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療育は親へのエンパワメント

vol.6-1 横浜ハビリテーションクリニック 日原信彦 医師

シリーズ『医師と語る 現代の発達障害』

後編「療育を受けた大人の発達障害 成人後に気づいた発達障害」はこちら

日原 → 横浜ハビリテーションクリニック 日原信彦 医師
鈴木 → 株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

「でもリハ」 医師としての役割葛藤

鈴木) 療育医になりたかったのは何かきっかけがあるんですか。

日原) 僕はもともと僻地医療をやりたくて医学部に入ったんです。高校時代は児童養護施設や養護学校などのボランティアをしていて、大学では、手話を始めたことを機に、聴覚障害の学生や彼らを支援する学生たちと共に授業の通訳活動にのめり込むようになりました。そこには障害を持つ子どもに目を向けている人がすごく多かったんです。自分の元々の志向と大学で出会った人たちの話がミックスして、4年生ぐらいから僻地医療から障害児医療に志向が変わったということです。

鈴木) すぐによこはま発達クリニックで働き始められたのですか?

日原) いえ。僕は1988年卒ですが、よこはま発達クリニックに僕がレジデントで入ったのは2001年でした。卒業を控えた6年生の時、療育医になるために、どこで研修したらいいのかわからなかった。研修できる医療機関を教えて欲しいと指導教官に頼んでいくつか行ったんだけれども、どこも納得いくものではなかったんです。

大学時代、入局していたリハビリ科は何をやってはいけないという制限がないところで、当然、小児の分野もあったので、まずは他科から診療依頼がくる様々なお子さんを診ましたね。脳性麻痺が多かったのですが、診断はついてなくて、言葉の遅れや行動が何だか広がらない子どもも少なくはなかった。そうして8年目ぐらいかな。小児発達外来を作らせてもらったんです。

医者は、治療手段のない、治すことができないものには、ものすごく役割葛藤を感じる職種だと思うんです。障害のある子どもを治す手段って、なかなか難しい。治せないとなると、「リハ」ビリ「でも」させようという感じになるのでしょうか?遅れているところをトレーニングでもしてもらうという感じで、僕は他科からの依頼を受けていました。20年以上前の当時、発達の遅れの原因も診断も何もわからないままでリハビリ科に紹介されてくる。ただ遅れているところをトレーニングすれば良いというものではないと、ずっと感じていました。なので、それを皮肉って、僕の中では「でもリハ」って呼んでいました。

発達障害圏の人たちって学校の先生達が戸惑うように、リハビリ科の医師であった僕も同じように戸惑いました。どうすればよいのと。

鈴木) 色々もがいていらした時期があったと。

日原) はい。僕も医者としての役割葛藤をすごく感じるようになったというわけです。親は子育てや生活への助言を求めてこられる。でも自分の発言がその時その時の自分の思いつきだったりとか優しさだったりとか、 そういうもので助言をするので一貫性がないんですよ。

鈴木) 模索されているということかもしれないですけれども。

日原) それを臨床現場で出していいのかと、最前線にいる人間がそんな根拠のないことを言っていいのかそういう葛藤がすごく強かったですね。そこが分からないまま大学病院にいてもダメだと。そこを導いてくれるような先輩や指導者が残念ながらいなかったし、それでどこに行けばいいんだろうということで自分の業績などを携えて、自分がトレーニングを受けられるところを探しまわったんです。ようやく見つけたのが、よこはま発達クリニックだったということですね。発達クリニックでは、とても濃密な研修を経験することができ、医者としての役割意識が広がっていきました。その後、療育センターの所長になって8年過ごし、ここ(横浜ハビリテーションクリニック)を立ち上げたんです。

療育は親へのエンパワメントでもある

鈴木) ここ最近、発達障害という言葉が一般的になってきました。なにか変化を感じていらっしゃいますか?

日原) 僕の中ではそんなに変わっていないですね。(よこはま発達クリニックの)内山先生・吉田先生のところで受けたトレーニングの中味は、現在まで変わることなく支援の考え方の根底にあります。診断基準の文言に当てはまるかというよりも、いかに特性の本質を見ていくかという点から発達障害に触れることができました。その視点で子ども達をずっと見ることができているんです。 一緒に働く心理士たちと、構造化の意味って何だろうと言うか、時間や空間の構造化をしていくこととか、どういう効果がある療育なんだろうとか、そういう疑問を観察して、子ども達の反応の結果から学ぶというのは変わらないですね。自分が療育センターで診断した子どもたちが就職し仕事を持つぐらいの年齢に変わってきて、療育の科学的な意味合いを実感できるようになってきたと思います。自分で確認してきたプロセスの結果が実証的に捉えられるようになってきました。

鈴木) なるほど。

日原) 親も変化し成長されていると感じますね。発達障害の人たちは高次脳機能の、ある何らかの特徴を持っている人たちだと思いますから、認知科学的に診てあげないといけないですね。リハビリテーション科で高次脳機能障害の人たちの診療を行う時と結構近い見方で発達障害を捉えています。ですから発達障害の子どもへの療育というのは、福祉というよりも科学的営みであると考えることができるのです。

でも科学的なアプローチなんだって理解してもらわないとなんで療育が必要なのか分かりづらいんですよ。療育に触れたばっかりの親御さん達は、なんでこんなことをしているのかわからないと、混乱されることが多いと思います。そんな時に、丁寧に根拠の説明をして、親の動機づけをしっかりと療育に向けてもらうと言うか、それがいわゆる特性を理解してもらうということにつながっていると思っています。

子どもたちが中学生や高校生になって色々な情報の中で混乱した時に、そういう素地を持たれた親御さん達は、まず自分の意見を持ってクリニックに来られるようになっているんですよ。私がこれまで学んできたこととか見てきたこととか、こういう特徴にこういう環境が良いんじゃないかとか、 ここはしてはいけないんじゃないかとかね。そういう親御さんなりの考え方を持ってきてくれる。そうすると僕は「それでいいよ」と言ってあげられる。親が子どもの特性から学んだものを生かして、子どもへの選択肢を作れた時点で、すごく子どもが救われているという現実があることに気づけるようになりました。

鈴木) なるほど。10年・20年をかけた親へのエンパワメントですね。

日原) はい、そうです。でもそれは感情ではなくて、きちんとした根拠を持って存在しているということですね。

療育って難しい?

鈴木) ただし、TEACCHのキーワードの一つである構造化は、支援者側に知性・論理性が求められると思っています。支援者でも親でも、そういった論理力を持った人ばかりではないなと思っているんです。むしろ少数かもしれません。それ以外の人にはどういう風に構造化を伝えていけばよいか悩んでいます。当社の社員に向けてもそれを伝え続けるというか、一緒に考え続けるというか、そういう日々の連続です。

日原) そこは確かに僕も難しいなと思ってます。親が欲しいのは途中経過よりも子どもが変わったという結果なんですよね。なので僅かであっても変わった結果を軸に伝えていく。例えば、子どもが変わったと親が実感した時に、「親御さんの言葉でこういう風に変わってきましたよね」とか「それはこういうプロセスでこういう風に変わってきていませんでしたか」というように具体的に変化していく子どもの言葉や行動を軸にしながら、親の記憶を繋いでいくことを、何度も、何度もします。そういうつながりを重ねていくと、なんとなくですが親も子どもが変化するために関わった要因(環境や構造)を感じて下さる。親が自分で意識的に構造化を組み立てられてなくても、そういうふうに変わってこられたんだねという感覚ですね。

鈴木) 論理と言うよりも経験とか感覚で、療育が意味あることだとわかってもらうと。

日原) そうです。

鈴木) わかりました。お話聞きながら感じたのですが、 環境と言う言葉の持つ意味の深さというのが自分が思っていた以上にあるな、と感じました。たとえば先ほどの環境というのが親の考え方というのも含まれるのかなと思ったんですが。

日原) そうですね。深いですよ。プラスの面以外にも親の考え方の中には偏見というのを受け継いでいる場合もあるから、それは社会的不利の一部としても考えられますからね。

修正が効きづらいからこそ 小さい頃から大人の世界感を

鈴木) 親として普通になってほしいというニーズもある人もいます。

日原) 定型発達に近づきますかというニーズは確かにあります。それを否定するつもりは全くないのですが、定型発達になるような訓練とか教育方法とかが今立証されているわけではないです。子どもが自然と手を伸ばし経験を積める環境を、いかに論理的に作っていけるか作っていけばいいのか、ということを僕は伝えたいのです。

鈴木) はい。

日原) 発達障害の子は定型発達のスタイルとは違う神経成熟のプロセスがあるのでしょう。ですから定型発達をなぞらえた機能を伸ばすために教育や子育てをするわけではなく、子どもが混乱しない環境を作って、自然に興味のあるものに手を伸ばす気持ちにする。子どもがいきいきと色々な経験をすることで、神経成熟がその子なりに発達していけばいい。

鈴木) なるほど。

日原) 自分だけでは修正が効きにくい発達障害の人たちに就学前に教えていることは、実は大人でも学んでいいことを教えているとも考えられます。子どもだからこの辺でいいとか、子どもだからまだこれぐらいでいいとかではなくて、修正がきかないからこそ、大人でやるべきことを子どもに受け入れられる形にはしながらも、ちゃんと伝える。そういうことをきちんとコンパクトに作ることが療育だろうと思えるようになってきました。それは時間や場所の構造に、どのぐらいの情報を入れたらいいかということも、社会性の弱い子ども達をいきなり集団に入れていいかどうかということも、全部その子の認知発達に基づいて考えていけばいいというのがわかってきたんですね。

前編 療育は親へのエンパワメント
後編 療育を受けた大人の発達障害 成人後に気づいた発達障害

日原 信彦 医師

日本精神神経学会 精神科専門医
日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医
精神保健指定医
身体障害者福祉法指定医(肢体不自由・音声言語・咀しゃく嚥下障害)
厚生労働省 義肢装具等適合判定医師研修終了
東海大学医学部非常勤講師
元横浜市東部地域療育センター所長

横浜ハビリテーションクリニック

児童精神科・リハビリテーション科・心療内科・小児科
最寄り JR鶴見駅・京急鶴見駅
■発達障害の特性評価と特性診断
■療育に関する心理指導、カウンセリング
■補装具診療(下肢装具、座位保持装置、車椅子 など)
■精神科薬物療法(気分の不調、不安、多動などに対して)
■ご家族の健康相談やメンタルヘルス診療
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