「わたしたち」であることを目指して③

vol.11-3 明神下診療所 米田衆介 医師
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シリーズ『医師と語る 現代の発達障害』

米田 → 明神下診療所 診療所長 米田 衆介
鈴木 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

~~~ 米田先生へのインタビューは3回シリーズ 前回②では「文化的な土壌に根ざした療法にヒントがある」「高機能と境界域」「自閉スペクトラムの困難性」について伺います ~~~

発達障害*を診る医師は増えたけど…良質な医療を広げるために

鈴木)医療の世界でも社会全体でも発達障害という言葉が溢れている気がします。

米田)精神科では、最近は「(発達障害を)診るよ」と言うところが増えてありがたいことですけれどもね。

鈴木)そんなに困った流れにはなっていない?

米田)それはわからない。

鈴木)色々あるんですよ。それこそ、昨日、○○メンタルクリニックの悪口をさんざん言っていたのですけれども…

米田)これはオフレコだろうけどどうぞ。

鈴木)そのクリニックをコンビニ的に使うのは良いと思うのですよね。

米田)ええ。使っている人いるみたい。

鈴木)だけど、しっかり診てもらうなら転院したほうが良いですよと言うのですけれども、分かってくれない。何故なのでしょうか?

米田)それは分からないのも当然だよね。

鈴木)あと○○クリニック東京というのがあるんですよ。画像で発達障害が分かるとか…。

米田)へへへ、でちゃったな。

鈴木)分かりやすい文句に釣られやすい人が発達障害には多いですよね。医療でもいろいろなビジネスが出てくるなと。

米田)それはかなり大切な問題かもしれないですよね。そもそも患者さんが医者を選ぶというのは難しいですよ。親切ならよいというものでもないしね。精神科に限らず、ユーザーが自分だけで専門的なサービスの質を判断するのってちょっと難しいのかもしれない。

鈴木)大変だと思いますよ。情報の非対称性ですよね。

米田)武術武道でも師匠を選ぶのが難しいと言いますものね。師匠選びに成功したら8割方は道に達したも同然だという人もいますからね。その時点で誰でもド素人なわけですから、そういう素人の自分が師匠を探す旅に出たといっても、そこはご縁で選ぶしかないですよね。はじめは自分には分からないわけですからね。

鈴木)医療だけではなく、福祉も一緒で、脱毛サロンやエステみたいな感じで…過大広告的です。

米田)チェーンでガンガン新しい事業所を作っているところが一杯あるけれども、Kaienさんほど真剣に考えているかどうかというのは分からないよね。

鈴木)そうなのです。

米田)ようするにコンシューマーは提供されているサービスの質の判断が出来ないという事情があるから、その結果、市場原理が正常には機能しない。だから、医療や福祉は市場原理でやれないよというのはみんなが言ったほうが良いと思いますね。市場原理で質が向上する分野ではないんですよ。

鈴木)先生自体はどういう風にしようと思っているのですか?労働集約的で展開をするしかないのでしょうか。お弟子さんを取るとか仲間を作るとか。

米田)仲間を作るのが筋だとは思うけれども、あちらにひとり、こちらにひとりとお互いに信頼できる先生はいるんだけど、業界の体質なのか僕の性格が悪いのか、あまり増えないですね。仲間が増えていければそれが一番良いけれども、でも発達障害の精神医学の場合には、大学の医学部精神医学教室の正教授ポストで発達障害の専門家って少ないですからね。
研修医の教育はその人たちがするので、発達障害の専門家が増える道理がないよね。仕方がないことですけど、教授は自然と弟子を自分の専門のほうに育てようとしますからね。これは悪いことでも何でもなくて、自分が教えられるのはそれなんだから当然の結果なので。でも、精神医学教室の教授に発達の専門家がいないから、発達の専門家がほとんど育たないわけです。これはもう誰の責任でもなくて構造的に。

米田先生からKaienへのアドバイス① 生活訓練を集団体験の場に

米田)今日はKaienさんの話を聞きに来たというのもあるのですけれども。

鈴木)じゃあ悩みを聞いてください。自立訓練(生活訓練)が悩んでいるのですよね。ここは私があまりタッチせずに作ってきたんですけれど。

米田)生活訓練で何をするかは難しいですよね。

鈴木)難しいです。結局「どうやってお金を管理をしましょう」かとなっちゃうので…。レクチャーになっていて、エンゲージメント(参加感)が弱いんですよ。

米田)レクチャーをするというのはね、発達障害支援をするときに、みんなが陥っちゃうダメなところですよね。講義形式だと被支援者が効力感を得やすいから、食いつきは良いんだけれども。正直役立たないですよ。行動変わらないしね。

鈴木)ですよね。

米田)言葉だけ増えて益々混乱する。森田療法が良いと言ったのは、生活の中で、ご飯を作ったり、薪を割ったり、風呂を沸いたり、の生活の目的を果たしていたのです。行動が緻密に組み合わさっている中で協力する体験をしていく。そこは物が制約しているから言語はたいして介在しないのですよ。薪というものはこうなんですとか知識で言って頭で考えても、言葉でいくら言っても燃えないわけですから。実際に手を動かしてやってみるしかない。その協働体験が一番大切です。結局就職できたひとは、そういう体験を広げて他の集団にも応用して、そうやって職場に適応していくように見えますね。Kaienの生活訓練もそういう体験が出来るようできたら良いでしょうね。

鈴木)たしかに全員じゃないですけれども、就労移行支援の修了生はKaienを卒業したという母校のイメージがあります。それを生活訓練にも取り入れる感じですね。

米田)そう、上手くいっている人はコミュニティのメンバーとして自分を把握していくものですよね。

鈴木)そうなんです。

米田)「われわれ」というように思って、この「われわれ」という感覚を1か所でも作れれば、われわれというのはこういうことねと、他のところでもわれわれになれる。この「われわれ」になっているひとを、われわれである健常者は攻撃できないですから。患者さんは、すぐに「私とあなた」になっちゃうから。そうなったら、何か失敗したら集団の中ですぐに攻撃をうけやすい。現実の社会集団というのは、そういう困った面があって、それは社会を成立させるためにずっと昔から社会集団の文化に組み込まれてしまっている性質だから、そうでない社会というのは考えにくい。

鈴木)就労移行支援は自分がすべてのところで卵からふ化させて、自分の体臭をくっつけた感じがするんですけれども、生活訓練はしていないですよね。ある意味わざとなのですが…。

米田)鈴木さんがやらないならば鈴木さんの代わりにそれができる人がいないと。支援というのは人間依存なのよ。科学じゃないのですよね。さっき師匠から弟子に代々受け継がれるという話をしたけれども。まさにそれだから、最初に師匠をする人を連れてこないといけないですね。それに、今のままだと生活訓練は就労移行支援に次ぐ、企業的な事業所の営利的事業の草刈り場になるから。そうすると、ただ障害者を4年間囲い込むだけの無意味な事業になって、結局は国家予算の無駄遣いになってしまいますから。Kaienみたいに、発達障害とはなにかということを真面目に考える事業所が頑張ってほしいですね。

米田先生からKaienへのアドバイス② ミッテルでのデータをどう利活用するか?

鈴木)あとはミッテル。どこに限界がありそうかとか教えてもらえますか。ミッテルでは、色々な生活を記録して、そうしたデータをどうやって生かそうかと考えているのですが。

米田)ビッグデータというけれども、世間もそろそろすっかり熱が冷めてきたような。ビッグデータは使えないということになっちゃったからでしょうね。着地点を考えないで集めたデータは使えないということなんですよ。

鈴木)そうなんですよ。

米田)このデータをどう使うかを考えたうえで。設計していくということですね。ただ集めただけではゴミの山になってかえって混乱するだけなんですよね。鈴木さんがそれを通じて何を実現したいのかですよね。

鈴木)本当は就活というフェーズを無くすぐらい、適職を診断できるとよいとは思うのです。

米田)テクノロジーが10年程度だと追いつかないのではないでしょうか。20年後にようやく解決可能になっているかもしれないけど。さっき言ったように就活や適した職場をデータ化しようと思っても、意味の世界が介在してくるので、今のところ意味の世界を操れるのはまだ人間だけ、機械学習ではちょっと難しい。とくに、Yes/Noで答えられるタイプの白黒はっきりしたデータはかえって役に立たない。曖昧な情報のなかに宝が隠されていると思いますね。

そういう意味では、スタッフが教育される仕組みを作ったらどうなんでしょうかね。鈴木さんの知識とかノウハウとかがデータを使って整理されて、ケースごとに関連性の高いものがサジェストされるとか。それでスタッフが教育されて、スタッフが気づける。スタッフが思いつかないことを提案してくれるようになったらそれはいいことなのかもしれない。例えばこういう人を見たら鈴木さんだったらこう支援するなと。

鈴木)やっぱりそっちかな。

米田)そっちだったら凄い役立つし、凄い画期的なテクノロジーですよね。それが作れるなら僕はKaienの株を買いますよ(笑)。いやそれは冗談だけど、それが出来たらえらいことですよ。こんな作りたいというのが明確にあれば。こう見えても鈴木さんファンだから。手伝いますよ。

鈴木)上手くいくかわからないですけれども。ようやくこれをしたいのだというのがミッテルを作っていく中で自分で見えてきそうなので頑張ろうかなと。

米田)それは良かったですね。そういう風にして会社として成長していくとよいですね。(完)

 

シリーズ① 「ネットだけだと支援にならない訳」・「陥りやすい思い込み ”本音が存在する” 」・「もう一つの思い込み ”言葉で何でも説明できる” 」
シリーズ② 「文化的な土壌に根ざした療法にヒントがある」「高機能と境界域」「自閉スペクトラムの困難性」

 

明神下診療所 診療所長 米田 衆介

東大病院精神神経科医局、都立松沢病院を経て、2001年より、明神下診療所にて小児および成人の発達障害を主な対象として精神医療に従事。

明神下診療所

診療科目:神経科・精神科(専門外来として小児精神科外来あり)
最寄り:東京メトロ銀座線 末広町駅、東京メトロ千代田線・湯島駅、東京メトロ日比谷線・仲御徒町駅、都営地下鉄大江戸線・上野御徒町駅、JR御徒町駅、JR秋葉原駅
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3B実用芸術研究所

種類:就労継続支援B型事業所
理念:生きるために必要なものを美しく作る
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シリーズ 医師と語る

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます