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ボクの自学ノートを観て

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昨夜、大阪出張中のホテルで、NHKの番組を見ました。「ボクの自学ノート」という番組です。

とても考えさせられました。

もちろん「ボク(明日佳くん)」も良かったけれども、家族も、周囲の大人も素晴らしい。また番組制作者の意図(はじめは賞を総なめにしている少年の話だと思ったら、個の話から、テーマが学校や友達など集団の話、そして社会や仕事などの話に自然に遷移している)が明確かつ考えさせられる構成でした。

どうやらすでにBSスペシャルで放送され、その後反響の大きさから昨年NHKスペシャルで放送されていたとのこと。なので私が見た回は少なくとも再々放送です。みなさんも既にご覧になった方も多いと思いますが、感想を書いていきたいと思います。

番組サイト → NHKスペシャル ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~

番組説明 → 自らテーマを見つけて学ぶ「自学」を小3~中3までの7年間、人知れず続けた少年の記録。昨年の「子どもノンフィクション文学賞」大賞作を基に描くドキュメンタリー。リリー・フランキーやノンフィクション作家の最相葉月が称賛する中3男子の作文が密かな話題を呼んでいる。昨年の「子どもノンフィクション文学賞」で大賞に輝いた、北九州市在住の梅田明日佳くんの作文だ。なぜ、彼は「自学」を人知れず続けたのか。彼に起きた数々の“奇跡”とは──。地域の大人との交流を通して成長した7年間の軌跡を彼の「自学ノート」から紐解く。

ボクの自学ノート

NHK番組サイトより

レッテルはなく等身大の少年が描かれる

番組は毎年賞を受賞し続ける明日佳くんの自宅マンションを訪ねるところから始まります。

「どういう子なんだろう」。ドアを開ける瞬間、視聴者は思うと思います。私もそういう気持ちで見始めました。もちろん毎年『子どもノンフィクション文学賞』に応募し受賞を続けている、自学というノートを何年もつけ続けているという情報だけで、かなり変わった子だろうなと言う予想は付きます。

冒頭のいくつかのカットを観ただけで、「ああ、そういうこと」と思いました。ピュアな(換言するとやや幼い)瞳、定まらない目線、書き言葉を文字起こししたような喋り(リリー・フランキーさんは「腹話術みたい」と言ったそうです)、カクカクした上半身の動き、ノートを取り出すぎこちなさ、壁一面にあるプラモデルの箱…。普段特性のある子と接することがとても多いので、そのあたりの仮説は勝手にたててしまう悪い癖がテレビを見ていても出てしまいます。

しかし「そういうこと」に対応する、つまり当社がテーマとする”具体的なワード”は番組では触れられません。もちろん全国区の賞を何度も受賞するような少年なので、社会に十二分に適応していると言えますから、レッテルを貼る必要はない。

明日佳くんは等身大の、少し、いや、だいぶ変わった、でも周囲(家族はもちろん、自学ノートの取材の中で知り合った世の中の錚々たる大人たち)に愛され、気にかけられる少年として、描かれていきます。ただ、番組後半で徐々に、本人や周囲の悩み・生きづらさ、そして学校や社会にむけての問題提起が「そういうこと」に関連しています。

「昔から明日佳みたいな人はいたはず」

徐々に番組は明日佳くんとお母様の内面を語りだします。また同級生なども含めて、明日佳くんがどう見えているかが描かれていきます。

「人の10倍かかって書いている」「作文や美術はいつも居残り」「部活には入っていない。ダッシュで帰る」「いつも一人」「クラスメートと話しているところは一回も見たことがない」など周囲とのズレや、学校における集団行動での違和感が語られます。(なおコメントは私の記憶ベースなので完璧に一致はしていません。)

なにしろ賞を受賞したことは、同級生はまったく知らない。気づいていない。予想だにしていない。それだけクラスで孤立しているのです。

特に印象的だったのは、学校で「社会に出るには効率が必要」とアドバイスされ、明日佳くんも「本当にその通りだと思いました」と語っているシーンです。そうした息子を見ながら母親も「学校で必要とされるのはリーダーシップ、積極性、コミュニケーション…。明日佳はそういうのが全部できない。」や、「昔から明日佳みたいな人はいたはず。そういった人は生きてきた。今の時代はどうなのか」というシーンも印象的でした。

明日佳くんやご家族にあったら、個性を伸ばそう! で終われる自信はない

「スピード」「コミュニケーション」「効率化」「集団適応」で悩む明日佳くん。

家や学校だけで人生が無事終わるならば、自分も明日佳くんが楽しく生きていけば良いんじゃないか、と言うだけで接することが出来ると思います。

しかし、周囲も「自分が親だったら気になる」という発言がありましたし、お母様自身も途中涙を流して不安や葛藤を話される。「今のまま育って、充実した人生をおくれればそれで良い。でも社会がもっと変わって欲しいが、そうはなってくれていない。また社会が変わったとしても、今のまま育って本当に大丈夫なのか…。」そういった親としてごく自然な想いが、言葉や表情から溢れていました。

支援者として、親として。自分はどう言葉をかけるだろうか…。やはり企業や社会の歯車として動くことが多分に求められる大人世界の厳しさを日々味わっている身としては、自分も学校の先生のように「社会に出るには効率も覚えよう」とアドバイスするのではないか。答えはないですが、果敢に現実に向かい、純粋にそれを見事に表現する親子に、日々接する様々な利用者・家族を重ねて観ていたと思います。

社内で時々言うのが、「人を支援するということは本来神にしか出来ないことを、不十分な我々人間がさせていただいていること。大層な役割を任せていただいていることを肝に銘じ、支援させていただく機会にありがたさを感じながら、働いてほしい」というものなのですが、このドキュメンタリーを観て、改めて心に刻みこみました。

集団⇔個人 効率⇔あるがまま

番組が終わった後に、ふと思い出したのが夏目漱石の「草枕」。「草枕」の読後感と、ドキュメンタリーの視聴後の印象が似ていたのだと思います。

「草枕」は、芸術論としても、西洋と東洋の対比としても、読めるらしいですが、自分としては「集団 対 個人」や「効率 対 あるがまま」の近代と現代の間で個人が社会と葛藤する様子を書いているのではないかと思っています。

近代国家。民族主義。イデオロギー。均一性。そういったキーワードが揺れ動く中の漱石も感じたことを、このドキュメンタリーで語る明日佳くんも感じているし、それに共感しているのが自分なのだろうなぁということですね。ちなみに、夏目漱石「草枕」のラストの部分を書き出すとこんな感じです。

//ここから///

 いよいよ現実世界へ引きずり出された。汽車の見える所を現実世界と云う。汽車ほど二十世紀の文明を代表するものはあるまい。何百と云う人間を同じ箱へ詰めて轟と通る。情容赦はない。詰め込まれた人間は皆同程度の速力で、同一の停車場へとまってそうして、同様に蒸氣の恩沢に浴さねばならぬ。人は汽車へ乗ると云う。余は積み込まれると云う。人は汽車で行くと云う。余は運搬されると云う。汽車ほど個性を軽蔑したものはない。文明はあらゆる限りの手段をつくして、個性を発達せしめたる後、あらゆる限りの方法によってこの個性を踏み付けようとする。一人前何坪何合かの地面を与えて、この地面のうちでは寝るとも起きるとも勝手にせよと云うのが現今の文明である。同時にこの何坪何合の周囲に鉄柵を設けて、これよりさきへは一歩も出てはならぬぞと威嚇かすのが現今の文明である。何坪何合のうちで自由を擅(ほしいまま)にしたものが、この鉄柵外にも自由を擅にしたくなるのは自然の勢である。憐むべき文明の国民は日夜にこの鉄柵に噛みついて咆哮している。文明は個人に自由を与えて虎のごとく猛からしめたる後、これを檻穽(かんせい)の内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある。この平和は真の平和ではない。動物園の虎が見物人を睨めて、寝転んでいると同様な平和である。檻の鉄棒が一本でも抜けたら――世はめちゃめちゃになる。(中略)余は汽車の猛烈に、見界(みさかい)なく、すべての人を貨物同様に心得て走る様を見るたびに、客車のうちに閉じ籠められたる個人と、個人の個性に寸毫の注意をだに払わざるこの鉄車とを比較して、――あぶない、あぶない。気をつけねばあぶないと思う。現代の文明はこのあぶないで鼻を衝かれるくらい充満している。おさき真闇(まっくら)に盲動する汽車はあぶない標本の一つである

//ここまで//

因みに

自分は漱石は高校生の頃から好きなのですが「草枕」は読もうとしたことが有りませんでした。難しいですからね…。しかし、今も迷った時によく聞くピアニストのグレン・グールドが日々持ち歩いていた心の書だったのが「草枕」と聞いて、初めて読んでその独特の雰囲気に惹かれたのです。

そしてグールドは下記の記事のように特性持ちと考えられると思います。

なんだか、よくわからないつながりだと思いますが…

まとめると、自分として、このドキュメンタリーは、支援者としての仕事の面白さや難しさを再確認したり、親としての立場に共感したり、これまで惹かれてきた漱石やグールドへの親近感を思い出したり、様々な次元のものが磁石のようにくっついて感じられた大変良いドキュメンタリーでした。みなさんもぜひNHKオンデマンドから観てください。

Kaien社長ブログ(2012年1月2日)から

発達障害丁々発止6 『発達障害天才説 ピアニスト グレン・グールドの場合』

 

 

文責: 鈴木慶太 ㈱Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。放課後等デイサービス TEENS大学生向けの就活サークル ガクプロ就労移行支援 Kaien の立ち上げを通じて、これまで1,000人以上の発達障害の人たちの就職支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等への登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。文科省の第1・2回障害のある学生の修学支援に関する検討会委員。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)。東京大学経済学部卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA)。星槎大学共生科学部 特任教授 。 代表メッセージ ・ メディア掲載歴