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理想の医療とシステムを目指して

vol.7 発達障害クリニック 神尾陽子 医師

シリーズ『医師と語る 現代の発達障害』

神尾 → 発達障害クリニック 神尾陽子 医師
鈴木 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

10年ぶり!?

神尾)10年ぶりでしたっけ?

鈴木)そこまでではないと思いますが、7~8年前ぐらい(※)だと思います。

神尾)ずいぶん発展なされて。

鈴木)ありがとうございます。でも業界大手のリタリコさんやウェルビーさんに比べると10分の一かそれ以下のサイズですね。

神尾)「業界」っていうのね(笑)

鈴木)はい。当社も10年頑張ってきてそれなりに社会や利用者の皆さんに貢献できた部分もあるのですけれども、発達障害の支援が一般的に広がっていく中、当社に何を求められているのか、何をすべきなのか…。質を高めないといけないのはわかるのですが、民間なりの福祉なりの質ってなんだろうと、改めて探ろうと思って、昨年から先生方にインタビューを敢行しています。神尾先生からちょうど開業されるというお知らせを頂いて、図々しいですがお話を聞こうと尋ねさせて頂きました。”開業”で良いんですよね。

神尾)そうですね。社団の方はすでに立ち上げていて、クリニックの方もようやく来月(2019年6月)に開業。本当にようやくっていう感じね。

(※)「最新医学」の企画で、神尾陽子医師、昭和大学附属烏山病院の加藤進昌医師、そして鈴木の3人による鼎談「発達障害に社会はどう向き合うべきか-自閉症スペクトラムとADHDを中心に-」で顔を合わせたのは2013年夏のこと

発達障害が安直に理解されている

鈴木)国立精神・神経医療研究センターは退職されたのですよね。

神尾)昨年(2018年)3月、定年退職です。

鈴木)センター時代は研究の方が割合が高かったんですか?

神尾)はい。研究所なんでほぼ研究。ただ研究と言っても実験室で動物実験をするというような研究ではないので、人を面接したり研究に限定して臨床的な面接をしたり。非常にクローズな診察はしていたんですけれども、一般診療からは遠ざかっていて、退職する一年前から月に2回ぐらい発達障害の専門のクリニックでリハビリみたいに診察していました。そうしたら、凄いびっくりしたんです。

鈴木)というのは?

神尾)患者さんは昔よりも圧倒的に早く若く来られるけれども、特に東京は最近クリニックの数が多すぎるから、患者さんがぐるぐるぐるぐるまわっていて…。すぐ行けるというのはよく聞こえるけれども、「この薬、また違うこの薬」って親御さんも十分わからないまま、あまり説明も聞けないままクリニックに通っている。だから「主治医がいて、定期的に診察されている」と聞くとちゃんと説明を受けているみたいに思うけれども、「何で前にこれを聞いていなかったのか」ということが何度もあるんです。

鈴木)ドクターショッピングみたいなところはありますよね。

神尾)そうなの。発達障害が安直にステレオタイプに広まっていて、ドクターも「発達障害はこの薬」と割と型になっていることが一部にすごくあるように思う。そして何より親もご本人もとにかくきちんと説明を受けていない。それは医療の問題だけでなくて例えば発達検査。私、特別支援学校の高等部の校医をしているんですけれども、「最近の発達検査はありますか?」って言ったら3歳の時という人がほとんど。あるいは検査を受けていてもIQの数値しか知らない。IQの数字だけというのは考えられないでしょ。学校の特別支援学校の先生も3歳の時のIQしか知らないですよ。それで教育できるわけないじゃないですか。

一番なおざりにされているのは親だと思う

鈴木)当社は創業10年。創業当時に比べると今は発達障害についての情報は圧倒的に増えました。でもそれを我が子にどう解釈すればいいかというのはわかっていらっしゃらない方が多いと感じます。先生はどう考えられていますか?

神尾)おっしゃる通りで、発達障害はあまりにも多様。親にしてみたら全体の事なんてどうでもいいですよね。我が子のことを知りたい。でも「うちの子にどの支援が合うのか」という問いには簡単には答えは見つからないですよね。もちろんどういう治療があるかというのは全体を知っておく必要はあるけれども、その時意味があるのは我が子が何を必要としているかということ。

発達障害というのは大きな診断カテゴリーにすぎないし、発達障害でなくても育てづらい子はたくさんいるけれども、発達障害の症状があると育てづらさが際立ちますよね。際立つから発達障害は難しいと思われているけれども、発達障害の症状だけでそこまで悪くは滅多にならない。それ以外の併存症も見ないといけないけれども、本気で併存症の可能性を検査していったら短時間の診察では無理なんです。小さなお子さんは性格と言うか気質というのもすごく関係している。だからアセスメントというのは時間がかかる。そうしたことは今の医療のシステムや診療報酬の体系ではできないんですね。なのでこのクリニックは自由診療のみにしました。そうすると高額になってしまうから一部の人だけのサービスになっちゃうけれども、今度は社団の方を通じて教育とシステムづくり、それを支援するところで幅広く困っている人全体に適切なサービスが届く仕組みを考えていこうと思っています。

鈴木)親向けのサポートもするんですか?

神尾)やっぱり一番なおざりにされているのは親だと思うんです。素晴らしい教えを聞いてもやっぱり我が子にするというのは頭で分かっていてもやるのってそれは難しい。だから個別に心理士の先生達がサポートする中で親御さんに何回かコツを掴んでもらって実際にやれるところまで支援して行こうと思います。お母さんもお父さんもやっぱり誉めて伸ばしていかないと。発達障害のお子さんもそうだけれども親御さんもすごくいっぱい良いところがあるけれども褒められることが少ないんですよ。良いところ伸ばさなかったら悪いところ直す事なんて出来っこないので、良さを見つけるということを大事にしていきたい。今までクリニックって言うと症状を見つけて悪いところを治すって思っていたけれども、小さな子どもからってなるとそれじゃなくてやっぱり全体を理解して良いところを伸ばすようにして環境を整えていくことが大事。最初にちゃんとやると後で症状が出てきても、そのことでめちゃくちゃに困るということは思ったほどないんです。

発達障害クリニック

[画像] 発達障害クリニック ウェブサイトより

羅針盤として予防できることはたくさんある

鈴木)発達障害の人への支援ってどこに本質があるんでしょうか?

神尾)ガンの症状を持ちながらみんな仕事ができるように、対処の仕方があって、それを社会が受け入れたら困難な症状を持っていてもその人にあった場所で力を発揮することができるでしょう。Kaienさんがやっているようなところがどんどん増えてきたら、早めに病院に行って、上司にも発達障害のことを伝えて、みんなも理解して、また職場に戻ろうという気になると思うんです。でも最初に全部がごちゃごちゃになって、本人は怒られて、親もストレスで、という悪循環になると、もう課題に向かっていこうという気力がなくなっちゃう。不登校とか引きこもりもそうですよね。やっぱり予防できることはものすごくたくさんあるなぁと。悪くなってから治療するというのは医療の一般的な姿だけれども、発達障害に関しては発達障害の症状が重くて困るわけではなくて、発達障害がベースにあって併存症などいろいろなことが重なってくるから難しくなる。だからこそ、予防が重要になりますよね。

「今後どういうことが予想されるのか」だけでなく、「予想されるとしたら予防できる手立てがどうなのか」といったことまで伝えていきたい。そういう意味でクリニックのホームページに羅針盤という言葉を乗せたんです。周りと同じようにではなくてその子なりのより良い人生。それぞれの持っているものを発揮できて周りに認められた時ってすごく満足感や自信が出てくる。そうすると心身最高の状態になりますよね。そういう状態になれることがわかれば、課題が見つかった時に多少しんどくても頑張れるでしょう。頑張ったら達成できる、そうした時にみんなに認めてもらえる、ということを小さい時から経験していくことが大事ですよね。その積み重ねが子供達の先の人生に一番役立てると思うんです。

鈴木)大きくなって、なにもないところから、そのエネルギーは出ないなと感じます。

神尾)出ないです。出るはずがないですよね、そもそも発達障害の人は生きづらいなかで相当エネルギーをつかっているから。その中で、子どももどれだけ我慢しているか。我慢に使うエネルギーは外からは見えませんからね。それに、子どもは「助けて」とは言わないけれども、問題行動という形でメッセージを出します。問題行動というのはやっぱり環境との悪循環のなかで大きくなっている。だからこそ問題行動に対応するのではなく、予防が重要と思っています。

私たちは自由診療のクリニックとして、治療のためにずっと患者に来院して頂くというところではなくて、アセスメントもペアレントトレーニングも有限の回数で「今はこういう状態ですね」「こんなことができるようになったんですね!じゃあ、次の目標はこれにしましょう」とお伝えすることで、「家族にとって必要な時に利用して頂く場所」にしていきたいと思います。もちろんその後のご希望があればフォローアップのアセスメントや応用編のペアレントトレーニングも実施しますし、学校の先生ともシェアしてもらうために意見書は書いて、お母さんがうまく説明できない場合はそれを持ってちゃんと説明していける形にしたいですね。もちろん幼児期にうまくいっても、思春期にうまくいかなくなることもあるので、ずっとではないけれども必要に応じて、「羅針盤の調整」ですね。この時期に一緒に対策を作ったらそれでやってみてうまくいった。でもまた別の嵐が来たらまたそこで対応できるようにしていきたいなぁと思っています。

鈴木)ちなみに当社の支援方針の一つで「カーナビ」という言葉を使っていて、羅針盤とすごく似ていると思いました。共感傾聴型のカウンセリングでもなく、コーチング的な本人の内部を引き出すようなアプローチでもなく、若干指示的な構造的なカウンセリングややり取りが発達障害の人には響くなと思っているので。

神尾)わー、似ていますね。枠は必要だと思うんだけれども、加えて情報の整理と組み立てですね。発達障害の人は情報を組み立てながら思考するのが苦手な方が多いですからね。できないわけではないけれど、ごちゃごちゃした情報があるところでは本来の能力が発揮できない。だからこそ、そこは整理を一緒にしていくと、元々備わっていた力が出て色々なことができるようになると思います。人は、誰しも理解されたいし自分でも納得したいものです。これって、人間の本質ですよね。

対象は未就学児から 大人は女性に特化

鈴木)早期発見に力を入れられていることを考えると、対象はやはり小さいお子さんがメインですか?

神尾)クリニックだから発見とはダイレクトにはつながらないと思うんですけれども、早めに支援を受けて何年かして学校に上がる時に知識を持って考えられるように親御さんにも時間が必要だなと思うので、未就学で学校に上がることを考えていく段階の方にはぴったりなクリニックかなと思いますね。でももちろん学校に上がってからも受け入れます。

鈴木)親御さんは混乱されているし。全国から来そうですよね。

神尾)どうかしら。たまたま知り合いのご紹介をいくつか頂いている程度です。なので、私たちのクリニックにご興味を持って頂ける方々のお役に立てればと思っています。また、このクリニックでは大人の方も患者さんとして想定しています。大人で来られる方は自分で「発達障害じゃないかな」と最近のメディアの情報を得て感じている方だと思います。そういった方々は、これまで色々な違和感がありながらも生活してきていて、おそらくそれ以前に鬱病や不安障害といった病気の治療をしていたような人も多いと思います。ですから、「大人の発達障害」という形で成人の精神科外来で診療が行われているクリニックも見かけるようになってきました。私たちのクリニックの現時点での診療では、大人に関しては「女性の診断・相談」に一応限定しています。それは「女性の発達障害の診断」が、とても分かりづらいからです。私にとっても発達障害の診察で一番難しいのは大人の女性です。ですから、「発達障害専門クリニック」を謳う以上は「女性の診断」は「うちでしかできないこと」という風に思っています。ところで、男性は絶対お断りというわけではなくて、セカンドオピニオン外来という形で対応しようと思っています。

発達障害クリニック

[画像] 発達障害クリニック ウェブサイトより

システムを変えないと理想の支援はできない

鈴木)クリニックだけではなくて、社団法人もありますよね。こちらはどういう目的なんですか?

神尾)前職では研究を通して社会に実装するということを目指してきました。一部は診療報酬になったり、母子手帳になったりしたのですけれども、それでもあんまり社会って変わらないのよね。発達障害の適切な認知は広がったけれども、理想的なものはできていない。何で皆しないのかといったら、それはしにくい状況があるから。具体的にはシステムが整っていないんです。特に発達障害の特性とは一生付き合い続けなければいけないものです。だから支援が途切れては意味がないので、継続するための「システム」が必要なんです。今ビジョンをもって長期的に動いている自治体もいくつかあるけれども、自治体が発達障害の支援のガイドラインを作って、質をしっかりコントロールしているかと言うとほとんどそれはない。本当にゆっくりしか進まなくて…。非常に効率悪いなぁっていうのがあるから、しっかり私達が入って本気でやっていこうと。ある自治体が取り入れたら隣の行政単位も真似したくなるというのが行政の心理らしいので、すごくうまくいく成功例を作りたいなって思っています。

今は個人がスキルを持ったところでシステムがないと忙しくて出来ないでしょ。支援者が勉強したいとしても業務がそうなっていないと仕事に活かすことは難しいですよね。だから業務にしないといけないということでシステムを変えないといけない。システムになったら否が応でも全員するし中にはすごくお上手な方も出てくると思う。だから持続可能なシステムが重要です。

鈴木)どんなプロジェクトなんですか?

神尾)一つの例は、練馬区なんですけれども、とりあえず一歳半健診にどの人がやってもわかるエビデンスのあるアセスメントを入れていこうと。もちろん発見だけで終わるわけではないからその後どうやってつなぐかというのも次の事業でしていこうと思っています。練馬区は、子どもの問題はどこかに投げるんではなくって全部自分たちの共有の問題だという認識があるので本気だなと。

鈴木)どこかに投げるというと?

神尾)例えば児相(児童相談所)を作ると困難ケースが全部児相任せになるから、他のみんなが関わらなくなる。なので例えば保健所だったり保育所だったりという子どもが日々の生活の場で関わっている人がケアに参加出来るようにしたいんだそうです。児相だけに任せちゃうとあっという間にパンパンになって、機能が発揮できなくなってしまう。地域で自分たちが子どもの成長を見ていたら良くなるというのがわかると、自分たちが関係を切っちゃいけないと思うはずなんです。自閉症の発見率を上げるということは目標ではなくって、目標はもうちょっと先。学校に上がるまでに支援を受けている人の割合が増えるというのを目指そうと思っています。

それと社団の方では研修の依頼も受けようと思っています。自治体によっては、発達障害の超専門家でなくても、例えば幼稚園の先生だったり学校の先生だったりでも、発達障害の理解と支援ができるように変えていかなければという行政もある。そうした自治体を行政単位でお引き受けして、単なる知識の伝達的な講習だけではなく、具体的な事例検討に参加していただく形での研修を通じてサポートさせていただこうと思っています。発達障害の研修ってどこも人気だって言うんだけれども役に立っているかと言うと怪しい。分かった気になって終わってしまうのは20年前の話にしたい。

発達障害クリニック

Kaienが進化するために

鈴木)当社は専門家もいますが相当数のスタッフは入社当時は支援素人。どういう価値を出すべきでしょうか?

神尾)民間で発達障害の就職につながる支援を立ち上げられたのは本当に素晴らしいと思うんですね。だって行政を待っていられないですから。そして実際に実績をあげていらっしゃるし、私の患者さんのご家族もすごく助かったって言ってらっしゃる方もいる。最初に鈴木さんは専門職ではない有資格者ではないとおっしゃったじゃないですか。でも逆に言えば今の資格がどれだけ特化しているかというと疑問ですし、経験が邪魔している場合もあるので、資格がないことが支援にものすごくダメージとは思わない。

鈴木)私は発達障害の当事者の状態を水彩画のようにイメージしています。いろいろな色が重なって症状はすごく混ざった色として出てきていてそれを読み解くのがなかなか難しいと思うんですね。みんなにできるわけではないので、素人からどう専門性を高めるべきかと日々悩みます。

神尾)水彩画、なるほどねー。水彩画の色を解きほぐしていく。やっぱり問題意識がそこにあれば後はどうやったらできるかっていう手段の話になるんじゃないかしら。既に組織内に経験が積み重なっているから、本当に生きた知識があれば理解が進むと思うんですね。人によっては、頭でっかちで、ケース見たら「ADHD だからこうだってね」っていうような、型にはまった支援をしてしまう。それは資格がどうこうではなくて支援側の意識ですよね。グレーになった水彩画を解きほぐして、だんだん色を鮮やかにしていくっていうのは今の専門資格だけでは保証されない支援ですよ。

それには、Kaienさんの独自のニーズにあった社員研修を企業でされるのが良いのではないかなって思います。一つのモデルになるんじゃないかしら。どこにもないところから始められた。専門性がないから、経験者ではないからこそ、見えてくるところもあった。だけれどもこれからどうしようというところでの研修ですからね。それと今までの経験を振り返って見直す研究マインドもいるかな。本読むだけではなくて、自分たちのケースをちゃんとカンファレンスで検討していく形で。

鈴木)先生は研修を上手なんだろうなぁと。

神尾)いやいや。でもアイデアだけはあるかな。日本の支援で何かが足りないというのを、前職の立場だとずっとイライラしていて見ていた部分もあったので、今は民間になったことですし自由に発信していこうと思っています。

神尾 陽子 医師

児童精神科医、医学博士
一般社団法人 発達障害専門センター 代表理事
国立大学法人 お茶の水女子大学 客員教授
日本学術会議第二部会員、臨床医学委員会委員長
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 客員研究員
国際自閉症学会誌 Autism Research 編集委員
日本発達障害学会 理事、常任編集委員

発達障害クリニック

最寄り:JR新日本橋駅、JR神田駅、東京メトロ三越前駅、東京メトロ大手町駅
■発達障害に関する総合的なアセスメント・診断
■各種検査(ADOS-2、K-SADS-PL、新版K式発達検査、ウェクスラー知能検査等)
■心理カウンセリング
■ペアレントトレーニング
■セカンドオピニオン
(いずれも自由診療となります)
https://ddclinic.jp/リンク

一般社団法人 発達障害専門センター

■発達障害児者支援に必要な対応力向上を図る研修プログラム
■発達障害児者支援に関連した調査研究事業
■発達障害児者支援システムの社会実装支援事業
http://asd-dd.jpリンク

 

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