期限のないより安定した雇用形態で働く人のこと。正社員への手厚い社会保障・福利厚生などと差が必要な場合に設けられることがあるが、障害者枠の場合は実質的には正社員のような扱いを受けているケースも少なくない。

正社員の給与と満足度 一般枠のほうが低い!?

次に前回の給与でも考察した契約形態別のチャートを復習したいと思います。

障害者雇用にしても、そうでない通常の雇用(一般雇用)にしても、年収で見ると一番高いことがわかります。

ただし、統計上の分析はしていませんが、給与への満足度は、一般雇用の正社員/障害者雇用の正社員/それ以外(つまり正社員以外の一般雇用・障害者雇用の人たち)で、私が想定していたほどには変わらないようです。ここについては明確な理由がデータからは見当たらず…。

勤務時間 一般枠の正社員は長めだが常識の範囲内?

タイミング、給与と見てきました。次は勤務時間について見たいと思います。

一般的に障害者雇用は残業がないと言われます。正社員になってもその傾向はあるのかを確認するためのチャートが上です。

それによると、障害者雇用の場合は8割の人が正社員でも週40時間に留まっていることがわかります。疲れやすい人、疲れを感じづらく一気に体調を崩しやすい人が多いので発達障害の人にとっては勤務時間は大きなファクターになることが多いのですが、概ね配慮のある職場で働けていると言えるでしょう。しかしながら、週50時間を越える状態の人も10%弱いるということ。配慮は他でされていると理解すればよいのでしょうか。

一般雇用の場合は確かに長時間化しやすいところではありますが、思ったほどではないのかなぁというのが印象です。ブラック企業にはまってしまって抜け出せない発達障害の人は多いのですが、ある程度、コンプライアンスが守られた職場で働けていそうな事がわかります。

とはいえ、満足度調査で、一般枠の正社員の人の不満が強かった(青色が多かった)のは、後で見るように人間関係と、勤務時間です。上のチャートは、一般枠の正社員、障害者枠の正社員、そしてそれ以外の人たちの職場満足度を勤務時間から比べたものです。やはり理解をされないというのは辛いものなのですね。

チャートでみる正社員の満足度 オープンチャレンジ就労の必要性を実感

最後に仕事内容、契約形態、上司同僚、その他全体という項目で、職場への満足度の設問をチャート化したものをご紹介します。

これらのチャートを見て、私としては、決して正社員になったからといって満足度が上がるわけではないのだなということが大きな学びです。むしろ一般枠の正社員の場合は、職場に自身の診断・特性をオープンにしているかどうかで満足度が変わりそうで、今はクローズドの人が多いので不満や幻滅が大きくなりやすいのかなと思います。今後は、Kaienもグレーゾーンの方を中心に、一般雇用での障害オープン(オープンチャレンジ就労)を後押ししていきたいと思っていますが、その問題意識を改めて今回のアンケートで感じました。下記記事はグレーゾーンや一般枠オープン(オープンチャレンジ就労)についての参考記事です。

中小企業における発達障害/グレーゾーンの人たちの就職事情

就業実態調査 来年もご協力ください!

というわけで3回に渡ってお送りしてきた就業実態調査の考察。いかがだったでしょうか?500人を越えるアンケート回答者の皆様、貴重な情報を今年もありがとうございました。来年もぜひご協力をお願いします。より答えやすく、深い分析ができ、当社や関連業界の支援の質があがる調査を目指してまいります。

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます