「怠けて居眠り」は絶対ない 居眠りは怒る材料ではなく、治療・支援に繋がる材料です

vol.10-2 上島医院院長 渥美正彦 医師
HOME医師と語る 現代の発達障害「怠けて居眠り」は絶対ない 居眠りは怒る材料ではなく、治療・支援に繋がる材料です

シリーズ『医師と語る 現代の発達障害』

渥美 → 上島医院 院長 渥美正彦 医師
鈴木 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

今回は前後編の二本立て。前編はこちらから。

YouTubeでもご覧ください。

今回のインタビューは「睡眠専門医 渥美正彦」のYouTubeチャンネルでも見られます

思春期の睡眠障害 起きたくない理由はある?親子の温度差をどう埋める?

鈴木) 先生は思春期は診られるのですか?

渥美) 思春期も診ざるをえませんね。朝起きない、という症状は思春期に多いので。

鈴木) そうですよね。起立性調節障害とか、寝坊が多いとか…。思春期から20代前半は睡眠の課題が多いなと思っています。親御さんも困っているし、本人も困っている。そこで質問です。思春期から大人になる時の、特に発達障害がある人に、睡眠どうしたらよいかというアドバイスはありますか?

渥美) ものすごく多いですよね。精神科で睡眠を診て、発達を診て、というドクターはほぼこのことで頭を悩ませていると思います。体系化された、こうすれば確実という方法は確立されていないので、僕はこうやっていますという話になってしまいますが、クリニックに来られた時にまず今の過ごし方を聞くようにしています。朝起きられない場合もありますし、朝起きたくない場合もあります。起きると辛いことがある、鬱陶しいことがある。特に適応障害を起こしているらっしゃる方の場合は、言葉には出していないけれども、起きると辛いことがある。つまり起きにくいことと、起きたくないことが、重なっている方もいらっしゃいます。このため最初は起きたくないという本音を持っていないかに聞き取りを集中します。

もし起きたくない理由があるならば、起きても嫌なことは起こらないことを保証することをちゃんとやっておかないと、ご本人のモチベーションもあがらないし、クリニックに通ってくれなくなるんですよね。それで起きてもよいよとか、起きるために何をしたらよいかと興味を持つようになったら、一番最初にするのは心理教育ですね。なんで起きられなくなったのかという話をすることが多いです。ほとんどの場合は、ノーマライズをすることが多い。思春期は基本的には遅寝遅起きになる。それを体内時計のせいにすることが多いです。あなたの問題ではなく、外在化させる。あなたの体の中の体内時計がずれているだけ、という話にして、体内時計を調整するという話にすることが多いですね。その調整を一緒にしていく方法を教えるけれども、やってみるかどうかは自由だよという話をします。実行するかどうかは基本的にご本人に任せることが多いですけれども、わりと実行してくれます。

鈴木) 先生のところに行くということは、睡眠に課題意識があるという場合が多いのですかね。

渥美) 親御さんが熱心ですね。僕が最初こういう仕事をし始めた時に、頭を悩ませたのは、親と子の温度差をどう埋めるかですね。温度差どころか、ニーズは正反対で、親は起こして学校に行かせたい、子は学校には本当に行きたくないので起きられないのは好都合と思っていることもあります。二回目の診察の時は乖離している親子の思いを見ていって、ちょっとでも似た方向に両者を向けるかを考える事が多いですね。診療は苦労のしっぱなしですね…。

発達障害のわかる睡眠専門医は何故少ない?

鈴木) 私もだいぶクリニック巡りしましたが、発達障害のことをしていながら、睡眠のこともしているクリニックはほとんど思い当たらないのです。なので主治医は他にある。睡眠のことは先生のところに行きたいという希望もありそうです。そういった希望は受け入れていらっしゃいますか?それとも主治医を移したほうが良いのですか?

渥美) 患者さんに任せていますね。どうしたい?って聞いています。基本的には初対面の時は睡眠専門医という形でお会いします。なのでその枠をあまり踏み越えないようにしています。ただ話の中身が精神科っぽい話が多いので、馬が合うようだと患者さんが思ってくださったら、主治医を変えるという判断をされる方もいらっしゃいます。それが患者さんご本人にとってマイナスでなかったら受け入れていますね。

鈴木) 睡眠を診られる精神科医が少ないとなると遠くから来られる方もいらっしゃるんじゃないですか?

渥美) そうですね。遠くからというと、例えば福井から来られる方が何人かいらっしゃいます。頻繁には難しいですよね。なるべく最初の段階で必要なことをお伝えして、定期的に通うのは難しいかもねとはお話ししています。

鈴木) 今睡眠専門医と標榜する人は増えているのですか?前編でもADHDに多い過眠は専門医じゃないと難しいというお話がありました。これだけの問題なのに少ないというのが意外なのです。

渥美) 日本睡眠学会という学会があって、そこが睡眠医療の専門医を試験をして育成しているのですけれども、正直増えるペースは非常にゆっくりですね。あまり増えていっていないと思います。僕がとったのが10年以上前ですけれども、そのころから比べても増えるペースはむしろ落ちているんじゃないかと思います。認定を厳しくしすぎているんじゃないですかね…。

鈴木) 発達障害の当事者で執筆家の借金玉さんが、とにかく睡眠のところには金を使えと書いてあって、凄く発達障害の人の人生にとって大事だろうなと思うのですが…。睡眠専門医が増えないのは不思議な現象だなぁ、増えてほしいなぁと思いますね。

睡眠専門医として、Kaienなど福祉に望むこと

鈴木) 福祉の立場として、睡眠専門医としてこういう支援をしてほしいとか、ご家族にこういうサポートをしてほしいとあれば最後に教えてください。

渥美) 出来る限り患者さんご自身が見えていない部分、医療の立場だと患者さんの生の生活が見えづらい。そういうところを福祉の方に教えてほしいですね。患者さんが起きている場面しか見ていないので、昼間うとうとしていないかとか、睡眠中にいびきかいていないとか、遅寝遅起きになっていないとか。そういうのがあれば主治医の先生に相談したほうが良いんじゃないのと言ってもらうと医者の視野も広がることがありますね。

あとご家族相手ですよね。当事者に直接かかわっていく立場であれば、よくあるのが、どっちかになっちゃうことが多くて、家族か当事者か、どっちかになっちゃうことが多いですよね。当事者に関わっている時間が長いと家族視点が二の次になったり、場合によっては逆もあったり…。なるべく両者の視点に気づいていただいて、似ている方向を向く手伝いをしていただくことが重要かなと思います。就労の支援をするのは素晴らしいことだと思うのですが、この方にとっては仕事をすることが第一にならなくてもよいんじゃないかと思うこともありますよね。家族は仕事!仕事!と言っている場合であっても、ご本人の状態や意思で本当に働くことを目指すべきなのかなど、全体バランスをみながら福祉として動いてもらえると僕らも助かりますね。

鈴木) 睡眠はみんな多少なりとも困っていると思います。お医者さんに行こうという踏ん切りはどの程度まで深刻になったら行くべきですか?

渥美)困っていることについてご本人が対策をとってみて上手くいけばそれ以上のことは不要でしょうね。でも何かやってみても効果が薄かったり、自分自身だと手が打てなくなっていると見える時には、周囲の方が専門医に診てもらうことをお勧めしていただきたいです。

居眠りは睡眠の問題に気付くきっかけになる

渥美) あと居眠りしていて怒られたら、医療につながるというのは良いかもしれません。居眠りするということは睡眠に対しては何らかの問題を抱えているという状態です。一番の原因は睡眠不足ですけれどもね。他には、スケジュールの問題と、薬が過剰になっている場合と、病気の場合とがありますが、いずれにせよ居眠りすると怒られますよね。

鈴木) 定着支援でも企業側から一番聞くのが「あの人寝ています」ですね…。

渥美) 怒られる前に何か問題を抱えているはず。表面化した窓になっている部分が居眠りなので、睡眠時間と睡眠のリズムを確認して、うまい事整える必要が無いか確認していただくことが必要ですね。

居眠りは怒る材料ではなく、そこから治療や支援に繋がる材料にしてほしいですね。怠けで寝ていることは絶対にないので、絶対と言っていいほどないです。居眠りしている人のことを見ると怠けていると思います。やる気がない、意欲やる気の問題だと考えてしまいますよね。でもほとんどの場合は、昼間寝ているということは、背景に夜の睡眠に問題があると考えたほうが課題解決につながると思います。

それから睡眠の正常値も知っておいたほうが良いですね。絶対7時間の睡眠は必要なので。7時間寝ていないのであれば、まず7時間の睡眠を確保するために行動しないといけないですね。それでも課題が残るならば何か睡眠の障害がある可能性があるので、そういった場合は専門医に相談したほうが良いと思います。

鈴木) 40分ぐらいの話だったのに、かなり面白かったです。さすがですね。またぜひ別の企画でご一緒できればと思います。本日はありがとうございました。

渥美) こちらこそ。ぜひコラボしましょう。ありがとうございました。

 

渥美 正彦 医師

上島医院 院長。大阪市立大学医学部卒業。大阪警察病院(神経科)国立病院機構やまと精神医療センター(精神科)馬場記念病院(精神内科)近畿大学医学部付属病院(神経内科)を経て平成16年6月より上島医院に入職。平成17年6月より医院併設南大阪睡眠医療センター長。平成22年4月院長就任。

専門領域)精神医学一般、睡眠医学、認知症、神経内科学一般
認定資格)日本精神神経学会認定精神科専門医、日本睡眠学会認定睡眠医療認定医、日本老年精神医学会認定老年精神医学専門医、国際認定睡眠検査技師、米国認定睡眠技師、精神保健指定医

上島医院

こころ・睡眠 総合クリニック(精神科・内科・神経内科・物忘れ・発達検査)
南大阪睡眠医療センター、精神科デイナイトケアセンター、発達障害専門プログラム
最寄り:南海高野線 金剛駅

http://ueshima-iin.com/

シリーズ 医師と語る