就労移行支援 Before/After(2020年版)

就業実態調査2020 ~発達障害の600人に聞きました~ 其の弐
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発達障害の人に年1回ご協力いただいているKaienの「就業実態調査」。今年は約600人の方に回答いただきました。

過去の記事「就業実態調査」 – 発達障害の方のための就職応援企業 (kaien-lab.com)

今回は、2020年1~12月の1年間で就労移行支援から就職を果たした人たちの回答を取り上げます。

「Kaienで就労移行を受けるとどうなるのですか?」という質問は利用説明会や個別相談の場で(そして採用試験で当社で働くことを希望する人も含めて)FAQですので、こちらを保存版として社内外に説明していきたいと思います。

障害者枠が9割

結論から言うと、9:1で障害者雇用が多いということになります。首都圏や大阪に当社事業所が集中しているので、障害者雇用の給与水準が高いこと、一般枠と比べても職種も案外豊富であること(この後の設問で触れます)などが関係しているでしょう。

とはいえ、当社で「オープンチャレンジ」という一般枠だけれども障害・特性をオープンにしていく、という一般枠と障害者枠の中間の就活の仕方も今後は広まるかもしれません。(人手不足が強かったコロナショック前に比べると、有効求人倍率が下がっています。オープンチャレンジというのは、長い目で見ると広がると思いますし、広げないといけないですが、ここ数年は少し流れが停滞しそうです。)

契約社員も9割近くですが、雇止めはほとんどありません

今年就職した人で見ると78%が月給制の契約社員、アルバイト・パート(つまり時給制の契約社員)まで含めると87%と9割に迫ります。

しかし当社の「大人の発達障害Q&A」でも解説している通り、障害者雇用における契約社員は、(特に大企業ほど)雇止めは珍しい現象です。これは次回の分析に譲ることになりますが、数年後に正社員登用されている人が多数である状況も踏まえる必要があるでしょう。

障害者雇用の契約社員は不安定?

増える短時間労働(1日6時間労働)

実は障害者雇用は給与が低いと言われますが、時給換算をすればそれほどではありません。一日8時間働ければ都内で一人暮らしをしていくぐらいのお金はもらえることが多いです。

一方で障害特性ゆえに疲れやすかったり、集中力が続かなかったり、で短時間で働きたい(そしてどうしても犠牲になるお金の部分は、家族の支えや障害年金などに頼りながら暮らしたい)というニーズが強いのも現場にいるとわかります。

今回の調査では3人に一人は6時間以下の雇用で働いていることがわかりました。これは個人的には驚きの数字です。以前とだいぶ違うなと…。

ということで2015年のデータ(ちょうど5年前)を引っ張り出しましたら…下記のようになっていました。たしかに短時間労働が増えているなと思います。Kaienの利用者層が多様になってきた(いろいろな人を受け入れる支援力が増してきた)と理解しています。

いずれにせよ、短時間労働も選択肢としてしっかりあるということがデータから読み取れることは確かです。

平均月給18万円 職種によって20万円超の時代へ

月給レベルが肌感覚で分かりやすいのと、契約社員のうちは賞与がないことが多いので、下記の表をお示しします。

10万円台前半は主に先ほど見た「短時間労働」の人たちが多いでしょう。ここが一つ目の山です。

次の山が17~20万円。ここは当社では「事務補助」と言っている部分です。接客や複雑な社内調整は無いものの、限定された種類の仕事をしっかりこなすという内勤です。

そして今年の特徴はもう一山。20万円を超えたところにあるところでしょう。ここは次で見る「専門職(IT)」がけん引していると思われます。

今年就職した人だけをピックアップしたのが下記。

平均給与は18.0万円でした。

事務が三人に二人 ITの伸長著しい 

前述のとおり、9割が障害者雇用ですので、職種も限定されやすいのはご想像に難くない部分です。

当社では、「6:2:2=事務:専門:軽作業」とお伝えしていましたが、今年はその傾向がより強く、「事務:専門:軽作業」のバランスは下記のとおり、「7:2:1」という感じでしょうか。

いずれにせよ、当社プログラムで、マクロ・RPA・HTML/CSS・デザイン・システム開発が一気に充実したこともあり、専門職(IT)で就職される人が増えています。ちなみに、下記専門職(IT)の9%のうち、前職でIT職種でなかった「非IT」の方の割合は半分。つまり前職もITであった人も半分含まれています。

業種は満遍なく

最後は業種です。ここのデータは若干眉唾です…。このデータの元資料は各拠点のスタッフが記録しているのですが、企業の業種をどこまで理解して記録できているかと…、特例子会社をどのように分類するか(本業に近い特例子会社は本業の業種の分類でもよいかもしれませんし、全く違う業務をしている特例子会社は違う分類が必要そうですので)で、いろいろとデータが変わると思われるからです。

とはいえ、データから読み取れるのは、業種は多岐にわたる、という一言です。特に障害者枠の場合は、先に見た職種の偏りがある程度で、あまり業種による偏りはなく、今年も採用活動が行われたことがわかります。

いかがだったでしょうか?このシリーズ。年末年始にまだまだ続きます。お楽しみに!

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴